こんにちは!
あっという間に師走になり、季節の変化に体が追い付かなくなりそうですね。和歌山の川湯温泉というところでは12月から、河原に日本最大の露天風呂が作られます。冷えてくると、そのぶん温泉が体に染みてたまりませんよね!去年はいけなかったので今年こそは行ってみようと思います!興味のある方は水着が必要なので忘れずに訪問してみて下さい!
今日は以下のトピックをお届けします。
1. 武田製材訪問記
2. 研究林内 美術イベント「森のちから」
3.能登ヒバ 楽器材への活用
1.武田製材訪問記
今月の中旬に、三重県の大台町というところにある日本一取り扱い樹種の多い製材所、武田製材さんを訪問しました。武田さんは10年以上前から、ありとあらゆる材を取り扱うようになり、今では100種以上の樹種を誇るそうです。
お話を伺う中で印象的だったのは、名前を聞いたこともないような樹種にもしっかりと用途があることです。生活圏から見える山々がスギやヒノキばかりになってから久しいため、元々あった多様な樹種がどのように使われていたのか、町で生活しているだけではなかなか想像できません。しかし、ここ武田製材では、私達が使い道を忘れていた「その他の木」を求めて、全国から訪ねてくる人がいると言います。多様な樹種の価値が再認識される場所、そんな風な印象を受けました。
武田さん曰く、「使えない木なんてなくて、結局は人の使い方次第でどんな木にも価値が出てくる」と言います。今回は、そんな武田製材さんで出会った珍し木材の数々をご紹介していきたいと思います(注:ここから先は趣味の世界です)。
シャシャンボ(小小坊)
まず到着して早々目についたのが、シャシャンボの大径木。シャシャンボはブルーベリーの仲間で佐世保の地名の由来という説もある樹種です。研究林にもありますが、両手を使えば簡単に握れるぐらいの太さのものがほとんどです。しかし今回見せてもらったものは、直径が20㎝近くあり、シャシャンボとしては見たことが無いぐらい大きな材でした。そもそも初っ端にシャシャンボを紹介して頂けるとは思っていなかったので、「この製材所はなんなんだ??」と度肝を抜かれました笑。
沖縄の木
さて、建物の中へ入っていくと所狭しと材が並んでいます。こんな中でも武田さんは迷わずに次々と木材を引っ張ってきて紹介してくれました。興味深かったものの一つに沖縄の木材があります。北海道で林学を専攻していた私にとっては、もはや異国ともいえる沖縄の木はなかなか個性的な木ばかりでしたのでここでもご紹介したいと思います。
・デイゴ
まずはデイゴ。島唄の歌詞にも出てくるので有名かもしれませんね。注目して頂きたいのは成長輪(年輪)が見えにくいこと。成長輪は日本の場合、夏と冬の成長速度の差から形成される木口面の模様のことで、それが1年単位で形成されることから年輪と呼ばれています。しかし沖縄では、年間を通じて成長可能なため、年輪がはっきりとしない場合が多いことがあります。その結果、このように年輪がぼやけた材が誕生します。
また、デイゴは材が軽いことも特徴です。年輪のような模様がなく軽いことから、沖縄ではお面の材料として活躍しているそうです。
・アカギ
沖縄の木、お次はアカギです。名前の通り赤っぽい材が特徴です。しかしこの木が赤いのは材だけではなく、樹皮や果実も赤くなるそうです。耐久性が高いことから沖縄では家具材などに利用されていると言います。しかし本州以北ではほとんど流通しておらず、まさに希少材と言えるでしょう。因みにこのアカギ、小笠原諸島では外来種となっており駆除対象となっています。
・ソウシジュ(相思樹 )
次はソウシジュです。漢字で書くと何やら哲学的な雰囲気です。名前の由来は故事にあるそうですが、ちょっと長い話だったのでWikipediaのリンクを貼っておきます。
ソウシジュはとても硬い木の一つで、建材、器具材、車両材などに利用される他、薪炭材としてもすぐれていたようです。また、枝葉は堆肥として優秀で、街路樹や防風林の木としても利用されていた木です。僕はここに来るまで知りませんでした。
・フクギ
フクギは真っ直ぐ育ち15mほどにも達する木で、幹が固く葉が分厚く、さらに根も深いためアカギ同様、街路樹や防風林の木として沖縄で重宝された樹種です。また沖縄の伝統的な織物によくみられる黄色い色の染料が、このフクギの樹皮から取られていました。因みに漢字では福木と書き縁起も良いみたいです。
材は緻密で淡い黄色を示すそうです。建材の他、最近ではカラトリーの材としても人気が出てきていると言います。
・モクマオウ
まだ沖縄の木が続きます。次は名前が厳ついモクマオウです。名前のイメージ通り?とても重い木で、武田さんとしては日本にある木の中で最も硬い木だと言います。
このモクマオウ、画像検索して是非樹皮や葉を見てもらいたいです!というのも、遠目で見るとマツのように見えて、実際に近くで見るとやっぱりマツのように見えます。ところがマツと近い種類というわけではなく、それどころか実は広葉樹という変わった種です。以前、広葉樹のように見えて実は針葉樹であるナギという樹種をご紹介しましたが、その逆のような存在の樹種です。
・リュウキュウコクタン
次はリュウキュウコクタンです。リュウキュウコクタンは日本では数少ない黒い材の取れる樹種です。材は非常に緻密で重く硬いのが特徴です。黒いのは心材部分で、辺材部分は対照的に白い材であるため、非常にコントラストの強い面白い色の木でもあります。このリュウキュウコクタンは沖縄の伝統的な楽器、三線の棹材として重宝されています。そのため、「リュウキュウコクタン 木材」で検索すると、三線店が端材を売っているという情報が出てきました。
武田さん一押しの木
・クロウメモドキ
武田さん一押しの木です。それがこちらのクロウメモドキ。虹色のように輝く姿には私もすぐに虜になってしまいました。何でも最近、空前の木製ペン軸ブームが来ているようで、その材として探している人がいるのだとか。
この先も随時更新していきます!
