富士山にもたくさんの微生物がいます。但し、山頂付近は限られた場所に地衣類や蘚苔類がわずかに生えているばかりで、スコリアに生息する細菌数もそれほど多くはありません。地中の微生物は植物や動物の遺骸などを分解する“お掃除屋さん”のイメージが強いのですが、その他にも大切な働きがあります。そのひとつが大気に微量に存在する硫黄系ガスの分解です。そのガスは硫化カルボニルと呼ばれ、火山ガスなどの自然発生源の他に、化学繊維の製造や化石燃料の燃焼といった人為起源からも大気に放出され、環境への影響も懸念されています。山頂付近のスコリアで硫化カルボニルの分解を調べると、細菌密度の低いこの辺りでは分解はとてもゆっくりとした速度です。しかし、登山道に沿って何ヶ所かの高度で採取したスコリアの分解速度を比較してみると、大きな変化が現れるのに気が付きます(富士山は国立公園に位置するので、採取には特別の許可が必要です)。それは、森林限界を過ぎ植物が生えてくるのに呼応して、スコリアの表面にまとわりつく様に発達してくる褐色の土壌の存在です。この様な場所では数多くの細菌が確認され、硫化カルボニルの分解速度も一気に早くなります。植生の発達、微生物の活躍、そして土壌の形成と云う、自然界の成り立ちの一側面を富士山でみることができるのです。そして富士山の過酷な環境下では、このうすく覆っている土壌が作られるのに300年余りの歳月を要していることも、宝永噴火の史実から知ることができます。