私が初めて身近に草木染に出会ったのは、知人から栗染めのTシャツをいただいたときでした。関東でも山に行き草木や実をとってきては香料にしたり薬草酒にしたりする動きが知人の間であったので、自然の植物を使った染め物にも興味をもっていました。
現在出回っているほとんどの製品には化学染料が使われています。化学染料は質が安定していること、植物の栽培、収穫やそれに準ずる莫大な手間やコストが省けるなどの利点があり、大量生産が容易になるからです。ただし合成染料には安全性の保障がなく、染織排水が環境汚染の原因となるなど、現代文明の生み出した不利益もあります。
一方で草木染はポリエステルなどの化学繊維には染まりません。天然繊維素材が使われます。昔から川で洗われ、植物由来の染料は洗い流されてもそのまま自然に戻っていくだけでした。
前置きが長くなりましたが、ここでは京都で草木染めをされている、川端商店さんをご紹介させていただきます。昔から伝わる染色技法に独自開発の新技法を取り入れ、わずかな原料で染め出すことを可能にしています。染料の配合により様々な色を作り出し、比較的安定して染めることができます。
古来より民間伝承として伝わり、技術の向上とともに産業として発展した草木染めも、使う人の文化が一新された現代において、まったく変化しないものは、博物館で展示されるものと同様、敷居が高く手の届きにくいものとなっているように感じます。
私は変化は好ましいことだと思います。伝統を受け継ぎながらも、今を生きる世代が、今を生きる人のために、新しい技術を取り入れて提供する「伝統工芸の今」を、白鯉ではご紹介していきたいと思っています。
受け継がれてきた伝統は継承しなければ失われていきます。安価な大量生産品が流入した明治以降、必要性の観点から新しいものに取って代わられた伝統文化と技術は、昔と同じ手法では存続が困難になっています。背景にある利点やストーリーは理解されにくく、一見で判断できる外見と値段だけで選ばれがちだからです。
こういった染め物を手に取り身に着ける私たちにとって、伝統技術を用いた品物を選ぶ判断材料があるとしたら、安全性はもちろん、その背景にあるストーリーではないでしょうか。伝統を重んじ守ろうとしている職人の手仕事により生まれる価値あるもの。そのストーリーも含めて購入することによって、日本の文化の継承に寄与することができます。
もちろん自然で優しい色馴染みや手染めの風合いを楽しみ、奥行きのある色合いや他にはない価値を味わっていただくこともその魅力のひとつです。
隠れたストーリーと価値を伝えるのが白鯉の役割です。生活に必要な衣食住の「衣」に、日本の文化という最高の贅沢を取り入れてみてはいかがでしょうか。
文末に川端商店さんのご紹介を掲載します。
TAL.TOKYO
森山直美
【作家紹介】
京都川端商店
https://kawabata-shoten.com/
ホームページからワークショップや展示会情報、ストールなどのオリジナル商品をご覧いただけます。
川端商店の 『新万葉染め』は、 昔から伝わる草木や虫など自然由来の原料を用いた染色技法で表現する古代の色調を、 わずかな原料で染め出すことを可能にした独自開発の新技法です。