こんにちは。寒さが身に染みるようになり、お風呂が楽しみな季節になってきましたね。昨日はちょうど流星群が見れたようで、いつもより多くの流れ星が飛び交っていました。こんな星空も、あとちょっとと考えると名残惜しい気持ちでいっぱいです。平井の生活も残すところあと2週間なので、ぼちぼち荷物をまとめています。
さて、今日は、前回の続きのアートイベントからです。
森のちからⅩⅢ 森の聲
前回は古座川町に在住の南条さんの作品を紹介しました。今回は、同じくゲストで来て頂いた彫刻家の吉野祥太郎さんの作品を紹介します。
一つ目の作品は、研究林に入って一つ目の物奥小屋にありました。実はまだ1回も入ったことがなかったので、どんな展示になっているのか楽しみです。
中に入ってみると、枯山水を思わせるような空間になっていました。枯山水と違うのは、本物の水が沢から引かれて、水の滴る音が響いている点です。澄んだ空気と相まって、心穏やかになりそうな雰囲気でした。彫刻家と聞いていたので、てっきり何か彫った作品が置かれているのかと思っていましたが、インスタレーション的に幅広く制作されているようです。
作品のタイトルは「森の聲」。研究林周辺の道路に落ちてきた岩や、動物たちが蹴り落とした小石、降ってきた枯れ枝などが、単なる偶然ではなく彼らの意思でそこに来たとしたら?というコンセプトだそうです。そのため、水に浮かんでいる木や岩は、道に落ちていたものをそのまま持ってきたものなんだとか。
僕の研究も、一見確率論的に見える実生の分布に隠された森のルール(意思?)を探るようなものなので、何か共通する部分を感じます。以前、尾根のてっぺんの方に、重い種子を持つトチノキの実生がポツンと生えていたのをご紹介しましたが、あの個体を発見した時は、「なんでここにいるの?」と聞きたくなりました。そこに”在る”ようになるまでの様々なストーリーを考えると、いろんな想像が膨らみます。それは、落石一つとっても同じことかもしれません。
それにしても、建物の中に水が流れ野性味あふれる落石や伐根が転がっているのは、なかなか面白い光景です。特に水の流れ。子どものころ、水が流れているのを見るのが大好きで、よく湧き水を見に行ったり、庭で水遊びしていたりしましたが、24になっても相変わらず水の流れには心ときめきます!普通は外でしか見ることができない流水を、屋内で見られるというそれだけで僕は大興奮でした!
この興奮は人間の住環境が、屋内と屋外で明確に区切られた文化が形成されたからこその、驚きともいえるかもしれません。ただ、人間が自然を完全に排除した空間に耐えられなくなり、盆栽や観葉植物のように、自然を持ち込もうとする行為が許されるのであれば、自然側の意思を持って人間界へ浸食することも否定できないかもしれません。そのような自然の意思による浸食が、落石や落枝落葉となって、今日も道に積もっているのかもしれないなぁ、なんて思いました。
水による記憶時計装置
次の作品は橋を渡った先の生け簀跡です。このロケーションが既に作品の一部のようになっていますね。今日も川は綺麗です!
