定期報告も残すところ、あと3回になりました。つまりは、 古座川の生活も残り1ヶ月です。引っ越してきて2か月ぐらいの頃は、永遠のように(笑)感じた古座川での生活も、 慣れてしまえば地元より地元感があって落ち着くようになりました。近所の方ともだいたい顔見知りになったので、買い物に行くだけでもいろんな人に声をかけてもらえるようになり、何とも居心地の良い場所になりました。せっかく築いた関係性を残して、北海道へ戻ってしまうのは心苦しいので、来年からもお祭りや柚子の収穫時期は帰ってこようと思っています!
きのくに伐木チャンピオンシップ
さて、今月後半はあの有名なスポーツの祭典が開かれていましたね。そうです。「きのくに伐木チャンピオンシップ 2022」です!!深夜の生中継を見て、翌日寝不足になった人も多いことかと思いのではないでしょうか。
きのくに伐木チャンピオンシップは、和歌山県が主催する伐木技術を競うイベントです。近くの田辺市旧龍神村で行われている翔龍祭に合わせ、2019年から年1回開催されています。今年は、、地元龍神村森林組合、森林組合こうや、清水森林組合、民間林業事業体、県農林大学校林業研修部研修生など16名の方が参加されていました。この中に、我らが和歌山研究林から千井さんが出場するというので、応援に駆け付けました!
気になる種目は2つあります。一つは「合わせ切り」、もう一つは「枝払い」です。
①合わせ切り
合わせ切りは丸太を輪切りにする競技です。ただし、切り方に決まりがあり、単に一刀両断すれば良いわけではありません。
まずは、このように丸太の上下いずれかから、中央の赤い部分まで切っていきます。
その後、上からも刃を入れて、先に入れた切込みに合わせるように切っていきます。写真では、ちょっとずれているのが分かりますが、この切れ込みをぴったり合わせるのが至難の業です。輪切りは厚さが決まっており、それよりも厚かったり薄かったりすると、減点。赤い部分をはみ出して切ってしまった場合も減点になります。また、切り取った断面が、丸太の軸方向に対し直角であるか否か、と作業時間も審査対象になっています。
輪切りにすれば良い。と聞くと、なんだ簡単じゃないか、と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、丸太がかなり太いので、自分と反対側の切れ込みが見えない状況です。また、長い距離を切るので、最初のちょっとした傾きが、最終的に大きなズレとなります。そのため、見た目よりも数百倍難しい競技だと思います(かくいう僕もやったことは無いので想像ですが)。
さて、千井さんの番がやってきました。奈良県から来たライバル?との対決です。スタートラインに立って、刃を入れる場所を見定めます。オーラがありますね笑。
大会までの1週間、自主練を重ねてきたとのことで、1枚目を順調に切り落とし、2枚目に入ります。
2枚目も順調に切り落としました!断面もぴったりと重なっていて、綺麗です!これは高得点が期待できるか⁈
切り落とした後は、こんな感じで県の農林水産部の方々が審査します。なかなか複雑な得点計算のようで、かなりの人数を割いていました。
結果は…、2枚目がわずかに規定より薄く、ディスアドバンテージを負う形で2種目目へ入ります。
②枝払い
枝払いは、読んで字のごとく木に付いている枝を切り落としていく作業です。
競技では、こんな感じで、枝に見立てた木の棒を切り落としていきます。千井さん曰く、差が付くのはこの枝払いだそうで、いかに減点を防ぐかが、高得点のカギになるそうです。現在、3連覇中の地元の方も、ミスの少なさが優勝につながっていると分析できると言います。
さて、千井さんの番がやってきました。練習の甲斐あってか、順調に切り落としていきます。素人目に見ても圧倒的な速さで切り落としていく様は、流石でした。
この競技では、枝の切り残し(付け根の部分が残っていないか)や、幹に傷が付いていないか、安全な足運びになっているか、などが減点の対象になっています。まあ、素人からすると、見ただけでは何も違いが分かりません笑。
結果発表
競技は丸太を一人1本ずつ準備するので、16人と言えども、丸一日かかります。立ちっぱなしで疲れて帰ろうか迷い始めた夕方、ついに結果発表となりました。チャンピオンの動画を分析するなど、かなりの熱を持って取り組んでいた千井さん。果たして結果は…?
