こんにちは!いよいよ12月になりましたね。
今日は以下の3つのトピックです。
・古座川町小森川集落 鯛釣り祭り
・コウヤマキ人工林
・研究報告 土壌処理実験
それではどうぞご覧ください。
小森川集落 鯛釣り祭り
12月初頭、古座川町内ではイチョウやイロハモミジが所々で綺麗に紅葉していました。写真は平井とは別の支流である小川(こがわ)沿いにある田川集落というところのイロハモミジです。とても大きな個体が一本だけお寺の境内に生えているので、遠くからも目立っています。枝振りがとても立派で、力強いですよね!
この集落のさらに上流に小森川という集落があります。平井のように川の最上流部に位置する集落で、現在はお一人の住人が暮らす小さな集落です。その小森川集落では12月5日になると、「鯛釣り祭り」という催しが行われます。海とはほど遠い山奥でなぜ「鯛釣り」なのか?由来は謎だそうですが、奇祭を一目見ようと小さな集落に大勢の人が集まっていました。
鯛は赤・黒・白の3種類があり、「3×9、27匹釣った!」と声がかかると参加者全員で「大漁、大漁!」と声を挙げます。なぜ27匹なのか?ということも不明だそうです。鯛釣りが終わると、「鳥打ち」「芋洗い」「猿追い」と神事が続きますが、「猿追い」以外は由来や目的が不明で謎に包まれたお祭りとなっています。元々は、小森川のさらに奥にあった「奥番」という集落で行われていた祭りでしたが、昭和17年に離村した際にご神体を小森川へ移したそうです。
さらにこの集落では、地元古座川の樹木医、矢倉甚兵衛さんが地域の固有種である「クマノザクラ」を起点に地域振興の拠点とすべく活動しています。クマノザクラは国内で100年ぶりに見つかったサクラの新種で、名前の通り熊野地域に分布する種です。周辺に交雑するような個体が存在しない小森川は、苗づくりに適した環境だそうで、「地域の宝を子ども達の世代へ残す」ため計画が進められています。
この日はそうした活動を応援している地元の移動販売業の方も駆けつけており、普段は住人が一人しかいない集落に賑やかな笑い声が響いていました。地元のものをどう活かせば人が集まってくるか、小森川に起きている変化にヒントがあるような気がしました。
コウヤマキ人工林
先日、紀北のかつらぎ町へ行く機会があったのですが、道中にある標高1000mを越える護摩壇山付近ではうっすらと雪が積もっていました。和歌山は南国のイメージがあったのですが、山の方へ入ればやはり冷え込みが厳しいようです。尾根付近だと風が強いぶん札幌の冬よりも寒く感じることも…。
目的地のかつらぎ町には以前から活動報告で度々出てきていたコウヤマキの人工林があります。コウヤマキの名前の由来になっている高野山の隣町なので、仏花需要が多いことが理由です。かつらぎ町のホームページでは、「コウヤマキを1枝供えると60種類の花を供えたことに匹敵する」と紹介されています。忙しい現代人にはもってこいの供花かもしれません?
コウヤマキの人工林を実際に見るのは初めてでした。供花向けということもあって、材生産を目的とした一般的な林業に比べると、花卉園芸に近いと言えます。そういうこともあって、林内の様子もスギ・ヒノキ人工林と比べるとかなり異なっていることが分かると思います。
スギ人工林と比べるとこんな感じです。材生産を目的としているか、枝葉生産を目的としているかの違いがよく分かります。その意味でコウヤマキ人工林は、「農園」に近いかもしれません。枝葉生産ではシカの食害が致命的な被害をもたらすので、コウヤマキ人工林がネットで囲われているのも納得です。
同じように供花として利用される樹種にはシキミやサカキなどがあります。どれも生命力が強く花瓶に差しても長持ちすることが特徴で、お供えした後にしっかりと姿をとどめておくことが選ばれた理由かもしれません。皆さんの地域でその他の樹種を使っているところがあれば、是非教えてください!
