2021/11/07 11:00
食で農業をデザインする「株式会社 土とシェフ」代表の五十嵐創さんに聞く。新たな未来につながる食のサスティナブルの可能性と料理人の役割とは?

五十嵐さんは大量の食品廃棄物をきっかけに店を親族に譲り、サスティナブルなコミュニティとして有名な藤野地区で就農した料理人さんです。

「最終目標は命のある土をシェアすることである」と語る五十嵐創さん。

新たな未来につながる食のサスティナブルにおいて“今”料理人ができることとは何か?農大出身の異色の料理人に話を聞いてみました。

●五十嵐創プロフィール
食で農業をデザインする「株式会社 土とシェフ」代表取締役。東京世田谷の 高級無添加中華レストラン「広味坊」の総料理長として勤続していたが、より有機的な食のあり方を求め、藤野にて就農。循環型の農業を実践しながら、レストランシェフや食品開発を手掛ける。身体を整えるグルテンフリーのヴィーガン商品「ナツメとクコのグラノーラ」。湧水で煮た有機栽培「ビーツの水煮」の他、4cmの分厚い鉄器と炭と薪だけで調理する「究極の”ヒビキグルメ”」 を現在開発中。2021年日本『食のサスティナブルアワード』で金賞受賞。


都内で総料理長をしていた五十嵐さんは食品廃棄物(生ゴミ)をきっかけに店を辞め、藤野地区で就農しています。

- Q1) 五十嵐さんは、なぜ、総料理長を辞めたのですか?

100%自給率で循環型の地球に優しい究極のレストランとは何かを考えに考えた末、電気はソーラーパネル、水は湧き水、野菜は自分で育て、火は薪を使えば起こせると答えが出たのですが、どうしても生ゴミの問題だけは解決できませんでした。レストランで1日に出るゴミの量は大量で、一般的には業者さんに買い取ってもらう仕組みになっています。

料理は全て生き物でできているので、料理人は自然界から恩恵を受けて成り立っている職業だと思っています。でも廃棄の問題や、ゴミが行き着く先は結局、海か山か空を汚染しているんです。僕たちはレストランをひとつつくると、どれだけ自然界を壊してるのかと考えたとき、このまま料理を続けていくのは難しいと思いました。

それで、何か良い手立てはないのか徹底的に調べ、農大に通っていた頃に授業を受けていた小泉武夫先生のことを思い出し、著書『食の堕落と日本人』を読みました。その本の中に、葉坂勝さんが考案された地域資源循環型のプラントシステム「ハザカプラント」について書かれていました。ハザカプラントとは、バクテリアを用いて廃棄物をわずか25日間で完熟堆肥化、ゴミを命ある土に戻すというシステムで、そのシステムに衝撃を受けたことがきっかけでした。


- 五十嵐さん自身が解決できなかった生ゴミの問題を解決する方法が見つかったので総料理長を辞める決意をしたということですなんですね!

はい。ハザカプラントに衝撃を受け、思いの丈の全てを綴ったお手紙を葉坂社長宛に送り、後日、電話をいただきました。そして、ついに葉坂さんとお会いできる機会をいただき、自分の想いをお伝えすると、「全ては命の循環。廃棄なんていうとんでもない、人間のおごりを捨てなければいけない。命の循環の大切さに目を向けた君はね、選ばれた人間だっていうことだよ。それはやらなきゃいけないこと。できる、できない、難しい、簡単とか、そういう次元の話ではない。ちなみに五十嵐くん、料理の三大原則って何だと思う?」と問いかけられたのです。

僕は20余年、料理のことだけやってきたのに何も答えることができませんでした。すると、葉坂社長が「料理の三大原則は風土、風味、風景だ!」と教えてくださり、また衝撃を受けました。僕はずっと料理をやってきたつもりだったけど、全く料理をやってきていなかったと感じ、もう一度料理をいちからやり直そうと思い、飲食業界というよりも料理人として循環社会を作ることに貢献したいと考えるようになりました。


- それで、藤野に移住して、有機農家になったんですね。

この話には続きがあって、葉坂社長から「五十嵐くん、あなたが考える風土、風味、風景についてと、あなたがやりたいと言っていることの青写真を次に会う時までに描いてきなさい。」と宿題が出まして、一年半かけて向き合い、自分なりの答えを出しました。

「風土とは、そこにある自然だと思います。山があり、川があり、それら全ての環境に風土があります。その自然を活かして育てた作物や命に初めて風味がのります。人がこねくり回して作ったものには風味は無く、ただの味です。農薬、化成肥料を使ってしまっては、風土とは言えませんし、そうやって作った物には風味はのりません。更に添加物を使ってしまっては、風味は消えます。風景とは、目で見る風景だけではなく、生産者や人や自然との命の繋がりを含めて風景だと思います。自然、命の繋がり、それらを器にのせたものが本当の料理と言えるのだと思います。恥ずかしい話、自分は料理人でありながら料理など作っていなかったのです。」と葉坂社長に答えました。すると葉坂社長は「正解。そういうことだね。」と言ってくれたのです。そしてしばらくしてから藤野に移住して就農しました。


- ここで、自園で収穫した旬のビーツを使った料理のレシピをご紹介します。五十嵐シェフがこだわる、風土、風味、風景を感じてみてください。


- Q2)  今、五十嵐さんが最も力を入れてる活動は?

今はナツメとクコのグラノーラという商品ですね。
鍼灸院の院長である妻から『妊産婦さんや妊活中の人の身体を支えられる、美味しくて続けやすいものを作ってほしい!』と言われたのがきっかけで、『全身に気血を満たし、めぐらせる』という東洋医学の基本的な考え方を取り入れ、玄米、オーツ麦をベースに、ナツメやクコの実など、オーガニック原料を仕入れ、美味しく食べて気血を補える素材をふんだんに詰め込んだグラノーラを開発しました。

余談ではありますが、全国で深刻な問題になっているのが耕作放棄地ですが、普通は農薬を撒いていたりしているので畑の再生が必要です。この土の再生に、オーツ麦が有効という事実を知りました。しかしオーツ麦の国産のマーケット市場のニーズが弱いため、換金が出来ない現状を変える必要があると思っています。そこでグラノーラの原料を、耕作放棄地の土づくり目的のオーツ麦にかえていこうと動いています。まだ耕作放棄地を借りてオーツ麦の種作りの段階ですが、来年、再来年には耕作放棄地の解決方法として面白い結果を出せるのではないかと思っています。ぜひ、日本一エシカルなグラノーラをお召し上がりください!


- Q3) 今、「ひなのマルシェ」でもオリジナル商品の展開を考えています。「ひなのマルシェ」を象徴するような商品が良いのですが何か良いアイディアはありますか?

オーガニックの廃棄野菜で作る「有機野菜のふりかけ」とか「有機野菜のポタージュ」が良いかと思います。市販のふりかけはオーガニックなものが少ないので、ぜひ実現したいと思っています。

- 凄くいいですね!さっそく、ひなのさんに提案してみます。試作品はすぐできますか?

できますよ!ゴーサインさえいただければ、すぐに作ります。


- ありがとうございます。
今後もひなのマルシェが目指す “クリアな地球” を一緒に築き上げていきましょう!
五十嵐さん、本日はありがとうございました!