中はこのようになっていました。こちらの作品は、写真だとなかなか伝わりにくくて申し訳ないのですが、中央に落ちている水が、点滅する光によって、ときに規則的に、ときに不規則に照らされていました。
解説によると、人間がろ過するのとは異なる、「山による壮大な濾過を経た水」がコンセプトのようです。それを聞いてから改めて作品を見てみると、なるほど、この暗い空間は森林の下で繰り広げられている、水の旅路なのかと腑に落ちました。ともすれば天井から垂れ下がっている植物の一部も、木々の根っこのように解釈することもできます。雨として降った水は、多くが木々に吸い上げられ、蒸散によって空気中へ戻っていきます。そうした水とは異なるルートを選んだ水たちは、ゆっくりゆっくりと深いところへ沈んでゆき、森の深いところで涵養されています。そうした水が辿ってきた旅路の記憶を具現化したような作品だと感じましました。
この作品を見て思い出したのは、「真珠のボタン」と呼ばれるチリのドキュメンタリー映画です。作品自体は、チリ沖の海底で見つかった真珠のボタンから、チリの民族差別や独裁政治など負の歴史を顧みる構成になっています。興味深いのは、タイトルこそ「真珠のボタン」となっていますが、作品全体は「水の記憶」で括られていることです。作品の冒頭、「水は宇宙からやってきて、生命の誕生から現在に至るまで、全てを見てきた…」と始まり、最終的に真珠のボタンが沈んでいた海、つまりは水は人々の蛮行をずっと見ていた、と終わります。真珠と水をパラレルな関係におくことで、真珠の記憶すら凌駕する、水のストーリーの壮大さが際立っています。
「物が記憶する」というのは一聞では、「まさか」と思いますが、木の年輪や地層、南極氷河に含まれる気泡は、気の遠くなるほどの歴史を確かに刻んでいます。それと比べたら人間の記憶なんて些細なものですから、記憶が人間の特権なんて考えは驕りでしかないかもしれませんね。
小学生たちの作品
作品作りをしているのは大人だけではありません。川下の小学校で木育活動をしていると、結構な頻度で「おもしろい!!」と思うような作品を作る方がたくさんいます。今回は、この1年の木工教室で特に面白かった作品をご紹介しようと思います。
例によって、材料は北大産の材です。不要になった材の山から、使えそうなのを引っ張ってきて、輪切りにしたり板にしたりして再利用しています。輪切りを作るのが本当に大変で、何十枚と切るので、細い枝材と言えど筋肉痛になりました。
まずはこちら。絶妙なバランス感覚が光っています。板は床か壁に使うものだという固定観念を覆し、柱として利用しているのもポイントが高いですね。多様な樹種が取り入れられているのも、現代的な問題意識が現れていて素晴らしい作品です。ちなみに、これを作った子は持って帰るのを忘れてしまい、僕が引き取りました。
お次はこちら。この作品を作った子は、いっつも面白いキャラクターを作ってくれます。今回の作品も、異形のものかと思いきや、どこか可愛らしい際どいラインを見事に攻めた作品を見せてくれました。ちなみに、この子は作った作品をいつも僕にくれるので、我が家へ持って帰りました。
続いてこちら。三日月のような部分はヤマグワの樹皮でできています。なかなか面白い材を見つけたものだと感じました。 月面の静寂を感じさせる洗練された配置です。近未来的でSFチックな世界観を、木という人工的な素材とは真逆の素材によって完成させたことに、驚きを感じます。人為とは何なのか?を問いかけるかなり示唆深い作品です。
こちらは家のモデルですね。脱炭素化の加速のためには木造化が欠かせないというメッセージを感じます。二股に分かれた大きなツバキの材が、単調になりそうな家の雰囲気をガラリと変えています。自然への畏敬の念を忘れるなということでしょうか。
こちらはシカを大胆に解釈し、再構築した作品ですね。枝の切跡に上手く目を付けた秀逸な作品です。シカの目が側面を向いていることも理解して作られていて、小学生にして優れた観察眼を持っていることが分かります。
学校変わってこちらはペン立てだそうです。飛び込み台のように見えるのは消しゴムを置くスペースとのこと。「僕には絶対そんな発想ができない」と思わされました。側面に張り付いているのは、クロモジとヤブニッケイの輪切りです。どちらもクスノキ科でよい香りがします。
こちらもペン立て。配色にセンスが光っていますね。明るい部分には明るい色で飾りをつけ、舌の暗い樹皮にはクロモジと濃い色で装飾を施しており、適当ではない作為が感じられます。
こちらではどんぐりとナンテンを使っての工作です。