2. 研究林内 美術イベント「森のちから」
今月はさらに、美術作家の大矢りかさんが来林して、林内で製作活動を行いました!大矢さんが制作したものは、こちらの写真の船です。材料は全て研究林内で採取した落枝やコケ等で、1週間程度の短い期間でみるみるうちに造り上げて下さいました。
こちらの作品は大きなトチノキに引っかかる形で作られています。トチノキは上へ手を広げるように大きく育つのが特徴の木で、その樹形も相まって作品の船が空高く飛んでいくような雰囲気を覚えました。そこで大矢さんに「この船はどこへ向かうんですか?」と尋ねたところ、「見る人の捉え方次第でどこへでも行きます」と答えて下さいました。なるほど、確かにこのままかつての筏流しのように川を下るのも冒険の始まりのようで面白いし、魚の遡上のようにまだまだ川上に行くのも精一杯の力を振り絞っている様子がして面白いですね。
私個人は、実生の調査の中で、「樹木が私達には想像できないような熾烈な生存競争を経て巨大な体を手に入れているのだなあ」と、しみじみ感じたことから、生き残った個体の下で盆の送り火のように船が天へ舞い上がり、消えていった実生へ思いを馳せているように感じました。
こちらの作品は12/10までの10:00~15:00の間、研究林内で一般公開されていますので、お時間のある方はぜひいらっしゃって想像を膨らましてみて下さい!
3.能登ヒバ 楽器材への活用
さて今月はニュースで知った能登ヒバの話題を紹介したいと思います。
能登ヒバと言えば、活発なブランド材として度々新聞やニュースにも取り上げられるのでご存じの方も多いかもしれません。香りが強いことで人気があり、シロアリの防虫効果なども期待されている樹種ですね。 利用促進のための記事を読んでいると、比較的若い方の活動も多いことから、伝統的な産業と若者文化を掛け合わせた活動が積極的に行われているのかもしれません。今回紹介する事例もそんな活動の一つで、能登ヒバを楽器材に利用しようという取り組みです。
プロジェクト名は「アテノオト」。「アテ」とは能登ヒバの林業樹種としての呼び方を指しているそうです。これまで能登ヒバが楽器材に利用されることはありませんでしたが、新しい価値を開拓することで県内林業の活性化を目指していると言います。実際、楽器材は他の利用方法に比べ付加価値がとても高く、武田製材さんでも果樹材の楽器材への利用が盛んになっているという話を聞きました。何でも果樹を支えるための果樹材の特性が、良い響きを作るんだとか。そういえば2020年のウッドデザイン賞の受賞アイデアの中にもあんず材を使ったウクレレがありました。
今回の能登ヒバではエレキギターに応用しています。記事を読んでみると、能登ヒバを使うことで重量の軽減や中高音域の響きが良くなるなどの変化があり、現在試験的にプロの演奏家に利用してもらっている段階だといいます。また、エレキギターだけではなく和太鼓の試作も進められていると言います。能登ヒバはスギよりも曲げに強く、太鼓の胴を薄く加工することが可能になります。胴の厚みが薄くなれば、音の振動が伝わりやすくなるため大きな音が出るようになるそうです。
人口減少に伴って住宅需要が減少する中で、どうしても建材の需要は長期的に落ち込むことが予想されます。従って、建材以外の分野で木材の価値を開拓しておくことは、長期的な林業の活性化につながるのではないでしょうか。その際に武田製材さんのような、多様な用途を知っている方がいらっしゃれば、きっと地域産材の利用促進にも貢献されるのではと思います。