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小説好きのあなたに近未来を届けます。

お届けする作品は『未来探検隊』の他三つです。四作品とも未発表。何れもワープロ原稿をワードの添付メールで送信。僕に送り先のメルアドが届き次第、直ちに送ります。スマホや他の携帯には送れても容量が大き過ぎて開けません。パソコンは大丈夫。ワードで圧縮せずに送るので今までの経験では問題なしでした。

現在の支援総額

18,000

1%

目標金額は1,000,000円

支援者数

4

募集終了まで残り

終了

このプロジェクトは、2021/04/05に募集を開始し、 4人の支援により 18,000円の資金を集め、 2021/06/04に募集を終了しました

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支援者数4

このプロジェクトは、2021/04/05に募集を開始し、 4人の支援により 18,000円の資金を集め、 2021/06/04に募集を終了しました

お届けする作品は『未来探検隊』の他三つです。四作品とも未発表。何れもワープロ原稿をワードの添付メールで送信。僕に送り先のメルアドが届き次第、直ちに送ります。スマホや他の携帯には送れても容量が大き過ぎて開けません。パソコンは大丈夫。ワードで圧縮せずに送るので今までの経験では問題なしでした。

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 氷空ゆめは仲美子と『Casablanca』への狭い階段を上

った。両側の壁にはポスターが貼られていた。古い映画のポスター

がほとんど。その中に『Bessie Hall』の予定も在った。

美子が「『Bessie Hall』を知っている。サッポロのバ

ンドの聖地」。恐る恐る入口のドアを開いた。

「あの~。氷空ゆめです。来ました」

「仲美子です。はじめまして」

 岸部実さんが出迎えてくれた。白のタキシードと濃紺の蝶ネクタ

イ。蝶タイと同じ色のズボン。靴は黒の紐無し。

 リックと同じと思った。オールバックの髪型も似ている。

「時間通りだね。待っていました。まだ隊長しか来ていない。みん

な約束の時間に何時も遅れる。ごめんね。ジンジャーエールで良い

かな。私のおごり」

「はい。ありがとうございます」

 氷空ゆめは仲美子と声を揃えて言った。マスターの岸部実さんは

伏し目。やっぱり表情がない。HPの写真と同じ。

 店の中を見渡した。細長い空間。ドアを開けた直ぐ左の中央が七

人掛けの紅色のカウンター。棚に洋酒がズラッと並んでいる。カウ

ンターの反対には昔のジュークボックス。ピカピカに磨かれ今も動

きそう。その右隣に焦げ茶のアップライトのピアノ。キャスターが

付いていた。ピアノの上にはボンゴとギルと積み重ねられた楽譜。

ピアノの左横にはコンガが置かれていた。そしてウッドベース。左

の奥には四人が座れるテーブル。紅色。入口から右には四人用のテ

ーブルが二卓。紅色。窓際には大きな楕円テーブル。紅色。片側に

四人が座れる。『カサブランカ』を探した。見仰げると在った。天

井にポスターが三枚。日本版が二枚。英語版が一枚。

 隊長さんは窓側の楕円テーブルの真中にデンと座っている。手招

きされ、氷空ゆめは隊長さんの右に。仲美子は左に腰を下ろした。

 隊長さんは強面のお爺さん。ヤクザの親分と紹介されると誰も疑

わない。今はにこやか。HPの写真と変わらない坂下猛さんを確認。

岸部実さんも写真の通り。お店の造りも写真の通り。何も変わって

いない。在りのまま。安心できた。   

 隊長さんは「坂下です」と名乗り、頭をペコッと下げて、氷空ゆ

めと仲美子に挨拶。「よく来てくれました。氷空ゆめさんの『女性

が主役の三つ』と悠久遥さんを読みました。映画の感想もね。ひと

つ尋ねますが仲美子さんのがアップされていないのはどうして…」                          

「日本の安全保障を受け持って苦戦中なのです。もう少し時間が必

要。難しい処があって。それで頭を切り変えて今は日本の国債が破

綻しない訳に取り組んでいます」

 隊長さんは身体を乗り出して言った。眼つきが真剣。眼光が鋭い。

