2021/11/22 11:41

【過去にタイムスリップする】

Q:デビュー作になる予定の『再会。またふたたびの……』ですが、この発想は、どのように?

A:そもそもから話すと、もう30年以上になりますが、こうしたストーリーの話を読みたかったのです。

Q:こうしたストーリーとは?

A:人生って、たいてい後悔があると思うのです。あのとき右に曲がらず左に曲がっていたら、とか。そしたら、どうなっていたか?

Q:そういうSF、たくさんありますよね。

A:ええ。AさんとBさんと、どちらと結婚しようかと迷い、結局Aさんにしたけど、うまくいかなくなった。もしBさんと結婚していたら、とかね。

Q:過去をやり直したい?

A:わたしは、そういう考えは持ちません。でも、あのとき、もしも、ということは考えますよね。

Q:では、そういう、過去に戻って、もういちどやり直す、というストーリーですか。

A:いえ、違います。そうした作品には、すでに名作ぞろいで。わたしの出番はありません。

【若いときの連れ合いに出遭ってしまったら】

Q:それでは?

A:ネタバレになりますが、わたしは天邪鬼なので、幸せの絶頂から過去に戻ってしまったら、と妄想してみました。そのうえ、その幸せをもたらしてくれた連れ合いの若いころに出会ってしまったら、とね。

Q:その連れ合いとは齢の差がある。

A:はい。過去に戻ったら自分と同じくらいの齢の若き夫だった。

Q:まだ結婚前ですから、ただの若い男性。

A:そうですね。でも、好きで結婚した相手ですから、当然かな、好きになってしまう。

Q:でも、まだ若いから、未熟で。

A:そうです。はっきり言って、まだ経済力なんてない学生で、将来は未確定です。

Q:その男性としても、将来の結婚相手なのですから、好きになる?

A:そうでしょうね。恋愛関係になるのは自然かもしれません。

Q:そうはいっても、好きになってもいいのか、迷うのではないでは?

A:おそらく。そこらあたりの「イフ・if」に関心がありました。

Q:環境というか、いろいろと違うわけですね。

A:相手が男性でも女性でもいいのですが、若いころの、それゆえに未熟な面を持つ相手に、過去で出遭ってしまったら、どうなるのかな、って。


【近過去を描きたかった】

Q:その「もしも」のためにタイムスリップする必要があるわけですね。

A:はい。SFは読むのが好きで、とても自分では書けないと思っていました。ですから、誰かが書いてくれるのを待っていました。でも、誰も書いてくれない。仕方がないので自分で書き始めました。

Q:主人公は2001年から1971年へと。

A:1971年なら、なんとか記憶が残っていたので。

Q:でも、実際に、当時の生活を再現するのは難しいのでは?

A:はい。1960年代は貧しい日本だったのですが、70年代は豊かになり始めていました。でも80年代の、とくにバブルの前ですから、いまからみれば、やはり、不便な時代です。ケータイ電話もないしネットもない。専業主婦が当たり前で、女は25歳までに結婚しろという同調圧力が凄まじかった。

Q:みんな煙草を当たり前のように喫っていた?

A:はい。登場人物は、ほぼ喫煙者です。

Q:メインの舞台は東京・渋谷。

A:自分が暮らしていた街なので。

Q:2021年の現在とはまるで違うのでしょうね。

A:2001年と比べても、です。ハチ公前のスクランブル交差点、まだありませんし。

Q:過去は過去でも、それほど昔ではない。

A:はい。近過去です。当時を生きていた人は、まだまだたくさんいます、わたしも含めて。

Q:戦前のことを知っている人もかなり少なくなりました。

A:はい。でも、記録が残っています。

Q:1970年代なら、記録もたくんさあるのでは?

A:あります。でも、激動の70年代なので、1年で街の景色が変わってしまったり。「狂乱物価」といわれるようなハイパーインフレの数年間もあり、物の値段ひとつでも正確に再現しにくいのです。


【大改造の真っ只中の渋谷の、あのころ】

Q:渋谷は、いま、大改造の真最中です。

A:「宮下公園」は「MIYASHITA PARK」になってしまって、昔の面影はありません。

Q:東急線の渋谷駅が地上にあったこと、そのうちクイズになりそうですね。

A:「ヒカリエ」の前は何だったか、もね。

Q:いま2021年に50代の人では、もう、あのころの渋谷は記憶にない?

A:80代なら大人になっていましたが、今度は記憶そのものが曖昧に。

Q:そこで、来年70歳になる前のいま、書き残しておきたいと?

A:そうです。いま書かなければ間に合わない。

Q:ずいぶん長い小説ですよね。

A:はい。当時をつまみ食いのように描くだけでは再現できなかったので。

Q:かなり原稿を削ったとか?

A:ええ。電子書籍という仕組みの問題で。仕方ありません。

Q:もっと書きたかったのでは?

A:実は、第2部と言いますか、「もうひとつのストーリー」も書いています。今回の小説が出版されたら、是非、それも世に出したいと思っています。2倍の長さになってしまいますが。

Q:気の早い話ですが、映像化されてもロケに困りそうです。

A:おそらく、全編フルCGになるのでは。