一番面白かったのは、キャラクター職人の彼。今回は、どんぐりの帽子をナンテンの実に取り付け、枝に付け直すという離れ業をやってくれました。どんぐりを使うか、ナンテンを使うかで悩むのではなく、その融合を達成する心意気。ヘーゲルもびっくりです。
こちらはシンプルですが、彼しかやっていなかった「どんぐり二段重ね」が目を引きました。まさか、どんぐりが縦に重なるなんて思わないじゃないですか!重なってるどんぐりもびっくりしてることでしょう。
森林圏交流会
12月前半は、僕の所属する北大環境科学院の森林圏科学コースで交流会があり、中間報告を兼ねて研究発表を行ってきました。まだ、一般の方向けの解説を書けていないのですが、参考までに当日使用したスライドと、原稿をご紹介したいと思います。
暫定的に「優占種の菌根菌タイプは定着する実生の動態に影響を及ぼすか?」というタイトルで発表しました。
種の共存メカニズムの解明は、生態学の重要なテーマです。樹木では、成木が実生に及ぼす密度依存的な効果が共存に重要だと考えられており、この密度依存性は植物と土壌のフィードバックに影響を受けています。植物ー土壌間のフィードバックとは、成木が土壌に対し生物的/非生物的に作用し、形成された土壌が周囲の植物個体のパフォーマンスに影響することを指します。この相互作用を、以降、PSFと呼びます。
成木と実生の種の一致/不一致でPSFの質が異なるとき、PSFは森林動態や群集構造に影響を及ぼします。例えば、共生菌の蓄積は、同種の定着を促進し、優占種の優位性を高めて多様性を低下させる可能性があります一方、成木の近くに同種に特異的に感染する土壌病原菌が蓄積されると、優占種の定着が減少し、群集の多様性を高めることができます。
このPSFの初期の研究は、実生の樹種が、土壌を形成した樹種と一致するかどうかで、PSFの性質が異なるか種ごとに検証するものでした。
しかし、最近の研究では、実生の菌根菌のタイプによって、PSFの性質を説明できることが示唆されています。例えばBennettらは実生の共生菌が、外生菌根菌(AM)の場合は正,アーバスキュラー菌根菌(EM)では負のPSFが生じることを実験で明らかにしました。
またKadowakiらは、樹種の同一性と、実生の菌根型に加えて、土壌を形成した樹種と実生の、菌根型の同一性でもPSFがあることを示しました。これによって、例えばAM型は同種では負のPSFがあっても、菌根型では正のPSFが生じていることが示されました。
菌根型の同一性でPSFが生じるのであれば,群集における優占種の菌根型は定着する実生の動態に群集規模で影響を及ぼしているのでしょうか?例えば和歌山研究林の人工林はアーバスキュラー菌根菌と共生するスギ・ヒノキが優占種。天然林は外生菌根菌と共生するコナラ属が優占種となっています。Kadowakiら(2018)で示されたPSFが生じていれば、AM型樹木の実生は人工林内で正、天然林内で負のPSFが生じており、EM型は逆のパターンになると考えられます。
しかし, フィールドでは昆虫や哺乳類などが、密度依存的な負の効果をもたらすことが報告されています。そのため、種子散布数の多い天然林は実生に負の影響が生じやすいと考えられ、実生の動態に影響を及ぼす要因を分離して検討する必要があります。そこで、本研究ではまず初めに①フィールドの土壌は優占種の菌根型によって条件付けされているのか?を温室での殺菌処理実験により検証し、次に②フィールドの実生の動態が菌根型によるPSFで説明可能であるか、をフィールドにおける毎木調査で検証しました。
ただし、地上部の昆虫の被食圧は、菌根菌への依存度を高め、種レベルのPSFを強めることが報告されています。PSFが地上部の食害に起因する場合、土壌処理だけではPSFを検証できない可能性があります。そこで、温室実験では、土壌処理と共に模擬食害を行うことで、地上部の食害がPSFの発生要因になっているか検討しました。
本研究の仮説です。1つ目が菌根菌を介したPSFは、地上部の食害に起因する2つ目がフィールドの土壌は優占種の菌根型によって条件付けされている具体的には、AM型実生においては天然林よりも人工林でPSFが正になり、EM型実生は負になる。という仮説を立てました。
方法です。調査地は北大和歌山研究林で、人工林と天然林が隣接する場所を4ヵ所選定しました。人工林はスギ・ヒノキ、天然林はコナラ属の優先する照葉樹林です。まず、この4地点で土壌採取を行いました。土壌を採取したのは林縁から人工林・天然林へそれぞれ30mの地点と、中間地点です。採取した土壌を篩にかけ、ばらつきを減らすため4ヵ所の土をよく混合しました。
