お久しぶりです。
駿河シャクジ能実行委員会兼、辻雄貴空間研究所アシスタントディレクターの武田です。
『日本の神さまおもしろ小辞典』という本と旬の食材を追うことにハマる23歳です。
お陰様でFAAVOによるご支援額が全体の40%まで達成致しました!
引き続き皆様のご協力を宜しくお願い致します。
さてさて『駿河シャクジ能』開催まであと一ヶ月ほどです。
「なんか凄そうだけどお能わかんないよ!」という方々、大丈夫ですよ!
能の楽しみ方は人それぞれで、
演者の声に耳を澄ませてみたり、
煌びやかな衣装や装飾に目を凝らしたり、
囃子のリズムに高揚感を覚えたり、
一振り一舞に神経を集中させてみたり、
五感を研ぎ澄ませて、見たり感じていただけたら幸いです。
私は、先日シャクジ能に大鼓方として出演する、大倉慶乃助さんの「石橋(シャッキョウ)」を拝見しました。
鼓の音と慶乃助さんの声が会場に響き渡り、初めから最後まで鳥肌が止まらず、圧倒され、切なさで涙が溢れてきました!
能楽ってドープだし、エモい!ということを同世代には伝えていきたい!!!
「感じるだけじゃ足りない!もっと深く知りたいよ!」
という方は私と一緒に今回の演目『土蜘蛛』のあらすじを簡単にさらっていきましょう。
病に臥せる源頼光(ミナモトノライコウ)に胡蝶(コチョウ)が薬を持ってくるも、頼光の病は益々重くなってゆく。
夜も更けた頃、病に臥せる頼光の部屋に不審な僧が現れ、頼光が僧に名を聞くと、
「わが夫子(せこ)が来(く)べき夕なりささがにの」
と歌を口ずさみ近づいてくる。よく見るとその姿は蜘蛛の化生。
その化け物は千筋の糸を繰り出しがんじがらめにしようとするも、頼光は、枕元にあった源家相伝の名刀、膝丸を抜き払い斬りつけ
「得たりやおう」
と大声を上げると命からがら化け物は姿を消していった。
騒ぎを聞き付けた侍、独武者は、大勢の部下を従えて頼光の元へ駆けつける。
頼光は名刀膝丸を「蜘蛛切」と改め、斬りつけたものの逃した蜘蛛の化け物を成敗するよう、独武者に命じる。
独武者が土蜘蛛の血をたどって追うと、化け物の巣と思しき古塚に辿りついた。
古塚を突き崩すと、中から太古より葛城山に棲息した土蜘蛛が現れる。
土蜘蛛は千筋の糸を投げかけて独武者たちをてこずらせるが、大勢で取り囲み、遂には土蜘蛛を退治する。
話の流れはわかるけれど、なんだか難しい言葉があり、頭に「???」が浮かんだ方もいるかと思います。
それがどういう意味なのか、あらすじの太字の部分を掘り下げていきましょう。
土蜘蛛(つちぐも=葛城山)
今回のシテ=主役、梅若玄祥氏。
語源は「土隠(つちごもり)」からきている。
土蜘蛛は実際に蜘蛛の形では存在せず、朝廷に逆らう土豪(侍でもあり百姓でもある人)の集まりを指していたとされている。
まつろわぬ星神の祀られる神社にぴったりの主人公ですね!
以前、富士吉田の浅間大社で「梅若薪能」を拝見した時に、梅若玄祥さん演ずる「蔵王権現」が登場した途端に、会場に本物の蔵王権現がいるかの様な只事じゃない空気が流れました!
今回の「土蜘蛛」もどの様に化けるのか、楽しみですね!
源頼光(みなもとのよりみつ、あだ名:ライコウ)
ツレ=山崎正道
平安時代中期の武将。
出身地:兵庫県西川市多田
後世では『古今和歌集』や『宇治拾遺物語』『御伽草子』などで、よく化け物を退治する人として扱われる人物。
胡蝶
ツレ=川口晃平
胡蝶の精。
演ずる人、見る人によっては、頼光に寄り添う健気な女性にも、弱らせる為に毒薬を運んできた悪い役にもなりうる役です。
胡蝶役の川口晃平さんの視点が個人的にはツボです!
川口さんについて調べていて見つけたTwitterを開いて追っていたら、写真と言葉のチョイスが面白くて、気付いたら1時間経っていました...笑
「我が夫子が 来べき夕なり 小竹が根の 蜘蛛の行ひ 今宵著しも」『古今集』/衣通姫(ソトオリヒメ)
「今夜は、きっとあの人が来てくれるに違いない。
竹の根に蜘蛛が巣を張っている、今夜はそれがはっきり見えるもの。」
私は、病床に臥す頼光に蜘蛛が迫り来る様子の比喩表現と捉えましたが、感じる人により、その受け取り方の変わる歌になりそうですね!
千筋の糸
5〜9mの薄紙を、細い金属の芯に巻きつけて細く切り、3段から5段に巻きつけて一握りにしたもの。明治以前は、干瓢(かんぴょう)ほどの紐で数本投げるという形式だったそう。
糸一握り1800円程する代物で、現在はこの糸を作る職人が日本に一人しかおらず、継承者不足の深刻な問題となっています。
「得たりやおう」=「それきた!」
仕留めたときの心から漏れる声。
葛城山(かつらぎやま=金剛山)
大和の地(奈良県と大阪の境)に存在する大和葛城山を指しているが、静岡県には伊豆の国市に、伊豆葛城山がある。
山頂には葛城神社があり、延喜式の倭文神社の論社とされていたそうです。
金剛山の呼称とされ、金剛山は金剛砂を産出していたと言われています。
葛城山の存在する伊豆の国市には韮山反射炉(にらやまはんしゃろ)があり、静岡という土地は製紙業や繊維工業だけでなく、製鉄業も盛んだった様ですね。
葛城山(土蜘蛛)の言葉一つにしても連想させる幅は広く、能楽は全体を見ても、細かい部分に視点を絞っても面白さを見出すことのできる藝術ですね!
次回は、演者さんの紹介と役割について一緒に学んでいきましょう。
今回のレポートでご紹介させていただいた、能楽師大倉慶乃助さんと華道家辻雄貴さんのトークセッションを、11月に制施行50周年を迎える富士市にて開催致します。

2016年11月4日(金)19:00(18:30開演)
富士市交流プラザ(富士市富士町20番1号)
『能楽といけばなが混じり合う時』
大倉慶乃助(能楽師 大倉流大鼓方)× 辻雄貴(華道家)
講演者の簡単なプロフィールとシャクジ能については『いけばなと能楽の混じるところ』をご覧ください。
お二人がどの様な対談を繰り広げるのか、楽しみですね。
また、この日より地域の学生さんとの制作合宿が始まります。
イベントのレポートや合宿の様子もこちらのページやFacebookにて掲載いたしますので、お楽しみに。
駿河シャクジ能実行委員会 武田
参考:
『あらすじで読む名作能50選』
衣通姫(http://www.asahi-net.or.jp/~sg2h-ymst/yamatouta/sennin/sotoori.html)
韮山反射炉(http://www.city.izunokuni.shizuoka.jp/bunka_bunkazai/manabi/bunkazai/hansyaro/)