肩部の砲架に装備したガンランチャーが2発、爆音を上げて砲弾を発射した。
初弾は対象の急所を外れたが、それを分析して発射された次弾は、全長2メートルほどの機械の獣の動力核を撃ち抜く。
金属装甲で覆われた機械の獣「機獣」を数発の射撃で屠るこれほどの火力の持つ兵装を、身長160cm弱の私と同程度のサイズの人間が扱うことは到底不可能だろう。
だが私は人間ではない。
HeavyArmedGirl、略してHAG。
人の形を模して作られた機械だ。
私はクラリテと呼ばれ、そう呼ぶマスターと共に、長年放棄されたこの玩具工場に忍び込んでいる。
ここは先日まで超大型の機獣が付近に陣取っており、長年誰一人として近寄ることができなかった場所の一つ。
誰もがその存在を忘れていた頃、ついに「ヌシ」が移動を始め、ようやく入れるようになったというわけだ。
そして、とある協力者から得たこの情報をもとに、私たちはここへ赴いた。
工場の内部はヌシが産み落とし使役する小型機獣が食い荒らし、ほとんど使えそうなものは残っていない。
討伐した機獣を脇にどけ、私たちはさらに奥へと進んだ。
探索と戦闘を繰り返し、辿り着いた地下区画は嘘のように手付かずで、多くのパッケージングされた玩具と共に「炉」が鎮座していた。
3メートル四方ほどの複雑な構造をした機械の箱は「記憶融合炉」と呼ばれ、現状この世界の技術では誰も作ることができない、所謂オーパーツの類のものだ。
「炉」は、あらゆる記録媒体からその情報を分析し、素材を与えることで望む物質(大方は武器や兵器やその素材)を生産するのに用いられる。
種類やサイズは複数確認されているが、いずれもこの大地で戦いの中に生きることを選んだ「フォルダ」と呼ばれる集団が、その戦力の拡充と維持のために血眼になって探し、奪い合っている。
そして、私たちは遂に、その「力」を手にした。
この世界で生きる人間には大きく二つに分かれる。
世界規模の大戦による文明崩壊後、残された人々が生き延びるための共同体「連合秩序」の庇護のもと、人類の存続のために活動を行うもの
そして私たちのように、文明を主食とする機獣を狩り、連合秩序を外敵から守ることを生業とするもの。
弱い存在はどこでも食い物にされる。
巨大な機獣の闊歩するこの世界で、人類はただ銃を持つだけでは生き延びることはできない。
現状、最も強大で信頼のおける剣「HAG」を持ち、戦力を拡大し、自身の力を示すこと。
それが食われないための、最も有効で効率の良い手段なのだ。
そして目の前にあるこの箱は、その手段の中でもとりわけ重要で、重大な因子なのである。
「マスター、これにて任務完了、ですね。」
炉は人を集める。
それがどんな理由であれ、稼働している炉の熱は、あらゆる人や物を集めるという逸話だ。
これから私たちは、さらに多くの仲間や敵や、それ以外と関わりを持つことだろう。
マスターと、私の思考を司るニューロモーフはそれを、今は素直に喜んだ。
続く