栞日では、2013年夏の開業以来、店舗のロゴやストアカードなど、グラフィックまわり全般について、詩人でデザイナーのウチダゴウさんに制作を依頼しています。
共通の友人を頼りに知り合ったゴウさんとの初仕事は、初代栞日のロゴとストアカード。当時、松本の街の東の山裾、里山辺にあったゴウさんの自宅兼アトリエに通って、僕が栞日のコンセプトを伝えながら、ゴウさんがデザインに落とし込んでいく、そのやり取りは、とても愉しいものでした。「センチメンタルな響きだね」と詩人に評された屋号は、かすれ気味の明朝体のロゴタイプに落とし込まれ、僕が「夜明けの凪いだ海の色」と伝え、ゴウさんが「凪色」と名付けた濃紺が、栞日のシンボルカラーになりました。
二度目は、2016年夏の移転リニューアルのとき。店舗移転に留まらず、旧店舗を宿にする、という状況が加わって、ゴウさんから届いた提案は、それまでのイメージをガラリと覆すものでした。ロゴタイプは角が落ちたゴシック体のアルファベット表記「sioribi」で、ロゴマークは「STORE」の二等辺三角形と「INN」の真円。極めてシンプルなその記号に、最初は面喰らいましたが、移転して第二章の幕を開ける栞日にとって、この上なく相応しく、そしてボールドなメッセージだったと、いまとなっては思います。「STORE」の三角は、さまざまな文化にスポットを当てる光であり、訪れた人たちが憩う大きな木。シンボルカラーは光の黄。「INN」の丸は、そこを起点に松本滞在の縁が広がり、帰るとほっとできる我が家のような存在として、常に安定しているように。シンボルカラーは山の緑。
みっつめは、昨年春にオープンした、もうひとつの栞日〈栞日分室〉。「これからの日用品を考える」をテーマに掲げた、ギャラリーストアであるこの空間は、築150年を超える蔵の2階部分で、立派な大黒柱と梁に支えられています。僕は当初から「もし栞日が民藝館を営むなら」という設定で、この〈分室〉の構想を練っていきました。その空間を構成する要素(例えば、柱であり、梁であり、床であり、窓であり)から、ゴウさんが繰り出したインパクト大のロゴマークは、どこかしら民藝の風情を感じ、それでいてモダンな佇まい。英名は幹から別れた枝葉とかけて「sioribi BRANCH」。シンボルカラーは、柱や梁の焦げ茶。
そして、第四のロゴ。〈菊の湯〉です。
まず、その彩りに驚かされました。まさか、グラデーションを持ち込むとは。これは「途切れない、繋がっていく」意志の表れで、このロゴデザインのテーマ「受け継ぎ、次世代に繋ぐ。」を体現している、とのこと。上半分は菊花をイメージ。「芯から温まる色」で重なり合う輪は「ひとつの湯船を共有する人と人の距離」を表現。下半分は「山・森・川そして湧水」であり「湯船」。「松本の街を見守る豊かな自然」と「その恩恵に与り、成り立つ湯船」。「すべて連なっている/すべて繋がっている」ことを表す、この4本のゆるやかなラインが、僕が目指す〈菊の湯〉の姿「街と森を結ぶ湯屋」を反映してくれています。そして、ロゴマーク全体は、家紋「菊水」のデフォルメ。これまでの〈菊の湯〉を継承した上での、新たな〈菊の湯〉のシンボルです。
ロゴタイプの漢字・アルファベットは、それぞれ初代栞日のタイポグラフィ、フォルムを「継承」。特にイタリック書体(斜体)とは反対側に傾く「リクライン書体」には、唸りました。初代栞日のアルファベット表記に比べて字間も広がり、よりリラックスしたムードへと「進化」を遂げています。
このロゴマーク、いま制作中の新ストアカードはじめ、これからさまざまなシーンで活用されることになりますが、そのひとつが〈菊の湯〉オリジナルグッズ。このクラウドファンディングのリターンにも含まれている、防水ステッカーやフェイスタオル〈MOKU〉にもプリントされます。以後、お見知り置きを。ゴウさん、今回も鮮やかな一手を打ち出してくださり、本当にありがとうございます!!