この度、たくさんの方からこのプロジェクトへの応援のメッセージをいただきました。これから何回かに分けまして、そのメッセージと皆様の熱い想いをお伝えしたいと思います。
まず、最初にご紹介しますのは、伴和幸様です。
「動物福祉を伝える動物園」というコンセプトを掲げられ、動物の生活の質の向上を目的としたさまざまな取り組みの先駆者である大牟田市動物園。2015年から同園の飼育担当として従事され、動物園における動物福祉の課題と地域の獣害問題の両者を繋ぐ「屠体給餌」を推進し、その中心的役割を果たされてきたのが伴和幸様です。「屠体給餌」の実践のために自ら立ち上げられた非営利団体「Wild meǽt Zoo(ワイルド・ミート・ズー)」の理事や、動物飼育の現場と研究機関が連携し、飼育技術に関する科学的な情報の蓄積や共有を目指した幅広い事業を展開している「The Shape of Enrichment」の日本法人「SHAPE-Japan」の事務局など幅広い領域でご活躍されており、「屠体給餌」は2019年の「環境エンリッチメント大賞」(NPO法人市民ZOOネットワーク主催)でインパクト賞を受賞されています。また現在動物研究員として勤められている「豊橋総合動植物公園 のんほいパーク」においても、「屠体給餌」に取り組んでおられ、今回の当園の取り組みに際しても、様々な知見やアドバイス、ご協力を頂きました。
それでは、伴様のメッセージをご覧ください。
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この挑戦は動物園の新たなスタンダードを生み出す原動力になる!
深刻化する獣害問題に伴い、各地で野生動物の駆除が行われています。もちろん、その様な駆除は行わずに済むのが理想的ではありますが、生活や生態系への影響などの理由で、やむを得ず駆除が行われ、その数はシカとイノシシだけでも年間120万頭を超えています。駆除された後も、残念ながら9割は廃棄されています。
動物園も課題を抱えています。動物園の動物たちに豊かな暮らしを提供していくためには、野生の暮らしをできるだけ再現する必要があります。例えば、野生オライオンは獲物の毛皮を剥ぎ、肉を引きちぎって食べます。しかし、動物園で提供できる餌の多くは、精肉されており、皮を剥いだり、引きちぎったりする機会がほとんどありません。一見食べ易く優しい様ですが、長い時間をかけて肉を食べる機能を進化させてきたライオンたちにとって、肉体的にも精神的にも不十分な状態となってしまいます。
これらの問題の対応策として、駆除された動物を衛生的に殺菌処理し、できるだけそのままの状態でライオンたちに与える屠体給餌(とたいきゅうじ)を2017年から開始しました。私たちは各地の動物園で、地元で駆除された動物を衛生的に処理して餌として与える地産地消を目指しており、すでに全国15か所の動物園や水族館で実施され、徐々に広まっています。地産地消が進めば、廃棄される駆除動物が減るだけでなく、餌の運搬時の環境負荷軽減も期待されます。現状では適切な処理が可能な施設は福岡県にしかありませんが、今回のプロジェクトが成功すれば、全国で2例目となる処理施設の誕生となり、この取り組みの発展にとって大きな一歩となります。私の住む愛知県でも処理施設ができつつあり、処理施設の動向を注視する全国の同業者にとっても、プロジェクト成功が大きな励みとなるでしょう。また、今回のクラウドファンディングの用途は、動物に与えるためだけでなく、科学的効果検証のための「研究費」が含まれている点も、単に動物園を応援するクラウドファンディングとは一線を画しています。
動物園は単なるレジャー施設ではありません。動物園は動物のすばらしさや環境問題などを伝え、生物多様性を守り、多様な研究を行いながら、誰もが楽しめる場所です。そのため、獣害問題や動物たちの豊かな暮らしも動物園が扱う重要なテーマです。動物園であえてこれらの問題に触れ、なぜ問題が起き、どのように行動していけばよいのかを皆さんと一緒に考え、行動する。そのような機会を増やすことにこそ、この取り組みの最大の意義があると考えています。
この複雑で悩ましい課題に立ち向かう千葉市動物公園の覚悟と挑戦が、動物園の新たなスタンダードを生み出す原動力となり、社会を変える大きなうねりになることを期待しています。
豊橋総合動植物公園 動物研究員/Wild meǽt Zoo 理事 伴 和幸