混合した土壌は半分を電子レンジで殺菌しました。次に、EM型の実生として、アカガシを、AM型の実生としてヤマザクラを、それぞれ表面殺菌して、ポットに植えました。植えた実生の半分に対し、葉面積の8%に穴が開くよう、模擬食害処理を行いました。測定項目は樹高と葉面積で、実験開始前と、10週間経過後の2回測定を行いました。
まとめると、処理は大きく3つあります。一つ目が土壌の採取地点で、天然林・人工林・中間地点です。2つ目が殺菌処理で、3つ目が模擬食害処理です。これらを掛け合わせた計12種類の苗に対し、各20反復ずつポットを作り温室でランダムに配置しました。
解析方法です。PSFの方向性と強さを処理別で比較するため、二元配置分散分析をしました。応答変数はPSFの指標として、殺菌していないポットでの成長量を、殺菌したポットでの成長量で割り、対数をとった値としました。説明変数は、土壌を取った場所の森林タイプと模擬食害に加え交互作用も考慮しました。森林タイプもしくは交互作用に有意差が見られた場合はTukeyの多重比較を行いました。
まずAM型のヤマザクラです。仮説では、PSFは食害に起因しAM型は天然林よりも人工林でPSFが正になるとしました。グラフは、横軸が森林タイプで、縦軸がPSFの指標となっています。縦軸は0より上でPSFが正、0より下でPSFが負になることを意味します。箱ひげの色は黄色が食害アリ、オレンジが食害ナシの結果となっています。二元配置分散分析を行った結果、食害処理には有意差が見られず、森林タイプに有意差があり、天然林が人工林に対し、有意に低いことが分かりました。
次にEM型のアカガシの結果です。仮説では、天然林で人工林よりもPSFが正になるとしました。結果は、食害処理では有意差が見られず、森林タイプでのみ有意差が見られ、人工林が天然林よりも有意に低いことが分かりました。
まとめと考察です。PSFの発生原因だと考えていた食害は、PSFに対し有意な影響を及ぼしていませんでした。このことから、PSFは食害の有無に関係なく生じていると考えられます。次に、森林タイプの効果です。AM型では人工林よりも天然林で負の影響EM型では正の影響がありました。この傾向は菌根菌のPSFから予想されるパターンと一致しているため、フィールドの土壌は優占種の菌根型によって条件付けされていることを支持する結果となりました。
続いて、フィールド調査についてです。
フィールド調査では、温室で見られた菌根型によるPSFの違いが、フィールドにも当てはまるのか検証します。実生の動態が菌根型によるPSFで説明可能であるならばAM型のパフォーマンスは人工林で良好で、EM型は天然林で良好であると予想できます。
温室と異なり、フィールドで異質性の見られる光環境や水分環境などは、PSFに影響を及ぼすことが分かっています。特に日本では近年、種多様性保全のために人工林で間伐が行われています。間伐は人為的撹乱として、光環境や土壌含水率を変化させることから、PSFに影響を与えている可能性が高いと考えられますしかし、間伐が菌根型によるPSFに及ぼす影響を検証した研究はほとんどありません。より正確に森林動態を予測するためにもPSFの側面から間伐を検討する必要があります。
例えば間伐による光環境の改善は、菌根菌のコロニー形成率を上昇させたり、AM型実生の病原菌耐性を向上させたりします。しかし、(ボタン)間伐強度が高くなってくると、土壌水分が減少し乾燥ストレスがかかります。乾燥ストレスに対する菌根菌の応答は、AMとEMで異なっていることが報告されており、EMはコロニー形成率を低下させるのに対し、AMはEMよりも乾燥耐性が強く、乾燥条件下で共生する利益が最大化することが報告されています。したがって、間伐がPSFに与える影響は菌根型によって異なることが考えられます。
以上のことから、フィールド調査においては、大きく2つの仮説を立てました。1つ目は、フィールドにおける実生のパフォーマンスです。AM型は天然林よりも人工林で良好、EM型では逆という仮説を立てました。二つ目は、間伐が、菌根型によるPSFに及ぼす影響についてです。AM型は間伐強度の増加に伴い、人工林での正の効果が向上する。EM型は天然林での正の効果が低下すると仮説を立てました。
方法です。調査地は土壌採取地点と同じです。間伐は列状間伐とし、強度を4つ、コントロール、5m幅, 10m幅, 20m幅を各4rep.設置しました。間伐区の長さは40mで、バッファーは15mとしました。毎木調査は林縁から人工林と天然林にそれぞれ30m進んだ地点と、人工林に5m進んだ、計3地点で行いました。プロットは地図上で赤い四角で示しています。
