2022/06/08 17:00

久々のご報告となります。
 表題の写真は自宅から望む蔵王山です。今年は残雪が描く「種まき坊主」を長く見ることができました。この活動報告では、クラウドファンディングで蒔いた種から見事に実りましたプレミアムの作品をお伝えします。


はじめに

 蔵王山に雪が降るころから製作に取り組み始めたのですが、すべて完成するまでに、こけしの材料となるミズキの花が咲き誇る過ごしやすい季節へと移り変わってしまいました。とても長い期間を要しましたが、これらの猫ちゃんたちのおかげで実力をあげることができました。そして、大きな自信を得ました。世界に誇れるブランドになれるようにさらに修錬を重ねてまいります。依頼者の皆様には完成が遅れますよと幾度もご連絡したにもかかわらず、いつも心温まる激励のメッセージを賜りました。感謝の言葉しかありません。この報告では少しばかりとなりますが、主に工夫したところを皆さまにお伝えしたいと思います。

左から、エアロさん、ちりおんちゃん、ルイちゃん、リッキーちゃん、猫又どの、です。


製作した5体のプレミアム猫ちゃんたち

 どの猫種であるのか、飼い主さまがわからない猫ちゃんたちが多い状況ではありましたが、届いた写真を参考にして美しい猫たちが載っている図鑑から、「ラガマフィン」「アメリカンワイヤーヘア」「ベンガル」「シャルトリュー&オシキャット」が似ていると思われました。それでも図鑑には決して載らない特別な猫がいて、それは「歌川国芳の猫又」です。いずれの猫ちゃんも、それぞれにチャレンジした工夫どころがあります。ご覧願います。


神奈川県の「エアロさん」 : 選んだ猫種はラガマフィン

 とくによく見て欲しいのは、その美しい胸元です。

 この猫さんには、見た瞬間からその毛並みを木目でなんとか表現させたいものだと、そう強く思わせる美しさがありました。毛並みは淡いグレーと白の2色に分かれています。見た目の色そのままにÜOILを単純に塗り重ねてしまうと、自然な木目がすっかり隠れてしまいます。そのため描彩によって表出させる方法を選びました。この写真でその出来栄えを感じてもらうのはなかなか難しいと思いますが、ÜOILによる深みのあるツヤが出たベースの上にグレーの毛並みをあしらうことで、木目素地を活かした美しい毛並みがつくれました。功工人と話をしながらそのときのインスピレーションで決めていったので、次に同じ表現ができるかどうかはわかりません。
 ÜOILのベース色を決めるまでに試作を繰り返し行いました。納得する色を決めることが難しく、おもわずもチャレンジングな作品となりました。ベース色がようやく決まり、最後に顔にお化粧をして依頼者さまのもとへ届けるまでに、なんと4か月もかけてしまいました。しかしながらここで学び取った技法は、今後の制作に必ずや大きく活かせると確信できるものでした。エアロさんは、美猫への挑戦を決意させてくれた貴重な猫ちゃんです。


神奈川県の「ちりおんちゃん」 : 選んだ猫種はアメリカンワイヤーヘア

 エアロさんと同じ依頼者さまから注文をいただきもう一体作りました。「愛でスポット」は、後ろ頭にあるハチワレ模様です。

 ÜOILによる色の境目の描き方には、かなり苦労しました。なぜならÜOILの塗色の仕方は、布でこすりつけながら拭くのを基本としていますが、色が拡がってしまうため境目ではこれができません。染料であれば染み込んでいくのを勘案して描き、これがアクリル塗料であれば苦労なく色分けして描けます。ÜOILを重ね塗りすることで色分けも可能ですが、木目模様の味をなんとしても生かしたいと、ここは粘ってこだわり続け、功工人にÜOILの特別な使い方を見つけてもらいました。天然素材の質感を保つためにはじっくりと時間をかけて色を載せる必要がありました。さらにはÜOILを塗布する前のロクロでの素地の磨きぐあいにも、とても気を使うようになりました。
 このようにして作り上げた愛でスポットは他にもありますが、それは依頼者さまとだけの秘密にしておきたいと思います。(やはりこれまた再現できるか分らないから、言い訳をしているだけです)

