あっという間に1月が終わってしまいましたね!寒い日が続くので春はまだ先かなあと思っていましたが、ふと顔を見上げるとスギの枝先が赤く色づいてきていました。順調に花粉が育ってきてますね…(怖)。植物たちは着々と春への準備を進めているようです。
どんぐり観察
さて前回お話していた実験用どんぐりの状況です。平井から少し離れた集落に温室があるので、週に1回ほど様子を見に行くことにしています。最近は寒い日が続いていたので、この日もやはり発芽してないかなあ?と思っていたところ、、、
1000個ほど播いたうちの1個が発芽していました!!ピントがずれてしまったのですが、緑色の小さいやつが芽です。虫食いが多かったのでしっかり発芽してくれるか不安でしたが、一安心というところでしょうか。本格的に子葉が出てきたら、山へ土を取りに行ったり殺菌したりポットを作ったりと忙しくなります!
林道の作設状況
さて次に林道の状況をご紹介いたします。今回道を設置しているのは平井(180m前後) よりも標高が高いところで、700m~800mのあたりにあります。そのため、平井よりも一段と冷え込みが厳しく、雪が溶けないこともしばしば。
こちらの写真は林道を作ってもらっている千井さんが撮った写真です。この日は雪の降る中での作業だったようで、写真からでも寒さが伝わってきます…。ただ、重いチェーンソーを持って足場の悪い山を行ったり来たりしていると、やはり熱くなってくるとのことでした。
作って頂いている道には、長持ちする仕掛けが隠されています。千井さん曰く「道づくりは水との闘い」だそうで、いかに水を逃がすかという点で様々な工夫が必要とのことです。例えば傾斜(写真上部)。ずっと同じ勾配にしてしまうと、雨水が勢いよく流れて道を削ってしまいます。そこで途中に緩い部分を作って勢いを殺したり、斜面下方向に少し傾斜をつけることで、排水したりしています。しかし、この部分が大きすぎるとトラックが登れなくなってしまうので、加減が難しいそうです。今後も改良を重ねるとのことでした。カーブの部分も、カントをかけるような感じで斜面下部へ斜めっています。これにより雨水が排水される仕掛けになっています。
こうした排水を意識した波状断面構造は、長持ちする林道を作るうえで欠かせません。伐採と材の運び出しだけ出来れば構わないという道では、その後の森林管理に役立たないどころか、斜面の崩壊を助長することすらあります。研究林の設備としてより長く使ってもらえるよう、丁寧に作って頂き本当にありがたい限りです!
伐採のシーズンはいつ?
さてさて、さっきの雪の写真を見てこんな寒い冬にやらなくても…と思ってしまった方はいませんか?僕もそう思います。ですがもっと寒い北海道では、実は冬が伐採の最盛期。ササで覆われてしまう夏と違って、冬は雪に覆われ視界が良好!しかも雪の上を滑らせれば簡単に材が運べるので、特に林道を作る技術が無かった昔は冬山造材が好まれました。
貝尾, 池田, 西野 2013, 前田 2017)。しかし、昨年に発表された論文で、非破壊的な計測法により含水率を調査したところ、林業関係者の経験則に合致したという報告がありました(桐林 2021)。結論を言うのには参考にできる論文が少なかったので、ここでは避けておきますが、長年働いてきた方の感覚が正しかったとなれば面白いですね。
本州でも、春から秋は下草刈りや植栽など別の仕事が多かったり、ヘビやダニ・ヒルなどの害虫がいないので冬に伐採が盛んな地域も多いようです。また林業関係者の間では、立木の成長が止まる秋~春は含水率が低く伐採に適しているという話がありました。この説を検証するため、これまで様々な研究が行われてきましたが、スギ・ヒノキについて明確な含水率の季節変動が見られていませんでした(また面白い話で、真冬の新月の夜に伐採すると良い材になるというような話も世界各地で林業家に伝わっているそうです。なんでも、新月の夜に切るだけで、狂いが出ない、割れが発生しにくい、虫が付きにくい、カビにくい、強度がある、乾燥している、長持ちする、火が付きにくくなるという話です。あまりにもロマンチックな話なので、検証した研究は数少ないようですが、大河原(2008)によると、満月に切っても新月に切っても科学的性質に差は無かったということです。
ちょっと残念な気もしますが、同じ話が世界中にあることは依然として不思議ですね。世界に520挺しか残っていない幻のヴァイオリン、ストラディバリウスも新月伐採の材で作られているらしく、面白い話だなあと感じます。皆さんヴァイオリンが作りたくなったら、真冬の新月の夜に木を切ってみて下さい!
