2020/07/08 01:26
書籍の出版は難しいものですね。でも、最終日が終わるまで、諦めませんよ。
今日は「ツイート的自己満足」(短編集)の紹介です。
「種」の一部をお読みください。

 ふと、暗闇の向こうからやってくるのだろうか、彼女は生暖かい温度と産毛のような萌黄色の光を感じた。それまでの彼女は、闇というものがどんなものかを知らないまま、また、温度というものがあることすらわからないままに、そこにじっとしていた。じっとしていた、というよりもそうせざるを得なかったのである。

 今、彼女の皮膚から伝わってくるそれらの柔らか味は、彼女を驚かせるとともに戸惑うことを教えた。それが何処から来るもので、何をもたらすものか彼女は知らない。

 彼女は頭から順に温まっていく心地よさを味わいながら、頭上に感じる和らいだ輝きと足元に広がる闇を区別できた。彼女は快さに身を任せることにした。どれほどの時間が過ぎたのかはわからないが、頭上の明るさが消え全身を闇が包んだ。彼女が光を感じる前の状態に戻ったらしい。ただ違っているのは、温かみが残っていることだった。温かみというものが感覚の一つであることに気づくまでに何度同じようなことを経験してきたのだろう。光や闇もまた。無意識の中に芽生える意識は万物に当てはまるのだろうか。

 覚醒という言葉はもちろん、彼女の中には表現に値するなにものもないのだが、光と闇や湿り気や乾きを何度か繰り返した後のある日のことだった。

 彼女は体に起こる大きな変化に気づいた。それは思い切ったように起こった。始め、彼女はその変化が彼女の外側で起こっているものなのか、内側でのものなのか区別がつかなかった。しかしそのうち、彼女の、そう、まさに体の中心から同心円状に広がる波動を彼女は感じた。止めることのできないものだった。だから彼女自身は「動」を取った。それまでの「静」を捨てたのだ。

 光のやってくる方向とその正反対の方向へと体を伸ばしていく。絶え間なくやってくる波動を感じながら、しかもその両端は周りを探りながら伸びていくのだ。

 そのうち、彼女の中心は両端に移っていった。光と闇を同時に感じながら、しかもその両方からやってくる大きなエネルギーを感じていた。そうして、さらに先へ進もうという「気」が生まれた。今や彼女の伸びていく方向に障害はなく、したがって伸びるということの他に広がることもできるようになった。彼女はそれをすることによって、し続けることによって「生」を感じるようになっていた。そしてそれと同時に彼女の中心が体全体に広がるのがわかった。