エアロさんは、ちりおんちゃんと一緒に、功工人のこけしの傍にいます。

▶ 戴いたメッセージをご紹介

『 エアロさんとちりおんこけし毎日眺めて過ごしています。そろそろエアロさんに会いに行けそうなので、そのときはエアロさんにもこけしを見せたいと思います 』


愛知県の「ルイちゃん」 : 選んだ猫種はベンガル

野生猫の紋様を受け継いでいる猫であることが一目でわかりました。

 ベースの色はサクラともっとも相性がよいカントリーオレンジを選びました。胴体は黒赤2色使いでローズロゼッタ柄のバウプリントとストライプを組み合わせ、背中側は黒1色のスポテッド柄にしました。体の紋様のほうはスムーズに描けたのですが、苦心したのが顔でした。はじめは何が違うのかさえわからずに、思いついた感覚のままに目の位置をほんのわずか1ミリもない程度左右にずらしつつ、いくつか描き分けてみたのです。そうしたら、納得のいくお顔にたどり着きました。お鼻に特徴があったので目とのバランスが特に大事にする必要があったのだと、出来上がってみて気づいたのでした。
 納得した描彩図を功工人に渡して描いてもらったのですが、それでも立体になると微妙に違うため修正をしてもらいました。小さなこけしはわずかな寸法違いが気になるという好事例に思わず遭遇することができました。自信をもって納得いく下絵を描くこつが掴めたことから、記憶に強く残る作品となりました。
 一方で悔しい思いをした作品にもなりました。綺麗な目の黄色はÜOILでは発色よく描くことができません。ÜOILの新色を試したりもしましたがどうやっても無理でした。なので、発色が欲しいところにはアクリル塗料を使う決断をしました。ÜOILだけで色を付けるのをあきらめ、ほんの一部分にだけ使うと決め納得をしました。そう決意させてくれた記念の作品でもあります。

 支援者さまから感謝の言葉と共に送っていただいたツーショット写真です。ÜOILの亜麻仁油のあまい香りを楽しんでいる様子に思えます。サクラの綺麗な木目模様から、こだわりの自然ゆらいの天然らしさを感じとって戴けると嬉しいです。

▶ 戴いたメッセージをご紹介

『 ルイこけしは、家族みんなが目につくテレビ台の上に飾ってあります。主人も「可愛さもあり、こけしならではの味もあり、置いてあるだけで存在感があるね〜」と言っていました! 子どもたちもとっても喜びました! わたしは、後ろ姿も気に入っていますので、時々後ろも向かせて眺めています。(笑)』


香川県の「リッキーちゃん」 : 選んだ猫種はシャルトリュー&オシキャット

 どっかへ行っちゃった猫ちゃんなので、送られてきた写真はこの2枚だけでした。

 これまでの作品をもとにして、作り慣れたサバトラで仕上げてしまうには迷いが生じました。毛の色と長さ、そして紋様あたりから猫種を絞り込んでいきました。その結果として、フランスの代表的な猫の「シャルトリー」とアメリカの「オシキャット」を参考にすることにしました。最後の決め手は、丸いお顔です。すっきりと通った鼻筋と愛嬌のある丸い口元。この可愛らしさにすっかりやられました。
 短めの足が写真に写っていたので、これも描き加えることにしました。功さんと美穂さんのこけしを参考にしてできた一品であります。

 写真2枚でどうなるのか、やはり不安はありました。でもこのときは何故か出来そうな気がしていました。東北からほど遠い四国からのご依頼です。支援者の中でもっとも遠方であることからも力が入りました。写真には写っていないところの胸からお腹周りは想像で描くしかありません。描き直しを覚悟して依頼者さまに図案を送ったところ、一発で了解を頂けてほっとしました。

 胸はハート型、襟まわりも前側を白くして、おなかは四つ葉をイメージしています。このコントラストは、リッキーちゃんの表情から読み取った模様なのです。これ以上あまりいじくらずに単純化した図案にしたことが良かったのかもしれません。とても喜んでもらえました。
 送っていただいた写真と同じ角度から見るのが好きです。愛でスポットが絞られて作り易かったのかもしれませんが、相性がよかったのだと思います。ご縁を戴いた依頼者さまと、その切っ掛けを作ってくれたリッキーちゃんに感謝です。