「日本が日米安保条約から飛び出した時に日本はどうする…」

「えっ。その通りです。どうして分かるのですか。それと飛び出し

をアメリカが認めなかった時の日本。これは今と同じ情況。違いは

ひとつ。今は飛び出そうとしていない」

「それは難題だ。国債が破綻しない訳も難しいだろう」

「でも資料が沢山在るので丁寧に調べ続けると何とかなりそう」

「それは楽しみだ。頑張れ」

「はい」

 仲美子の「はい」には嬉しそうな力が込められていた。

 マスターがジンジャーエールが入った細長いグラスを二つ運んで

来た。「このグラスはシードル用。これで我慢して下さい。今の話

しは聞こえていました。ワタシも楽しみ。ふたつとも誰も試みてい

ない挑戦。ワタシからも頑張れです」。

 そう言うと伏し目のまま岸部実さんはカウンターに戻った。

 その後ろ姿を見つめて隊長さんが言った。

「こいつは未だにハンフリーボガードを自認しているんだ。イルザ

はNYに渡った。こいつはイルザを探しにNYに行き一年も帰って

来なかった。三五年も前だ。サッポロに腰を落ち着けたかと思うと

Barを開いた。イルザが探しやすいようにと会社を辞めて『Ca

sablanca』と名付けた。一度も嫁さんをもらわずに今でも

イルザを待っている。つられて俺たちも待っている。こいつが『君

の瞳に乾杯』と言うのを待ち焦がれている」

 岸部実さんは聞こえないふりしてコーヒーを落としている。

「俺の話しは終わったかい。みんなが到着した」

 階段を上がる足音が大きい。五人が話している声も大きい。

五人が楕円テーブルに着席すると、それぞれが氷空ゆめと仲美子

に向かって自己紹介。二人の手には彼らの名刺が。坂下猛も胸ポケ

ットから名刺を取り出した。

 名刺を渡されたのは初めてだった。

 氷空ゆめは名刺を一枚一枚テーブルの上に並べて置いた。

 仲美子も並べた。

「わたしは氷空ゆめです。どんなお話になるのかドキドキです」

「仲美子です。皆さんが到着するまでの間、隊長さんとお喋りして

いました。マスターが今もイルザを待っていると知りました。それ

で少し緊張が和らぎました。皆さんのお話についてゆけるか分かり

ませんが、どうか宜しくお願いします」                         

 氷空ゆめは七人に囲まれ緊張を隠せなかった。

 仲美子は何時もと変わっていない。

 石丸明さんが「私が進行役を務めます。二人とも固くならなくて

良いから。二人は私どもの七つを読まれたと思いますが…」。

「はい。読みました。読んだと言うより必死に喰らいついたのが正

直な処です。正確に理解するにはわたしの力が足りませんでした。

もの凄く驚いたのがHPの最後に付けられた『ここをクリック』で

した。クリックすると一人が新たに二作品をアップしている。開い

た一四をまだ読んでいません。七つで力尽きてしまいました。ごめ

んなさい。皆さんの書く動機をわたしは知りたいと思っています」

 氷空ゆめは頑張って最後まで言い終えた。

「ではギリヤーク笹山に応えてもらいましょう」

「アキラが応えろよ。なんでワシに振るんだ。ズルイぞ。まぁイイ

か。ワシも君たちに質問したい。なぜ氷空ゆめさんはたくさん書い

てアップしたのかと。ワシが書いたのは書かずにはいられなかった

からなんだ。インチキと偽者を許せなかった。ワシは時代の奔流っ

て言うヤツに叩きこまれ、インチキと偽者に揉まれてきた。『冷戦

の終結と五五年体制の崩壊』の主題もインチキと偽者。アキラの『

地上の楽園』もそうだ。でもなぁ…。書くだけなら誰でもできるん

だ。それがワシらのこれからの課題なんだ」

やはり共通主題はインチキと偽者だった。

 氷空ゆめは自分の直感が間違っていなかったのが嬉しかった。

「はい」

 氷空ゆめは石丸明さんに向かって手を挙げた。

「わたしも同じでした。書かずにはいられなかった。主張しないと

わたし自身が学校と家の片隅に封じ込められてしまいそうだった。

書くとインチキと偽者が少し見えてきたように思います。でも書く

だけなら誰でもできるとはわたしには分かりません。読んだ七つは

誰でも書ける作品ではありません。それが全部で二十一も載ってい

る。わたしは皆さんが戦後史の語り部と思ったのと時代の評論家で

