2021/01/21 16:30


皆様にもっと知ってもらいたいこと、これを充分に伝えることが出来ていませんでした。

自分自身への反省を込めつつ書いていたら少し長くなりました。

このため「新作こけしに込めた匠の技」の章は次回の活動報告へ分けました。

最後までお読みいただけますようお願い申し上げます。



> 引き継がれし修錬の技 < 

 時は昭和23年にまで遡ります。佐々木こけし工房の初代佐々木克己工人(2008年没)が白石に移り住んだのはもう70年以上も前のことです。はじめは映画館の撮影技師をしながらこけし制作を学び始めたそうで、師匠である我妻吉助工人(遠刈田系)に従事して本格的にこけし制作に打ち込むことになりました。このこけしには師匠や依頼者の名前が記されました。伝統的こけしを繰り返し描くうちに自由に自分のこけしを作りたいとの思いがつよくなり、昭和29年に独立することにしました。新型こけしが発祥した昭和20年代ちょうどその最盛期の頃です。

 克己工人本人型の特徴として、まずは目の描き方です。このかわいらしい目は「稲穂」と呼ばれていて、他の誰も真似ができない独自のデザインだそうです。つるっとした球面に左右同じに描けるのは才能と磨いてきた筆使いの熟練の技能があるからですね。この目はリターンの「ミニこけし」に継承されていることが感じ取れると思います。

 克己工人本人型のもうひとつの特徴としてモチーフにしたのが「梅」と「かすり」の紋様です。弥治郎系こけしにも梅の絵柄がありますが、克己工人独自の描き方として彫り細工を施しています。ここに白の色を添えることで「白梅 (しらうめ)」という詩情ある題名のこけしを世に送り出して人気を得ました。

 さらには、時代のニーズに応えるように後継者の功工人が紫色の衣も揃えました。リターンに選んだのがこのこけしです。紫を伝統的な染料の食紅で描くと半年もすると色が抜けてくるのですが、新型こけしでは塗料を自由に選べるのでポスターカラーやアクリルカラーにすることで退色を抑えることが出来ています。なお、克己工人は晩年に新型こけし工人として地元白石市から白石市産業功労者の表彰を受けています。

 これらの技能を次男である佐々木功工人がしっかりと受け継ぎました。小さい頃から手先が器用であったことや、ものづくりへの強い興味を持ち合わせていたことで、兄からは「将来こけしをつくるのはお前だ」と言われて決まっていたそうです。昭和54年に高校卒業と同時に修業を始め、父の克己工人と母(ひろえ)が描彩を主に担当していたことから、3名いた木地職人に就いて木地制作から覚え始めました。続けて描彩を習得して自分の名前で出品できるようになるまでに5年かかったそうです。

 全日本こけしコンクールには毎年新作を出品します。入賞できることもあれば、残念ながら賞に入らないこともありますが、国土交通大臣賞は4回受賞しています。この他に農林水産大臣賞1回、中小企業長官賞4回など、克己工人を大きく超えてたくさん受賞しています。ただ、受賞したその作品が市場に広く出回るほど売れるような注文が取れれば良いのですが、実状はかなり厳しいとのこと。受賞作以外にも詩情ある作品を出品されていますが、そのときの1品だけで市場に出回ることなくコンクール会場で個人が落札して買い求めた以外は制作することがなかったこけしも数多いようです。

 奥さんの美穂工人は工夫を凝らした描彩でコンクールへ出品して、やはり多くの賞を受けています。その作風は題名から推測できる女性らしさのあるこけしに仕上がっています。平成24年から7年連続受賞した作品の題名を順番にご紹介しますと「どこみてるの?」「セピアな季節」「コントラスト」「いろんな帽子」「セピアなコスモス」「くびかざり」となります。リターンに選んだのは最新の「くびかざり」です。この他に、招き猫や、ひなまつりのこけし、松島瑞巌寺の達磨など、多種多様な作品を手掛けています。お雛様のこけしは白石市こけし村で販売されています。

 功工人作品の一番人気は「むすび丸」のようです。「アマビエ」こけしは最新作となります。このように現代の人気こけしは丸っこいもののようです。時代に即したこけしを作っていけるのも新型こけしならではと言えます。また、人気のキャラクターやスポーツ選手のこけしなどの制作依頼を受けたりしています。ここでは著作権の関係から写真を載せられませんが、実物そっくりに仕上がっていました。古いこけしの模倣の依頼もあるやらで、この技能は他の工人ではなかなかできない功工人ならではの優れた才能です。「キャッツこけし」がその代表作といえます。


この続き「新作こけしに込めた匠の技(2/2」までお付き合いください。

・・・次の活動報告(第7回)へ。