こんにちは、デザインリサーチャーの浅野翔です。
私はセブンストーリーズのサービス開発に向けたリサーチと、お部屋のデザインを検討するための課題文づくりに協力してきました。
私からの活動報告では、どのようにセブンストーリーズのデザインが生まれたのか、その背景を2回に分けてお伝えいたします。
前編では「セブンストーリーズへの問い」として、ものづくり文化が色濃く残る愛知県での宿泊滞在体験に影響する「素材」に注目したきっかけをお伝えしました。
今回の後編では、設計要領に掲載された、コンセプトを生み出すための課題文(メタコンセプト)について紹介していきます。
建築家・デザイナーのみなさんからは「怪文書」だったと指摘を受けた課題文とはどのようなものだったのでしょうか。まずはその内容をご覧ください。
メタ・コンセプト
いつかの、それの──多元的な物質と物語
Pluriversal Materials and Narratives
メタ・コンセプト概要
東海圏の一面的な固有性をはぎとり、多元的な土着〈いつか、どこか、なにか〉の再構築を目指してください。その地域の確からしい"なにか"を頼りに、現在過去未来を浮遊するような体験をすることができる空間です。観光を消費の手段ではなく交信の機会と捉え、地域の素材を通じて、地域に埋没した記憶を呼び起こし、新たな物語を書き加えていくのです。つまり、地域性に根ざしたマテリアルによって、東海圏を訪れるたびに新たな発見を与える宿泊施設の空間をデザインしてください。
宿泊を物語(story)として体験するとは
江戸時代の名所図会や道中記は、現代ではソーシャルメディアに置き換えられ、毎時多数のメディアが投稿されています。まだ見ぬ景色や固有の経験は注目を集め、大衆観光とは異なるバズとフォロワーを生み出しています。断片的なイメージが多様になっている一方で、連続的な観光体験を想像することは簡単ではありません。そこで、人間中心的なニーズ(欲望や情動)をデザインの主題に置くのではなく、地域に根ざした物質や物語を主体として空間をデザインすることで、宿泊滞在者がナラティブに登場させることはできないでしょうか。
愛知県の地形・地層・河川
「東海三県の地質と地盤」 - 中部地質調査業協会
https://www.chubu-geo.org/publish/No59/pdf/03-00.pdf
愛知県の地形・地盤 : ジオテック株式会社
https://www.jiban.co.jp/tips/kihon/ground/prefecture/aichi.htm
愛知県周辺地域地質図
http://glaciation.jp/glaciationjp/iegs/geology/aichi_geolmap.gif
名古屋圏の産業、文化、名物のリスト
あいちの伝統的工芸品及び郷土伝統工芸品 - 愛知県
https://www.pref.aichi.jp/soshiki/sangyoshinko/aichidensan.html
デザインのルール
1. 設計者はフロアと居室の性質を五行〈木・火・土・金・水〉から選んでください
2. 居室の性質に基づき、次のリストから中心となるエリアと素材を選んでください
3. 居室の性質と素材を組み合わせ、滞在者が描く物語の一場面を想像して設計に取り組んでください
※1-メタコンセプト図を参照しながら検討してください。
※2-工芸や素材は必ず使用する必要はなく、参考の一例としてください。
※3-いつ・どのようなタイミングで、その素材と出会うかは設計者の自由です
その他・参考
「僕たちは多文化主義から多自然主義へと向かわなければならない」奥野克巳に訊く"人類学の静かなる革命" | HAGAZINE https://hagamag.com/uncategory/3529
アナーキズムの条件|takahiro ohmura|note https://note.com/tkhrohmr/n/nb06fd5bfce81
10+1 web site|「オブジェクト」はわれわれが思う以上に面白い|テンプラスワン・ウェブサイト http://10plus1.jp/monthly/2016/08/post-121-3.php
以上です。
端的に説明をすると、長い歴史のなかで変わらずそこにあり続けてきた「素材」や培われてきた技術を背景にする「工芸」をインスピレーションの源とし、次の時代へと続く地域との新しい関係性を考えて下さいということです。
伝統工芸や大量生産という言葉が生まれるずっと前の時代は、身の回りに素材があり、自ら道具つくり出し、適当な量をつくり、生計を立てていた人びとがいました。産地ごとに異なる環境ではあったはずですが、自然や社会と向き合いながら、ものづくりをおこなう生活はどこでも同じだったのではないでしょうか。
当事者には当たり前の日常かもしれませんが、その人為的なあるいは自然と共存する営みが生み出す風景を改めて感じることで、私たちは愛郷心を感じ、感動を覚えるのだと思います。セブンストーリーズとは、場所と素材、生活と自然の関係を再構成する場になることを私は期待しています。
そのため、このメタ・コンセプト文は、建築家・デザイナーが多様に解釈し、地域との関係性を素材を用いて構築してもらえるように意識してつくっています。その成果がもう間もなくお披露目される予定です。
ぜひご宿泊・ご滞在の際には、部屋と関係のある地域へと出向き、そこにあるなにかを持ち帰り、身の回りにあるモノや自然との関係に思いを巡らせてみてはいかがでしょうか。