このクラウドファンディングのプロジェクトも、残すところあと2日。
ここまで171人の方に仲間への名乗りを上げてもらって、ほんとに毎日メッセージでやりとりしたり、いろんな方の顔と場面が浮かんで、これ実際現地に来てもらった日には涙出るんだろうなと、想像するだけで涙している野生動物です。(野生動物?となった方は過去の活動報告を)
クラウドファンディング残り数日を迎えた今日はコンポントムにいる仲間=ホテルのスタッフたちの話をぜひ、日本の仲間の皆さんにお伝えしたいなと思って。
11月にソフトに再オープンしてから1ヶ月。「ホテルの側の人」になってまだペーペーなんですが「ホテルという場所」で人と人とが出会って生まれる小さな物語に心動かされています。
その小さな物語たちの一つを、ここで。
お客さんがきてくれる日には、必ずいろんな出会いがある。
お客さんと袖が擦りあっただけ、いろんなドラマが生まれる。
ある朝のお客さんが自然に言った一言
「ここはすごく素敵な場所。でも“Place“じゃないですね。素敵なのは”Atmosphere”。もちろんお庭とか空間もだけど、それをつくっているのはスタッフの皆さんなのよね」
を聞いたとき、ほんとに清水の舞台から飛んでみてよかった(まだどこにも着地せずですが)。このスタッフ、このお客さんと出会ってほんとによかった。と震えました。
その一言の向こう側には、こんな出来事が。
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ある朝、プールサイドで本を読んでいるお客様のそばを通りかかったとき、互いに目があったので「お水か何かお持ちしましょうか?」と声をかけたら
「いいえ、大丈夫だけど・・今、ちょっといいかしら?」
よかったら座ってと促されたとき、実は少しだけ緊張した。小心者の私はついつい、何かあったかなと一瞬構えてしまう。あくまで平常心でと言い聞かせて向かいに座るとその女性はどこから話すかを考えるように少し目を泳がせたあと、いっぱいに微笑みながらが言った。
「ちょっと長くなるんだけど、どうしても伝えたいと思って。スタッフの方に、ほんとにありがとうを言いたくて!」
それに続けて、こんな話をしてくれた。
この前の日の朝は、彼女とご主人の18回目の結婚記念日だった。フランスにルーツを持つご主人のために奥さんはサプライズで朝食にクロワッサンとパン・オ・ショコラを用意したいと思い、さらに1日前にそれをレセプションのスタッフに伝えた。コンポントムの隣の州にお住まいゆえに「もし探すのがすごく大変でなかったら!」というこちらへの配慮も添えて。
翌朝、旦那さんより早く朝食の会場に来るとサービススタッフが彼女を見つけて、いくつかの種類のパンを見せながら、どのパンがいいですか?どんなふうに準備します?と聞いた。
いくつかの種類のパンを用意してくれたことにも驚いたんだけど・・と言いつつ、
「私は最初、クロワッサンを皿の上に置いて出す、くらいしか考えてなかったの。でも、なんというかスタッフの方たちが、私以上にどうやったらスペシャルになるかを考えてくれて。バナナの葉っぱを敷くのはどう?とか、キャンドルもつけて・・とか!