もあると尊敬しています」

 泉澤繁さんが「尊敬とは思いもよらぬ。自分たちは尊敬されるほ

どの者ではない。それだけは忘れないで欲しい。評論家のように写

るのが問題なんだ」。

 仲美子が挙手した。石丸明さんから「どうぞ」。

「どうしてですか。評論家はいけないのですか。私は沢山の示唆を

受けました。力の無さも知りました。力をつけなくては駄目と想う

キッカケになったのが七つです」

 角野匠さんが応えた。

「君たちの『未来探検隊』を読むと力が無いとは思えない。充分な                           

力が在る。君たちが力が無いと思ったのは知識なんだ。知識は力の

ひとつだけれどちっぽけな力だ。知識は調べるなら分かるし追及を

止めなければ自然に身につく。君たちは『歴史的必然』に疑問を持

った。宮本顕治が持たなかった疑問を持った。そうして考えている。

自分なりの答えを見つけ出そうと考えるのを止めない。それが力な

んだ。僕は一〇〇〇円の仕事が来たら一五〇〇円の仕事して帰ろう

と決めている。この決めごとのお陰で仕事が途切れない。力とはこ

んな処にも存在するんだ。知識は本当の力ではないんだ」

 高田宗熊さんが続いた。

「評論家は新しい価値を創ったりしない。ただ書き喋るだけだ。偽

者も多いし馬鹿もコメンテーターとしてテレビに出て来る。評論家

はどうにも聞こえが悪い。自分は安全な処に居て能書きを喋るだけ。

昔は骨のある評論家が居たけれど今は居ないなぁ…」

 石丸明さんが「私の印象を言って良いかな」と六人に同意を求め

た。「駄目。アキラは何時も最後においしい処を取ってしまうから

」と泉澤繁さんが笑った。つられて他の五人も笑った。

「えっ。そうなんですか」

 氷空ゆめは思わず言った。

「みなさん。仲が良いんですね」

 仲美子が眼をクルクル回して笑った。

「君たちと同じだよ」と笹山高さん。続けて泉澤繁さんが「独りで

考え行動に移す。これが基本。でも同志が居たならやり方は変わる。

勝手を言わせてもらうならワシたちは君たちを同志と思っている。

君たちに、いや~だぁ~、と言われるかも知れないけれど。アキラ

の感想はこの同志で締めくくられる。どうだアキラ」。

「…その通りです。では感想だけ。諸悪の根源はジジイ。氷空ゆめ

さんはこう書いている。これは氷空ゆめさんしか書けないと思った。

私たちはジジイに両足を突っ込んでいると世間は言う。しかしだ。

私はジジイとは既成概念に疑問を持たずして慣性の法則に従って生

きる者たちと捉えている。若者にも中年にも年寄りにもジジイが大

勢居る。実はこの後に同志を組み込んでいたんだ」

 隊長さんが立ち上がった。

「これから隊長自ら演説する。諸君。静粛に」

「誰も騒いではいませんよ」と岸部実さんが諭した。

「そうか。どうも演説は不慣れ。ついつい慣性の法則に従ってしま

った。でもやっぱり静粛にだ。そう言わないと始められない。最後

を締めるのが隊長の役目だ。まぁ隊長と言っても一年交代。でも俺

は三年目を務めている。誰も手を挙げないから頑張っている」

「ではどうぞ決めて下さい」と岸部実さん。カウンターの中から楕

円テーブルの近くの椅子に移動して座った。                          

「俺たちは君たちと時どき話したいんだ。君たちは俺たちが窺い知

れない何かをきっと感じ取っている。それを俺たちが感じ取れるな

ら、俺たちに新しい命が吹き込まれると想った。吹き込まれたら俺

たちは力を尽くす。書くことは出来るようになった俺たち。俺たち

はインチキと偽者を見分けられるようになった。だからどうしたっ

て言うんだ。次が勝負ではないのか。それでいささか悶々としてい

た。そんな時に君たちが現れた。偶然とは素晴らしい。君たちと討

論して何時か一緒に何らかの行動を共にできたらいいなぁ…。何時

でもこの店に遊びに来て欲しい。悠久遥さんにも宜しくな」

 六人から拍手が起こった。

 氷空ゆめも仲美子も力一杯、隊長さんに拍手した。


『未来探検隊』は『Over六九』と『Under一八』に決定。  


■4/12にリターンを考えました。アップしています。


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