架線集材の位置決めを自動化
お次は林業関連のニュースからです。先日、職員さんに林業関連の記事が和歌山の地方紙「紀伊民放」の1面に載っていると教えて頂きました。読んでみると、架線集材を設置する場所を決める作業の自動化に関する記事でした。少し面白いので紹介したいと思います。
架線集材とは?
そもそも架線とは何かというと、空中に張られたワイヤーやロープのことを指します。このワイヤーを使って伐倒した材を収集するのが架線集材です。誤解を恐れずに極限まで簡略化した模式図を書こうと思うと下のようになります。
基本的に架線集材は林道を整備するのが困難な急傾斜地で利用される集材方法です。森林利用学的な分類では、傾斜40度を超えてくると車両系と架線系が併用され始め、60度を超えると架線集材主体となるようです。急峻な山地で林業を営む日本では、この架線集材がなくてはならない存在でした。しかし、長い林業低迷期の中で、技術を持った方々の高齢化や、集材機メーカーの廃業などが相次いでしまいます。その結果、架線集材の技術が途絶えてしまった地域も出てくるようになりました。
例えば有名な吉野杉の産地、吉野地方では良質な大径木を運ぶのにヘリコプターが使われています。ヘリコプター集材は道を付けたり架線を張ったりする必要もないので、日本の地形に適した集材方法であると言えますが、ご想像の通り運用コストが恐ろしいことになります。それでも吉野地方でヘリコプター集材が行われているのは、1本数百万円以上の値もつくことがある高価な材が出るためです。同じく非常に高価な屋久杉の埋土木搬出が行われていた時代にも、このヘリコプター集材が使われることがありました。ヘリコプターでも採算が採れる地域ならではの集材方法というわけです。
ところが最近、吉野地方で出材を請け負っていた航空会社の一つが機材トラブルで長期間運用停止になるという事件がありました。となると、林道をつけるか架線を張るかの2択が迫られます。しかし吉野地域の山々は急峻で、しかも所有権も複雑に入り組んでいるらしく、すぐに林道を伸ばすことが出来ません。「それじゃあ架線だ」と技術者を探したところ、長い間架線集材を行っていなかったために、奈良県内に技術を持つ人がいなくなっていたそうです。
これは吉野地方の事例ですが、似たようなことは全国各地で起きており、「急峻な地形で必須なはずの架線技術をどのように伝えていくか」が課題となっていました。ここで新聞記事に戻ります。新聞では「林業用架線の位置決め自動化」と題されています。つまり、架線を支える場所(下の図でここ!)を決める過程を自動化したということです。
それがどうした、と感じてしまうかもしれませんが、これまでは架線が必要になると人が山を歩き回って、長年の勘を頼りに適切な設置場所を見極めていました。さらに設置すると決めた後も、架線の張り方の設計図を吟味する必要があり、大幅に労力と時間、コストがかかる段階の一つでした。それが自動化されたのです。設置段階の善し悪しはその後の作業効率や集材可能性に大きく影響する重要な段階であるため、自動化により誰もが簡単に設置できるようになることは、技術導入・学習の障壁が下げられることになります。その点が画期的だったといえるでしょう。че ш
集材作業そのものもAIで自動化
さらに、遡ること昨年4月、別の作業工程における自動化のニュースもありました。それがイワフジ工業のAIによる自動架線集材です!先ほどは架線を設置する段階での自動化でしたが、イワフジが自動化したのは、架線設置後、実際に木材を掴んで運ぶ段階です。AIで材を認識してつかみ、自動で運んで荷下ろしする夢のような機械!心躍りますね!しかも搬器には回生ブレーキと呼ばれる、ブレーキ時に発生するエネルギーで充電するシステムまでついているとのこと!機械化が遅れていたぶん、次々と面白い林業機械が開発され、今まさに面白い時期なのかもしれません!
架線集材の参考資料 面白いので是非見てみて下さい!
・林業用架線の位置決め自動化 山中の作業をPCに移行 紀伊民放
・横取り架線集材の自動化 架線式グラップル 動画公開 イワフジ工業株式会社
また面白いニュースがあれば、ご紹介したいと思います!次回をお楽しみに!