毎木調査は2年間で計4回行いました。低木・灌木・つる性・ツツジ科木本を除く50㎝未満の木本植物を対象として、樹高と、生存状況を測定しました。
調査対象になった樹種は全部で46種です。これらを先行研究を基に、表のようにAM型・EM型に分類しました。
解析に使用したデータについて補足します。フィールドにおける菌根型によるPSFの検証では、天然林と無間伐人工林の30m地点のデータを使用しました。黄色で示したプロットです。一方、間伐がPSFに及ぼす影響の検証では、天然林での伐採が許可されていないため、人工林内のデータを用い、天然林からの距離に対する実生の応答が、菌根型によって異なるか検証しました。使用したデータはピンクの〇で囲った範囲のものです。
結果です。まずはフィールドおける菌根型によるPSFの検証です。
解析はGLMMで行い応答変数を、2年間の生存率。説明変数を、初期樹高と森林タイプとしました。AICが最小のものをベストモデルとしました。結果は、AM型においては、森林タイプが選択され、天然林で負の効果が見られたのに対し、EM型では、森林タイプがベストモデルに選択されませんでした。
同じように、樹高の成長量についてGLMMで解析したところ、成長量では、AM型・EM型ともにベストモデルで森林タイプが選択されませんでした。
考察です。AM型では生存率が人工林の方が良く、菌根型によるPSFの仮説を支持しました。一方、EM型では傾向が見られず、菌根型によるPSFで実生の動態を説明できませんでした。AM型・EM型ともに成長量で傾向が見られなかったのは、調査期間が短く、充分な成長量が測定できなかった可能性が考えられます。
また、EM型で傾向が見られなかったのは、EM型でパフォーマンスが良いと予想していた天然林において、シカ食害がより強い制限要因になっている可能性が考えられます。
実際、シカは針葉樹人工林を忌避することが報告されており、和歌山研究林でも同様の傾向が報告されています。そのため、EM型の天然林における優位性が,シカ食害により相殺され森林タイプに差が生じなかった可能性が考えられます。
次に、間伐が菌根型によるPSFに及ぼす影響についてです。
GLMMの解析の説明変数に、間伐強度と天然林からの距離をおき、交互作用項を含めて、先ほどと同様に解析を行いました。まず生存率についての結果です。AM型の生存率では、間伐強度や天然林からの距離がベストモデルに選択されませんでした。一方、EM型では、間伐強度で負の影響、天然林に近い場所で正の影響が見られ、交互作用項が選択されました。
EM型の交互作用項について、平均限界効果を求めたところ、間伐強度が20mの地点で、天然林付近での優位性が低下していることが分かりました。
続いて成長量です。先ほどまでと同様に解析を行いました。その結果、
AM型においては間伐が正の影響、天然林の近くが負の影響を及ぼしていることが分かりました。一方EM型においては、間伐が選択されず、天然林の近くで正の影響があることが分かりました。
考察です。天然林からの距離の効果は、AM型では生存率には影響しなかったものの、成長量では正の影響がありました。一方、EM型は天然林からの距離が生存率・成長量に負の影響を与えていました。この傾向は、概ね温室実験と合致し、菌根菌PSFの仮説を支持する結果となりました。天然林で行った調査とは異なる結果が生じたのは、シカの食害を受けない範囲だったためだと考えられます。
また、間伐は、AM型の成長量を増加させましたが、天然林からの距離の効果には影響を及ぼしていませんでした。一方EM型では、間伐によって天然林の近くでの優位性が低下していました。先行研究ではAMの方がEMよりも乾燥耐性があることが示されています。そのため、AM型では強度間伐による乾燥に耐えることができたものの、EM型では、乾燥で共生する菌根菌が減少し、PSFのベネフィットが減少したと考えられます。
まとめです。フィールドの土壌は優占種の菌根菌によって条件付けされていました。この結果は菌根菌によるPSFの存在を支持しています。しかし、フィールドにおいては人工林内でのみ菌根型によるPSFを支持する傾向が見られましたことから、フィールドでの影響力は局所的であると考えられます。また、間伐は、菌根型によって天然林からの距離の効果に異なる影響を与えていました。AM型では影響が見られなかったのに対し、EM型では天然林付近の正の効果が間伐強度の増加に伴い低下していました。
ということで、中間発表が終わったので最終発表と修論執筆に本腰を入れていきたいと思います。次回が定期報告は最終回となりますが、どうぞお楽しみに!