2017/10/07 09:39

 2020年からのプログラミング教育の必修化に向けて、文科省が掲げている標語が「プログラミングを通して教科を学ぶ」というものだ。

 言うのは簡単。だが、実際にどうするのかと考えると、この標語は難題だ。

 教科として、国語(日本語)、算数・数学、理科(物理、化学、生物、地球科学)、社会(歴史、地理、公民)、図工、音楽、体育というあたりを考えてみよう。

 算数・数学は数式に対応するプログラムを書くことによって、簡単に実現できるように思える。よく見るのは、タートルあたりで多角形を描かせるというものかもしれない。もっとも、これは二次関数とか連立方程式とかそのあたりまでであって、高校における微積分になるとすこし面倒になる。あるいはやはり高校だと確率・統計も入ってくるかもしれない。確率・統計になると、もう表計算を使ったほうが手っ取り早いし、わかりやすいだろう。それも、スクリプトもいらない。セルに埋める関数で充分だ。

 理科(物理)も、ニュートン力学の初歩のあたりは、どうにかなるだろう。だが、直線での等加速度運動あたりから、数学で書いた微積が関係してきて、面倒になる。

 だが、この2つはまだわかりやすいほうだ。

 理科(地球科学)はどうだろう。地球の深さによる圧力、重力、熱になると、一筋縄ではいかない。地球の熱収支であればなんとかなるだろうが、これは表計算を使ったほうがわかりやすいし手っ取り早い。大気圏の状態についてはどうだろう。天気予報でもやらせたいのだろうか。そうでなければ、対流圏などの知識を扱かうという問題になる。

 理科(化学、生物)はどうだろう。これらを「プログラミングを通して」という原則で学ぶなら、偏微分方程式を扱かえる必要がある。中学生にはたぶん無理だろう。とすると、これも知識を扱うという問題になる。

 社会(歴史、地理、公民)はどうだろう。まぁ、公民については、社会秩序うんぬんをシミュレートさせるということもあるかもしれない。でも、それも表計算で充分だし、むしろわかりやすいだろう。歴史と地理はどうだろう。どうにもわからない。表計算を知識ベースとして使うくらいだろうか。

 なお、「理科 (生物)」や、「社会 (いろいろ)」は「捕食-被食関係」だとか、その「[ロトカ・ヴォルテラの方程式」なんかをやってみるということもあるかもしれなり。ですが、考えてみればこれも表計算でできます。

 図工はどうだろう。タブレットの中の謎物質でなにかを作るということはあるかもしれない。だが、それは粘土でやるのとどう違うのか。あるいは描画ソフトで絵を描くということもあるかもしれない。実際に描画するほうが得意な人もいるだろうし、描画ソフトを使うほうが得意な人もいるかもしれない。あるいはARを通した表現ということもあるかもしれない。だが、そうなるとプログラミングが主ななのか、図工が主なのかわからなくなる。小学校であれば、描いた絵のパーツを動かすというようなところでお茶を濁すかもしれない。あぁ、昔(今も)のスライドのように、なんか目に優しくないのが大量生産されるのかと思うと気が重いですが。

 音楽はどうだろう。タブレットに鍵盤を表示し、というのは「プログラミングを通して」という題目にはあわないだろう。とすると、データを打ち込んでの演奏くらいだろうか。まさかフーリエ変換を使って、楽器の音を再現するなどということはできないだろう。

 体育はどうだろう。ダンスの機会もあるそうだから、音楽の再生と、ライトの制御なんてことはできるかもしれない。

 ここまでは、まだ、なにか方法があるかもしれないものだ。

 問題は国語(日本語)と英語(あるいは他の外国語)だ。いったいどうやって「プログラミングを通して教科を学ぶ」のだろう。まさか形態素解析や統語解析のプログラムを書かせるわけでもないだろう。用意された用例コーパスから、語句の用例を求めるとかだろうか。それもかなり難易度が高い。あるいは電子辞書を引くだけだろうか。現実的なのは、用例も含まないわけではないが、単語帳として使う方法だ。これなら表計算で充分ではある。ただしプログラミングを通して教科を学ぶという題目からは離れるが。

 まさかとは思うが翻訳ソフトを作るとか、使うということはないだろう。既存の翻訳ソフトはまだまだ信用できないし。

 あるいはスライドを使ってなにかをするというのはあるかもしれない。でも、それはプログラミングを通して教科を学ぶと言えるのだろうか。

 といったところで考えると、「プログラミングを通して教科を学ぶ」というのは、かなりの無理難題であるように思える。実際にやるなら、表計算で計算をするか、表計算を知識ベースとして使うかで、かなりのことが済んでしまうようにも思える。もっとも、表計算だとプログラミングにおいてあちこちに出てくる、探索を扱うのはすこし難しいかもしれませんが。知識ベースとして表計算を使うなら、「もういっそのことProlog使う?」とも思えます。

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公開して急なおしらせになりますが、2017年 10月 9日、13:30〜16:30に、「コンピュータを使わない、コンピュータとプログラミング入門」という講習を試験的に行ないます。

主な対象は小中学生ですが、高校生以上、大人も受講していただけます。

場所は、山梨県 大月市 市立図書館 会議室です。

参加の予約は不要です。ただし、申し込みをしていただくと、準備に際して助かります。

また、見学も歓迎いたします。

詳細というほどのものではありませんが、こちらのページを参照していただければと思います。