2019/11/03 20:41

 

大学は、実は社会が見えにくい場所です。これは、わたし自身が学生時代に最初に学んだことのひとつです。

 

このプロジェクトは、中高生の居場所作りに貢献するだけではなくて、さまざまな形で参加する大学生にとっても、自身を普段は自明だと思っている立場や考え方から解放し、新たな学びに取り組むきっかけになるのではないかと思います。

 

私のゼミでは、インフォーマルな学びを重視しています。フォーマルな学び、つまり「学校」という制度化された枠のなかでは、教える側と教えられる側という立場がはっきり決められがちです。そして、教員も学生も「評価」を意識せざるを得ない状況のなかで行なわれる知識のやりとりには限界があるし、端的に面白くないと思うからです。

 

このプロジェクトの中心的な役割を担っている関谷昴さんは、東京外国語大学の卒業生ですが、大学の近くに「たまりば」というとても面白い空間を作っていて、私たちも時々お世話になっています。そこはシェアハウスですが、さまざまな立場の人が集って雑談に興じられる場所です。

 

私たちのゼミでは、自然や社会や地域について、食から考えることをひとつの基本テーマにしています。キャンパスの中で料理ができないという事情から「たまりば」にお邪魔させていただくことが多いのですが、毎回想定外の面白い出会いや気づきをもらっています。たわいのない雑談の中からアイデアや関係が生まれていく、そういう場が府中にもうひとつ増えそうだと知って私もワクワクしています。

 

大石高典(おおいし・たかのり)

東京外国語大学講師。専門は生態人類学、アフリカ地域研究。

魚釣りへの熱中が高じて、人と自然の関係や環境問題に関心を持つように。環境問題を考えるのに食は欠かせないと考え、学部では農学を、大学院では霊長類学や動物生態学の研究者に囲まれて生態人類学を、ポスドクでは心理学・宗教学、アフリカ地域研究、そして考古学の視点で地球環境問題を考えるトレーニングを経る。研究のメインフィールドはカメルーンの一村落に据え、そこでの定点観測から世界を見ることを行ってきました。外大では、「アフリカを通して日本を見る」アプローチにも積極的に取り組んでいる。主な著書に『犬からみた人類史』(共編著、勉誠出版)、『アフリカで学ぶ文化人類学』(共編著、昭和堂)ほか多数。