見事、優勝となりました!しかも、2位に151点の差をつけた圧勝となりました!帰らずに表彰まで残っていてよかったです!
林業イベントらしく、トロフィーも木製です!世界的なチェーンソーアート作家さんの、ケイジさんが作成されたそうです。チェンソーで切り取ったとは思えない細やかな仕上がり、良いですねぇ~。
こうした大会は、和歌山県だけでなく全国大会や世界大会まであるようです。千井さんには、この調子で世界に和歌山研究林の名前を轟かせてほしいですね!!!
チェーンソーアート
さて、トロフィーのところで出てきたチェーンソーアートですが、同じ会場内で、公開制作が行われていました。以前、紀北の伊太祁曽神社で完成品を見て、「これをチェーンソーで作ったの⁈」と非常に驚いた記憶がありますが、その制作過程を見られるとのことで、大会の合間に見てきました。
会場に着いたとたん、切る前から丸太の大きさに圧倒されます。人の背丈より大きく、2人がかりで腕を回してようやく1周できるような大きさの丸太。どこから切ってきたのでしょうか…。迫力がありますね!
次に驚いたのが、チェーンソーの多さ。え、チェーンソーって、切れれば良いんじゃないの?と思っていましたが、違いがあるようです。何が違うのかは僕にはさっぱり分かりません。
では作るところを見ていきましょう。角柱にするような感じで粗削りしていきます。最初は丸太も大きいままなので、特大チェーンソーで切ります。脚の長さぐらいあるめっちゃ大きなチェーンソーでした。こんなの、持ってるだけで筋トレになりそうですね。これを動かすわけですから、相当大変だろうなと思います。
そしたら、木に下絵を描いていきます。…って、ノートに描いてある龍の絵が上手すぎますね笑。当たり前ですが、立体彫刻が出来るようになるには、当然のように平面もできなきゃいけないのか、と思い知らされました。
あとはもうひたすらに切っていきます。世界一速い彫刻と言われるだけあって、制作過程も木屑が飛び散り、豪快に見えます。
しかし、よくよく見ていると、とんでもなく細かな刃捌きをしているのが分かります。よくあんなに振動する機械で、こんなに細かい作業ができるなぁと感心します。
時にはこんなに持ち上げてカットしていきます。
午後、再びに見に来たら、龍がいました!たった数時間で、こんなになるの⁈と本当に驚かされます。制作は、あと数日かけて行われるそうですが、この日1日だけでも十分に楽しめました!
北大でもアートイベント!
芸術イベントが行われていたのは、龍神村だけではありません。北大和歌山研究林でも、同じく彫刻作家さんの吉野 祥太郎さん、古座川町内の作家さんである南条嘉毅 さんの公開制作、及び作品の展示が行われていました。公開制作期間中、残念ながら僕は苫小牧研究林へ土壌の分析に出かけており、詳しいお話を聞くことが出来なかったのですが、作品自体は12/2まで展示中です!
