こんにちは。映画監督の菊地と申します。 ⾃分の故郷の⾜利市⺠会館が 55 年の歴史に幕を下ろすことになり、仲間たちと何らかの形で残すこと ができないかと、ここ 1 年ほど議論を重ねてきました。メンバー間でも⾊々な意⾒や思いがありました が、メモリアルブックという形で市⺠会館にまつわる⼈々の思いや記憶を記録として残そうという結論 に⾄りました。 改めて振り返ってみると、⾃分の中にも⾜利市⺠会館が意外なほど⼤きなウエイトを持って存在して きたことに気づきました。例えば、家族のアルバムの中で⾒た両親の結婚披露宴での晴れやかな様⼦、幼 い⽇に庭園で草⽊の中を無理やりトンネルのようにして駆け回って遊んだこと、コンサートや演劇の幕 が上がる瞬間のワクワク感、学⽣時代に合唱コンクールで初めて⼤ホールの舞台に⽴ったときの緊張、 レストランロイアルで⾏ったイベントでの様々な出会いなど、挙げればキリがないくらい思い出があり ます。いつまでもそこに有ると思っていたものが無くなろうとしていることが、未だに実感として上⼿く 飲み込めず、本⾳を⾔えば、⽼朽化や耐震性の問題があるにせよ何とか今の形で残してほしいという気 持ちもあります。 しかし、より⼤切なことは、⼈々の記憶や思いを呼び起こすきっかけになるような記録を残すことで、 次の世代にも⽇常の中に⽂化が隣り合わせであることの豊かさや単なる器としてではない⽂化施設の 在り⽅を繋げていくことではないでしょうか。 私が普段作っている映画やドラマでも、撮影スタジオにその時だけ建て込まれるセットで撮影する場合 と⼈が実際に⽣活していた住宅で撮影する場合とでは、俳優の芝居への影響や画⾯の雰囲気が⼤きく違 ってくることがあります。実際に誰かが⽣活していた空間に刻まれた⼈々の気配や記憶や思いが、その 場に集う⼈々に何らかの影響を与えることがあるのです。だから、⾜利で⽣まれ育った⼈なら⼀度は訪 れたことのある市⺠会館、そこを訪れた⼈たちの積み重ねられた気配や記憶をもう⼀度⾒つめ直し、そ こに残された思いにもう⼀度⽿を傾けてみることには、とても⼤きな意味を持つはずです。 そして、私たちが作ろうとしている『未来へつづく本』は、単に⾜利市⺠会館の記録としてだけでなく、 未知のウイルスによって⽣活様式そのものが変容しつつある今だからこそ、もしかしたら変容する前の 時代を知る記録にもなる可能性があります。さらには、全国各地で再び地⽅が注⽬されている今だから こそ、それぞれの地⽅と⽂化的なことを繋ぐ⼿掛かりになるような気もしています。 この私たちのささやかな⾏為が、⾜利市に縁があるなしに関わらず、思いもよらぬご縁を繋いでくれる ことを願って⽌みません。どうかご⽀援とご協⼒のほど、よろしくお願いいたします。菊地健雄