2020/07/07 09:48
今日はSF作品の人間消失シーンの一部のご紹介をします。
「博士は なぜ、頭を抱えたのか。」
暦は十二月になっていた。事件は静かにそして速やかに起こった。
ニューヨークの朝は冷え込んではいたが、澄んだ空気が遠くの景色を近く見せていた。証券会社のオフィスにやってきたジョージがミシェルと軽口を叩きながらデスクについてパソコンのスイッチを入れた。
「おいミシェル、僕の誕生日を祝ってくれる人がいるみたいだぜ」
ジョージのパソコンの初期画面にこんな文句が出ていた。
(ハッピーバースディ。今日が人生で最良の日でありますように。この先にささやかなプレゼントを貴方に)
「どうせ新手の広告でしょ」
「ああ、でもどうして僕の誕生日が今日とわかったんだろう」
「馬鹿ね、当てはまる人がクリックすればいいのよ。どうぞ」
ミシェルがジョージのデスクにコーヒーを置いて背を向けて自席に戻っていく。
「あぁ、ありがとう。それもそうだな。まっ、でも話のついでに覗いてみるか」
気配がなくなったような気がして振り向いたミシェルが見たのは、デスクの上のコーヒーカップと何事もなかったように揺らめく白い湯気だった。