▶ 戴いたメッセージをご紹介

『 非常に気に入っており、毎日ベッドに置いて、眺めて穏やかに眠らせていただいています! 良い夢ばかりで、悪い夢は見なくなりました♬ とてもありがたいことです♬ 』


宮城県のコモノヤさんのご希望 : 「歌川国芳の猫又どの」

 この依頼があるまでは、江戸時代の錦絵に猫たちが描かれていることを、まったく知りませんでした。知ってからは気になる、きになる。とても気になりますねぇ。

(五十三次之内 岡崎の場 : 歌舞伎怪談物「梅初春五十三駅」の役者絵より)

 こけし人形には手も足もありません。どうしよう。なんじゃこりゃ? しっぽはもしかして2本あるのかいな? そもそも三毛猫でいいの? 目も口も鼻も怖いなあ、いやいや愛嬌なのかな? 幸いにも依頼者に直接会って話せる関係にありましたので、相談をしながら作りすすめることができました。

 日本人としてのアイデンティティを感じることができるアートな作品に携われたことに感謝です。菱形の細い目が素敵でしょ? 油をなめてるいる口がなまめかしいでしょ? 踊ってる手足はひょうきんでしょ? 江戸時代にあっては、しっぽの長い猫は怖い動物の象徴とされているようでしたので、これはこれでいい感じでしょ?

 依頼者さまからはカワイイ猫を「ともかく怖くして」との無茶振りでしたが、見事に挑戦してみせたと自負しています。これで大和絵のデフォルメと単純化に快感を得てしまいました。要望があればシリーズ化を検討していきたいと思っています。あくまでも功工人の協力があってのことですが、誰かこの欲求を叶えてください!

▶ 戴いたメッセージをご紹介

『 我が家の猫又殿は、皆様に「芸術品だ!」と高い評価をいただいています。本当に作っていただいてよかったです。どうもありがとうございました 』


さらに、カラフルモダンとネオフォルムを制作

 これらの作品はゆこけし研究所のオリジナルデザインで制作した猫形こけし人形です。依頼者さまと相談のうえプレミアムに代えて制作しました。

 左の2体はカラフルモダンの「チャトラ」と「キジトラ」
 右の2体はネオフォルムの「サバトラ」と「三毛」

 三毛以外はすでにデザイン図が出来ていました。依頼者さまからリクエストのあった三毛猫は種類が多く、とくに指定された写真もなく迷いに迷ってしまいました。ですがテレビ取材を受けてたときにふっと思い付き、描彩図を描くことができました。なので、とても良い思い出となりました。

(宮城テレビ「OHバンデス」の放送より;描彩図を描いている様子)

 この体験から思いがけない表現に辿りつけることを知りました。そこに至る間においては、さらにもっとこうしたい、こうすれば良かったかな、そんな創作の楽しいひと時を過ごせましたので、自分ながら出来たお顔はとてもカワイイと思ってしまいます。
 コロナ感染が収まり宮城県の観光名所である松島や蔵王に多くの観光客が来るようになると功工人は手が空かなくなるでしょう。なので、自分でも描彩ができるようになりたいと思う今日この頃です。今後の方針としては、ネオフォルムでしかできなかった作品をÜOILの使い方をさらに追及していって、カラフルモダンに統一していきたいと思っています。すでにその糸口は掴んでいます。手始めに木目を生かしたツヤのある綺麗な黒猫や白猫をデビューさせるつもりです。オンラインストアにて発表していきます。


最後に
知ってもらいたいこと
「工人の優しさはこけしに現れている」

 テレビ取材のインタビューに「普段のこけしをつくることではなかなかそういうことはしない」と言いながらも目元は笑っているように見えました。誠にありがたい限りです。ここに新型こけし工人ならではの人柄がにじみ出ているように思います。新たな担い手が現れることを願って微力ながら引き続き広報・周知に努めて参ります。

(宮城テレビ「OHバンデス」の放送より;佐々木こけし工房でのインタビューの様子)

功工人が修作した新型こけしの「ハチワレクロ」、ならびに「ちいさなエアロさん」。いずれも非売品なので、ここだけに限ってお披露目です。

2022年6月8日 和風細雨によって世界が平和になることを願いつつ