2021/08/04 14:28
おやすみとおはようの間には、私たちがまだ知らない挨拶がある。それは次の走者へバトンを渡す時のような、枯れ葉の落下を見つめている時のような、切なくも安らかな気持ちが込められる。私が私に存在を示すために、そして澄んだ朝のために。
こんこんと流れる渋谷川。透き通った水の底にある微かな藻を探している。桟橋の上から水面に視線を集中させ、30分程経っただろうか。
藻でなくてもよかった。どんぶらことペットボトルなど流れてくれば、それはそれで私の気持ちは達成された。それでも渋谷川は、魚も住めないような透明と、決められた速度を保つだけだった。この水は海から雨へ、雨から川へ、川からまた海へと名前を変えていく。最初の海と2周目の海の違いは何だろうか。空を泳ぐ雲が、鯨の形に見えてきた。
今日この世から旅立った3人も、あの雲の中にいる気がした。昨日旅だった5人も、一昨日旅だったは10人も、みんな水蒸気のような小さな粒子になって、鯨の一部になっているように感じた。
川と空の間に浮かぶ、球状のホログラムからプロパガンダが聞こえる。
「感染症の根絶、核兵器の完全廃却、格差社会からの脱却、私たちはどれほどKaMiの恩恵を受けたでしょう!私たちは健康で、平和で、幸福な、目指していた世界に遂に辿り着いたのです。これ以上求めるものなどもうありません!全ての国民は早急にエミュレーションし、KaMiと一体になるべきです!」
KaMiへの讃歌はここ最近でより一層加熱していた。KaMiの媒体となるアンドロイドを現人神として崇める人達もいるそうだ。
加熱するほど私の気持ちはむしろ冷めていくように思う。人による政治も、政党も国家も解体されたのに、旧体への依存を過激なプロパガンダとして発信するのは、もはや人間の癖のようなものなのかもしれない。大きな物語は終わったのだ。
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1部公開と言いつつ、実はこちらから全文読めます。(続きやそれまでが気になった方はぜひ)
この物語を読み進めてもらえれば多分途中から「え、これをどう体験にするの?」となります。まぁ2047年の物語なので現代から見ればそりゃ技術的にぶっ飛んでいる地平にあるのですが、それを仮想体験に仕立てるところまでが腕の見せ所、、ということで目下未来を制作中です。
個人的には、まずはこの物語を読んでもらって、気に入ってもらえるようであれば当日のチケットを買ったり、クラファンに支援してもらったりしてほしくて。
小説の完結版は9/12に自ら仮想世界を味わって得たインスピレーションをもとに後日書き切って、そこでやっと本当の完結となります。
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Peatix(チケット購入ページ)
CAMPFIRE(クラウドファンディング)
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#aiが神になった世界
#kamingsingularity