何より、このプチサプライズの瞬間を一緒に楽しんでつくってくれている感じがすごくうれしくて。私たちにとっても、すごく幸せな記念日になったの。」
そして、座っているプールサイドの椅子からぐるっと周囲の庭と、サービススタッフが働いている高床のレストランのを見回しながら、冒頭の一言を。
「ここはすごく素敵な場所。でも“Place“じゃないですね。素敵なのは”Atmosphere”。もちろんお庭とか空気感もだけど、それを支えているのはスタッフの皆さんなのよね」と。
このエピソードを聞きつつ、その前の日からスタッフたちと重ねた裏側ストーリーが浮かび、その朝“一緒に楽しんでつくっている“であろう朝番シフトメンバーの顔が浮かんで、その場にいなかった私まで想像でちょっとワクワクしてしまった。
そして、前日の夜からこの出来事の裏側にある物語が思い出されて、思わず胸が熱くなった。
ここからは、この日の裏側ストーリー。
結婚18周年の記念に、クロワッサンを用意して小さなサプライズをしたい。前述のお客様からのリクエストをオンラインで度々登場しているレセプションスタッフ・チュンリーさんが受けた。彼女はそれをシェフに伝え、シェフは翌日のために夜シフトの出勤前に、この町で一番大きな、首都の名前を冠したベーカリーに行き、そこにある中で“一番クロワッサンに近いパン“を買ってきた。
その夜、レセプションを代わった夜シフトのマネージャから「マイ、ちょっといい?」と。
私にお客様からのリクエストを共有したあと、
「シェフが買ってきた“クロワッサンに近いパン“が、やっぱりクロワッサンにはかなり遠い気がする。他にクロワッサンを売っているところを知らないか?」と。
コロナの前、この町で一か所だけ、クロワッサンを置いているカフェがあった。日頃町の普通の人たちはなかなか入らない、ちょっとハイソめのおしゃれカフェ(この町のね)。
「○○ならあるかも。コロナの前はあったから。」と伝えたら、
シェフ、マネージャ、サービススタッフの夜シフトメンバーが口を揃えて「ああ〜!あそこかぁ!」それは知らなかったと。
幸い私はそのカフェの始まりの頃から知り合いなので翌日の朝、私が行ってみることにし、それからしばらく夜シフトメンバーとともに、今故障しているオーブンが復活したら、ここでパンが焼けるのにね、クロワッサンできたらいいよね、などと盛り上がった。
翌朝、朝食の時間が始まる前に自転車で例のカフェへ。早朝から営業していたものの、残念ながらクロワッサンは売り切れで、首都からの取り寄せパンはまだ届いていないと。
止むを得ずその場にあったクロワッサン生地の味が違うパンを買い、そのパンの味を朝シフトで出勤していたレセプションのチュンリーさんとサービススタッフに託して外の仕事にでた。あとは、任せた!と。
その後、夜まで外出続きで、その後どうなったか聞く余裕はなかったから、その翌日のお客さんからの喜び溢れるフィードバックはとてもうれしかった。
そして、そのフィードバックをスタッフたちに伝えたら、いやーあのとき、素敵な皿がないってなって、どーしよって慌ててバナナの葉っぱを庭から採ってきてさ。とか、ちょうど前の日にクリスマス用にって買っておいたキャンドルがあったんだよね!とか。そのときの写真を見せてくれたりしながら話すメンバーたちの様子にも心が揺さぶられた。
お客さんがこうしたいと思ったことを、一緒に実現していける。
マニュアルにも何にもないそういう関係性を、この人たちは自然にやっている。
こういう接客が必ずしもすべてのお客さんにとって心地いいわけではないのもわかっている。
今はコロナ期の小さなチームだからシフトもセクションも跨いでみんなで情報を共有できる。
宿泊客数も少ないからこそ、こういう一瞬一瞬に意識を向けやすい。
そういう、そんなこんなも全部頭で理解しつつ、お腹の真ん中の方で「ああ、やっぱりこの人たちと道をともにしたい」と思った。誰かの特別な時間をお預かりする観光という産業にとって、こういう在り方を自ら選べる人たちは宝物だ。こういう宝物さんたちが、活躍する場所をなくしちゃいけない。これからもその真価を惜しみなく発揮できる場所を守っていきたい。
もしかしたらそれが新しいオーナーとしての、私の使命なのかもしれない。
ホテルを引き継ぐかどうか、まだ肚を決める前、カンボジアでホテルを営む先輩ご夫妻に会いに行ったとき「ホテルは人だからね」という一言をもらっていた。
ただそこに空間と施設があるだけじゃない、そこにスタッフたちがいて、そこに滞在したいというお客様がきてくれて、初めてこの場所はSambor Villageというホテルになる。
チームが大きくなっても、仲間が増えていっても、このチームの核を司る人たちの空気が活き続けるように。
ここで時間を過ごすすべての人たちが、1人の“ひと“としていられるように。
日本の仲間と現場の仲間にたくさん勇気をもらって、これからも進んでいきます!!