「なんだ、このすてきな建物は!」それが第一印象。
国道293を北上して信号待ちでふと右を見ると、威厳のあるたたずまいの公共施設「足利市民会館」がそこにあった。
足利暮らしも何年か経ち、屋台のコーヒー店アラジンにいくようになり、娘の合唱コンクールで、建物の中に入る機会も増え、じっくり観察するようになる。
木の質感とコンクリートのバランス、空間の流れをつくる梁の位置、視界のアクセントになる照明は何度みてもあきない。
いまではもう作れないであろう昭和の豊かで自由な時代を象徴する公共建築。
近隣の田舎まち育ちのわたしにとって、文化度の高い建物が昔からあるということがうらやましかった。
東京から戻って、何もないと思っていた数年間、そのあとに現れたこの建築物は、ただの建物ではなく、地方にも文化にふれるチャンスはあるんだよ。といってくれている気がした。
大ホール向かいのウェディングレストランロイアルでクリームソーダを飲み、西には両崖山、南のまどからは飯田善國のモニュメント。
ピロティ―の上から大ホールの吹き抜けを眺める。
大ホールの東側の窓は足利のAの形なんて思いながら、
ぜいたくな空間の中で時間はゆったり流れていく。
市民会館がなくなると聞いて、建築そのものがなくなってしまうだけでなく、多くの人の思い出や、周辺の景色が変わってしまうことがとても悲しかった。
老朽化や耐震などの問題をクリアして残せたらいいなと思っていたけれど、それも難しいらしい。
ではわたしたちに何ができるのだろうか。
数年前、ロイアルでイベントを行った。
「Skip」という雑誌の発行にあわせ、誌面企画ページ内で、足利での毎日の暮らしの中で心が弾むスポットをわたしが案内し、好きな場所として足利市民会館も紹介している。
その時、編集をしていた多田千里さんや、一緒にイベント主催したメンバー菊地健雄監督や惣田紗希さんにも相談し、何ができるのかを一緒に考えた。
なくなってしまう市民会館。
ここで培われた文化の遺伝子を伝え、未来へどうつなげていくのか、
伝えるために本をつくろう。
実行委員会をつくり、クラウドファンディングを始めることにした。
郷愁ではなく、これからのことも考えるきっかけに。
資料としてではなく、文化の遺伝子を次につなげる媒体として本を。
前を向き、解体を前にした、このタイミングでしかできない本づくりがはじまろうとしている。