林内で展示されている吉野さんの作品の方はまだ見に行けていないので、12月の活動報告でご紹介したいと思います。今回は庁舎で展示されている南条さんの作品《森の資料室》をご紹介したいと思います。
※ここからは理系にあるまじき主観的な感想ばかり書きます。
こちらが、実際の作品です。「何ということでしょう…、あの無機質な資料室が、幻想的な空間へと様変わりしています!」とbefore, afterを比較したかったのですが、ビフォーの写真を撮り忘れていました。何はともあれ、同じ部屋とは思えない変わりようです。
僕が資料室に入って最初に抱いた感想は、「机が斜めになっている!」でした。いやいや、他にも目を向けるべきポイントがあるだろう、と思おう方も多いかもしれませんが、僕はこのような机の配置にピンとくるものがあります。
それは、僕の趣味の一つである廃村巡りの経験です。山奥の集落跡に足を運ぶと、崩れかけた廃屋の中が丸見えになっていることがあります。そのような場所では、家具が均整のとれた配置になっておらず、人間が住んでいたらあり得ない配置で自由に居座っていることがありました。まるで、人がいなくなってから家具が勝手に歩き出したかのような、無造作な家具配置の鑑賞は、廃村散策の一つの楽しみだと思っています。その経験から、斜めに配置されている机を見て、反射的に人ではない何かの空間であると感じました。これは、感性を刺激されますね。
そもそも、人は斜めっているものに対し動的なものを感じると、「絵には何が描かれているのか 」という本で読み、一理あるなぁと思った記憶があります。垂直、もしくは水平なものは、自然界において安定的であることがほとんどです。その一方で、斜めのものというのは、例えば倒れかけの棒だったり、走り出す人間だったり、何かと動的なものを連想させます。部屋の壁に対して斜めに置かれている家具に、動的な生命のようなものを感じたのは、それも一因かもしれませんね。人工林のまっすぐなスギ・ヒノキよりも、天然林の曲がりくねった木々を見たときの方が、野性味を感じるのも同じ理由かもしれません。
加えて、奥の長い机が壁のパースと異なる開き方をしているので、空間的な不自然さも感じられて、ますます異質な空間に入り込んだ感じが増してきます。
「斜め」だけでこんなに書いていたら、日が暮れてしまうので次に行きますね。
次に気になるのは、やはり映像が映し出されている鏡。水面や森の中の映像が音とともに、流れています。この感覚は実生の調査が思い起こされます。
実生の調査を一人でやっているときは、基本的に事前にダウンロードしておいたPodcastを聞いているのですが、ときどき充電が切れてしまうことがあります。そんなときは、ひたすらに、森の環境音を聞いていました。
面白いことに、独りぼっちでずーっと森にいると、いろんな音がきこえてきます。鹿の足音は珍しくもありませんが、面白いのはリスの足音。かなり大きな音を立てて走っていくので、最初は大型動物かと思っていました。
あとは木が風に揺られる音も面白いです。よくよく聞いてみると、実にいろんな色が混ざっていることが分かります。一般的に表現される「ザーっ」という擬音語は、葉っぱがこすれる音だと思いますが、他にも「ギギギーっ」と幹がしなる音や、「パキッ」と枝が折れる音。空気が木々の合間を通り抜けるときの笛のような音や、落ち葉の上を何かが転がる音など、いろんな音が混ざっています。そんなランダムな音なので、人の声に聞こえることも3年間で2回ぐらいありました。こりゃ昔話も生まれるわけだと、妙に納得したのを覚えています。
部屋の奥の方から見るとこんな感じです。ところどころで局所的に光る光源も、スモークによってチンダル現象が生じている光景も、調査中よく目にしました。
雨上がりの蒸した森を歩くと、木漏れ日が線になってゆらゆら揺れています。そうした光は、熊野の暗い森の中で、一部だけをスポットライトのように照らすのですが、そこにコアジサイやクサギが生えていると、まるで植物が光っているかのように見えました。かぐや姫のいる光る竹もそこら辺にあるかもしれませんね。
普段、森の中で感じていることを、このように部屋の中で感じられる空間を作ることができるとは、やはり芸術家の方々は凄いなぁと思わされました。逆に、こうした空間に入り、感性のスイッチをONにしてから、森に入ることで、普段は見えていない世界が見えてくるかもしれませんね!興味のある方は、是非実際に和歌山研究林まで足を運んでみて下さい!