私にも思春期の娘が二人います。上の子は、高校1年生。「痴漢抑止バッジ」を考案した娘さんと同い年です。もし、自分の娘が痴漢という性犯罪の被害者になってしまったら……。親として、考えただけで胸が痛みます。
けれど、痴漢被害にあいたくないからといって、電車に乗らない、学校に行かないというわけにはいきません。警察やJRも無策ではないでしょうが、痴漢行為を防げずにいるのが現状です。そこで考案されたのが、このバッジです。
ポイントは、加害者に何を伝え、どう感じてもらい、考えさせるのか。それが大切になります。
加害者は、痴漢行為をするその瞬間、目の前にいる少女しか目に入っていないに違いありません。泣き寝入りしそうに見える大人しそうな女の子だから、自分が優位的な立場にあると勘違いをし、わいせつ行為を働くのでしょう。
でも、現実はそうではないと気づかせるのです。少女には守ってくれる親がいる。鉄道会社も警察も、彼女を守っている。彼女を取り巻く社会全体が、この少女を見守っている。
「痴漢抑止バッジ」が持つメッセージで、加害者にそうした想像力が働けば、自分の一方的な暴力でねじ伏せられると相手だとは考えなくなるでしょう。大きな抑止力になるに違いありません。
「痴漢抑止バッジ」は、少女たち一人一人が頑張っているのではなく、社会が彼女たちを守り育てているのだと伝えるメッセージツールであってほしいです。
私は以前から、駅などに貼られている痴漢防止ポスターに疑問を感じていました。「痴漢あかん!」の語呂合わせや、レトロな少女漫画チックの痴漢防止ポスターは、人権問題を扱っているとは思えない軽いノリです。
痴漢犯罪を軽く考えているから、こうした表現が成り立っているのではないか? と思ってしまうほどです。
しかしたか子さんがお母さんと考案した「痴漢抑止バッジ」は、思春期の少女たちがどれほどの決意と覚悟を持って電車に乗り、通学しなければならないのかを、私たちに端的に示してくれました。
「痴漢抑止バッジ」が大きな注目を集めた理由は、少女たちが置かれている現実に気づかされハッとした大人が大勢いるからでしょう。
痴漢問題に言及するとき、加害者が悪いとか、女性の服装に問題があるといった個別の話題にされがちです。
けれど、これを機会に社会全体が痴漢問題を自分ごとと考えるようになれば、バッジをつけた少女は、自分一人で加害者に対峙するのではなく、周囲に守られている安心感を持てるようになります。
痴漢加害者だけではなく、広く世の中の人たちに気づきを与えるデザインになれば、多くの方に受け入れてもらえるでしょう。
バッジのデザインに、「泣き寝入りしません」と宣言するあなたの勇気を、社会が見守っているというメッセージが込められることを期待します。