2022/01/29 16:15


ニュースでご覧になったかもしれませんが、ブルキナファソでは1月23日の日曜日にクーデターが起こり、カボレ大統領は拘束され、辞任させられました。現在は暫定政府が統治しています。ボボでの集客戦略や会場設置、アンプリファイや録音録画のための機材の確認と調達…それらのためにマブドゥと私がボボへ向かって出発した日の朝早くクーデターは起こったのです。私たちの住まいからも明け方銃声が聞こえました。

私たちは予定通りボボへ向かいましたが、その日の夜から夜間外出制限令が出され、21時までに帰宅することが義務付けられたため、2月4日に控えたボボでの公演の開始時間を大幅に繰り上げねばならないか、そもそも公演が可能かどうか、大きな不安を抱えたまま準備を進めるためには強い信念と精神力が必要でした。

ボボには2泊して、できる限りの事をしてワガドゥグへ戻ってきました。外国人は外出しないようにとの指示が出ていたので少々不安ではありましたが、無事に戻って来られました。ワガドゥグへ戻ったタイミングで、公演を延期すべきだの、キャンセルすべきだの、18時開演に変更すべきだの、いろいろなアドバイスが来て、ますます不安を掻き立てられました。そのようなことを簡単に言われても、このような比較的大きな公演を延期すると多大な費用が発生し、次はいつやれるのか、どうやって経済を立て直せばよいのか、主催する立場には大問題なのです。どうしても出来ないときは仕方がありませんが、慌てずに状況の変化を待って落ち着いて決断しなくてはなりません。

幸い、27日木曜日の夜には、夜間外出制限が24時までと延長されました。慌ててキャンセルなどしていたら元には戻せなくなっていたところでした。

話が前後しますが、12月下旬にブルキナファソのプロフェッショナルの演出家とそのチームと契約し、オペラ制作に加わってもらうことにしました。ところが12月30日の、演出家との初リハーサルで、彼女の仕事の進め方に大きな疑問を感じ、翌31日にはその疑問は決定的な不信となり、この演出家との協働の話は白紙に戻す決断をしました。先払いた分の費用は無駄になってしまいましたが、そのまま進めていたら、きっと私たちの思い描くオペラとは似ても似つかないものになってしまったのではないかと思います。ブルキナファソにはオペラの歴史はないのですから、もちろんオペラの演出家などいるはずもなく、この演出家も演劇やコメディ、そして一度ミュージカルを演出したという話でした。人選ミスといわれれば誠にそのとおりで、貴重な財源を結果的にいくらか無駄にしてしまったことは、大変心苦しく、支援者の皆さまに幾重にもお詫びします。

このことで年末年始はいろいろ揉めて、ストレスからなのか体調を大きく崩してしまい、散々でした。でも、もうこれ以上新しい演出家を探す時間もお金もないと腹をくくり、自分で演出する決心がつきました。これはある意味、長年の夢でしたが、思い切って挑戦することをたじろいでいたのです。ヨーロッパで数々のオペラを見てきたけれど、一度として演出に感動したことはなかったし、それどころか大いに疑問を感じることがしばしばでした。自分のこれまでのオペラの公演の演出家に関しても、必ずしも満足というわけではなかったのですが、オペラの演出はとても難しいので、自分でやるのはますます無理だと考えていたのです。でも、崖っぷちまで追い詰められてみると、アイデアが湧いてきて、仲間たちにもそれを示して、彼らのアイデアも募りました。すると、みんな次から次へといろんなアイデアを出してきて、様々な経緯で打ち沈んでいた雰囲気が一挙に回復しました!

小道具大道具も友人たちの力を借りたり、マブドゥと私でマリオネットを作ったり、そのプロセスもまた楽しいもので、みんなの隠れた才能を発見しました。手作りのオペラですが、へたに「プロフェッショナル」に頼ろうとするより、この方が新しいオペラを作るにはふさわしいという気がしました。ヨーロッパのクラシックオペラでは音楽監督(指揮者)、演出家が大きな権力を持っており、歌手や演奏家たちはいわば彼らの手足となって働くような光景がまま見られます。自分では1音も出さない人たちが全体を仕切るという構図の、メリットも確かにあるでしょうが、デメリットについても再考する必要があります。「プロフェッショナル」という概念が発達したことによって、仕事が細分化され、ピラミッド型の階級制度によって報酬も権限もごく少数の人々に集中する現状は必ずしもよい結果を生み出しません。誰かの手足となって働いているだけだという感覚は、参加者ひとりひとりのクリエイティビリティを制限してしまいます。

ブルキナファソの国の体制が大きく揺らぎ、変わろうとする今、過去から積み重なった不条理や不公平をどのように改善していったらいいのか、それは私たちのオペラ作りとも決して無縁ではないと感じます。

いよいよ来週の金曜日に公演です。クーデターが起こったばかりのブルキナファソに、ドイツから二人のトーンマイスター(録音とそのプロデュースのドイツ国家資格です)が29日に来てくれます。彼らの知恵と力を借りて素晴らしい録画をお届けできるように、皆で最善を尽くします。どうぞ楽しみにお待ち下さい。

ちなみに動画は、ブルキナファソの国営放送RTBが流してくれる宣伝用スポットです。