また、どのコウヤマキ人工林も周囲のスギ・ヒノキ人工林と比べると樹高が低いことも気になります。このように樹高の差が激しい原因は、恐らく林齢の違いや管理方法の違いだけではありません。 コウヤマキは非常にゆっくりと成長する樹種で、十数年経っても人の背丈ほどということが多いといいます。一方スギは日本の樹木の中では成長スピードが速い方で、よっぽど環境が悪くなければ10数年で10m以上になります。早生樹の期待が高まる中でスギの優秀さを忘れてしまいますが、成長が早く通直で、乾燥・加工も容易という特徴は、拡大造林で選ばれるのも納得の優れた特徴のようです。
樹形を比較するとこんな感じで、スギがモコモコなのに対し、コウヤマキはモシャラモシャラしています(※個人の感想です。ちなみにヒノキはパサパサ、モミ・ツガはガサガサ、マツはガラガラしています)。僕が大好きなコウヤマキ特有の香りは、立木の状態だと漂っていませんでした。切ったときに初めて香るようです。
コウヤマキは以前紹介したように、世界三大美樹にも選ばれていて、放っておいても非常に整った形に成長します。写真は崩壊地に残った個体で、恐らく手入れされていないと考えられますが、それでも庭木のように水滴のしずくのような美しい形をしているのが分かります。
こちらも放棄されたコウヤマキ人工林。やはり整った樹形の個体が多いですね。ひとりでに綺麗な形になってしまうのを見ると、確かに神秘的なものを感じるかもしれません。この写真も、人が並んでいような気配を感じるような…。
葉を見てみると、こんな感じです。彼岸花が積み重なったような形をしています。1科1属1種の日本固有種という変わった植物で、似たような葉の付け方をする種は他にありません。材は耐水性と耐久性が高いと言われており、古くは棺桶や風呂桶、台所用品として利用されていたといいます。また樹皮は繊維質で防水性が高いので、槇肌と呼ばれ、井戸の壁に貼られたり船の隙間を埋めるのに使われたりもしたそうです。
さらに葉っぱをクローズアップするとこんな感じです。針葉樹としては比較的幅の広い葉っぱです。2枚の葉っぱが着合してこの形になったと考えられています。名前がよく似たイヌマキも比較的葉っぱが幅広い種ですが、コウヤマキの仲間ではなくてマキ科マキ属でナギの仲間になります。
ついでにスギ・ヒノキと葉っぱを比べるとこんな感じです。雰囲気としてはマツに近いですね。
ついでのついでに林内で見られる針葉樹には他にもこんな種類があります(下写真)。
モミはクリスマスツリーで有名ですね。葉の先端が二又に分かれとげとげしているのが特徴です。ツガは国産のものよりもベイツガが建材としてよく利用されているので、ご存知の方も多いかもしれません。ベイツガに比べると日本のツガは針葉樹としては硬く、木目も綺麗なので高級建築材として利用されてきたようです。
トガサワラは非常に珍しい樹種で、本州の紀伊半島南部と高知の魚梁瀬地方にしか分布しておらず、絶滅危惧II類に指定されています。こちらも高級建材として利用されていたようですが、市場に出回ることは滅多にないので見ることが出来たらラッキーです。
他にもゴヨウマツやアカマツが見られます。ゴヨウマツは別名ヒメコマツで5本1束の葉っぱを付けることが名前の由来です。アカマツは尾根や崖などの貧栄養地帯に生えてきます。名前の通り、樹皮が赤っぽいのが特徴です。一方のクロマツは海岸や砂地を好むので海岸でよく見かける樹種です。
コウヤマキ人工林近くの製材所では、コウヤマキ材が売られていました。中でも写真に写っている5000円の一枚板は店主によると曰くつきだそうです。写真からも分かる通り、この材は辺材部分が腐朽して無くなってしまっています。それほど長い間放っておかれたということになりますが、はたしていつ切られたのか?
店主によると、戦時中、戦艦を作るのに材が必要になり強制伐採の対象になった山があるそうです。この材はその山に転がっていたそうで、切られたのにも拘わらず使われずに80年近く放置された材ではないかということでした(真相は不明です)。それを引っ張ってきて挽いたのがこの一枚板だそうです。挽いた直後はコウヤマキの良い香りがしたと言います。
研究報告
さて、研究報告の続きです。今日は土壌処理実験の結果についてご説明したいと思います。土壌処理実験では次の4処理の土壌を準備しました(実験開始当初は6種類ありましたが諸事情で4処理となりました)。
これらの土壌に、アセビ、マンリョウ、ヤマグルマの実生を植えその成長量(葉の増加量)を比較する実験を行いました。僕の研究の仮説では、広葉樹の母樹群集である天然林内の土壌は、実生の成長に対し負の効果を持っていることになります。そこで次の予想を立てました。
1.土壌菌類の負の効果は天然林内で強く働いており、殺菌処理の効果は天然林で顕著に現れる。グラフにすると下のようになります。
また、アセビ、マンリョウは土壌を採集した場所に生息する種ですが、ヤマグルマは分布範囲が異なり調査地では1個体も出てきませんでした。そこで、もう一つ次のような予想を立てました。
2.ヤマグルマは母樹群集内の土壌に天敵が含まれず負の影響を受けない。
それでは結果を見ていきましょう。
結果
8月27日から9月27日までの1か月間の葉の増加量を比較したところ次のような結果となりました。
まずアセビですが、殺菌によって葉の増加量が有意に増加していることが分かりました。しかし、その効果に天然林と人工林の間で差はありませんでした。
つまり土壌菌類はアセビの成長に対し負の効果を及ぼしているものの、天然林内に特異的に存在してはいないと考えられます。予想とは異なる結果となりました。
次にマンリョウとヤマグルマですが、処理間で差は見られませんでした。ヤマグルマに関しては予想の2を支持する結果となりましたが、マンリョウは予想と異なる結果となりました。原因として考えているのは、マンリョウの出現頻度が低かったことです。今回の調査では4000弱の個体を調査しましたが、その中でマンリョウは10個体だけでした。そのため土壌環境を形成するような力が無かったのではと考えています。
以上の結果は、土壌菌類は群集内の一部の樹種に負の影響を及ぼしているが、その効果は天然林と人工林で差がないことを示唆しています。ただ、今回用いた樹種は採種時期の都合上、代表的な高木などが含まれていません。そこで今秋、活動報告で紹介してきたように様々な樹種の種子を採取しておきました。来年はこれらの種の播種実験を行いより説得力のあるデータを集めていきたいと考えています。どうぞお楽しみに!
また、最終的な研究報告ですが、修士3年への進学が決定したため2023年3月ごろのお届けとなります。それまで中間報告を活動報告として紹介してまいりますのでご了承下さい。どうぞよろしくお願い致します。