タンザニアの無添加ドライフルーツ、有機カカオ豆などを生産者から直接輸入し、国内で販売している「藤野良品店」代表・柳田真樹子さんに聞く。タンザニアと日本をつなぐスポークスウーマンが語る、小さな力がタンザニアの人々に与える大きなインパクトや、タンザニアのカカオ豆でつくるクラフトチョコレートの可能性とは。
娘さんのために、自然豊かな環境とシュタイナー教育を選び、神奈川県と山梨県の県境にある「藤野地区」に移住した柳田さん。夫が仕事の関係でタンザニアに設立したドライフルーツ工場を応援したいと考え、一念発起して、「藤野良品店」を立ち上げる。
子育てに専念していた主婦がいかにして、タンザニアと藤野をつなぐお店や、カカオ豆からつくるクラフトチョコレート店を成功させたのか。そして、そのチョコレートの可能性について、語っていただきました。
●柳田真樹子プロフィール
娘が小学校に上がる時に、自然豊かな環境とシュタイナー学園、トランジションタウンに惹かれ、勤めていた会社を辞めて里山藤野への移住を決意。しばらくは慣れない田舎生活やシュタイナー教育的子育てに専念していたが、夫の仕事の関係で設立されたタンザニアのドライフルーツ会社Matoborwaを応援したい、という想いから藤野良品店を立ち上げる。トランジション藤野でつながった多くの人達のおかげで、今までやったことのなかったドライフルーツなどの輸入販売、クラフトチョコレートの製造販売などの事業が形になりつつある。
【インタービュー】
- Q1 藤野には都会から移住されてきたとのことですが、なぜですか?
この街に移住するまでの経緯をお話しすると、私の学生時代まで遡ることになるので、ちょっと長くなるのですが・・・。私はもともと環境問題に関心があり、高校では化学系の学部に入学するために理系科目を中心に受験対策用に詰め込み型の勉強をしてきました。でも、勉強しながら「微分積分やベクトルって何に使うんだろう?何のために勉強するんだろう?」と疑問に思いながら、ただ、テスト対策のために勉強していたんです。その後、理系の大学、大学院に進学し、環境問題に関する研究などをしたあと、就職活動をして初めて勤めた会社は環境装置メーカーでした。そこではゴミ問題を解決する新しい焼却炉の開発や太陽電池の開発などに携わりました。会社で設計などの仕事をしていく中で、学生時代に勉強してきた微分積分やベクトルの知識を使うことになり、「今まで勉強してきたことが身の回りのものづくりに必要なことなのだ」ということをそこで初めて知りました。同時に、「なぜ、学校では何のために学ぶのかを実感する体験も一緒にさせないんだろう?」と今の日本の教育に疑問を感じるようになりました。そこから、環境問題だけではなく、教育問題にも強い関心を持つようになり、その会社を退職し、教育業界に転身しました。
転職した会社では、「貿易ゲーム」という「仲間と協力しながら課題を解決することで、生きるチカラを育む授業」を全国の小中高校生に実施したり、「五感を使って自ら試行錯誤しながら様々な実験をすることで、考える力を育む」をコンセプトとした科学実験教室の商品開発・講師・運営などを担当しました。
これらの経験の中で、自分自身のやりたいこと、生涯の仕事として「地球の自然環境や世界の教育環境がより良いものになるような働きかけがしたい」という気持ちが自分自身の中心に芽生えたのだと思います。
しばらく出産・育児をしながら会社勤めをしていたのですが、上の娘の小学校進学を考えるタイミングで、色々と日本の教育について調べるうちに、ドイツ発祥のオルタナティブ教育であるシュタイナー教育に出会いました。シュタイナー学校は海外には1,000校以上あるのですが、日本にはまだ数えるほどしかありません。いくつかの日本のシュタイナー学校を見学に行きましたが、その中でも自然環境が豊かで、夫が都内の仕事場にも通える地域ということで藤野にあるシュタイナー学校に決めました。
藤野の魅力は他にもあって、「トランジションタウン」という、持続可能な社会へ移行していくために、市民が自発的に地域の暮らしを考え、行動し、意識をもって日々の暮らし方を変えていこうとする活動を実践している地域なのです。そんな考え方や活動に魅力を感じた多様な人たちが藤野に数多く移住してきて、「こんなことやりたいね!」と自由にプロジェクトを立ち上げたりしています。そのどの企画も楽しいのです。藤野にはそんな人達が企画したイベントがしょっちゅう開催されていて、そこに行けば、地域の人達に会えるので、イベントに遊びに行くにつれて、たくさんの知り合いが増えていきます。知り合いが増えれば、新しいアイデアが出てくる。アイデアを形にしていくとまた知り合いが増えていく。誰か地域のリーダーがいるわけではないのに、自然と地域が盛り上がっていく、藤野はそんな場所だと思います。
- Q2 藤野良品店を立ち上げた経緯についてお聞かせください。
私も移住してしばらくは、田舎暮らし生活とシュタイナー教育的な育児に専念していました。そんな生活も楽しかったのですが、2年もすると飽きてきて(笑)何かしたくなってきました。そんなときに、夫が途上国支援の仕事をする関係で、アフリカのタンザニアでパイナップルやマンゴーの無添加ドライフルーツ工場を設立しました。砂糖も何も加えていない完熟した新鮮なフルーツを現地ですぐにドライフルーツにしているためか、酸味と甘味が濃縮されていてとても美味しくて。子どもたちも大好きで、無添加だし、安心して友達に紹介できました。
このタンザニア産のドライフルーツを本格的に日本でも販売できたらな、という話が夫から挙がって。それなら、手伝おうか?ということになり、藤野の親しい友人たちと飲みながら(笑)、コンセプトやネーミング、パッケージデザインや価格などを検討し、「藤野良品店」を立ち上げました。
- Q3 クラフトチョコレート屋さんをなぜ始めたのですか?
タンザニアのドライフルーツ工場の仕事の関係で3ヶ月に1度くらいのペースでタンザニアに出張に行っていた夫が、ある日、発酵・乾燥させたカカオ豆を市場で買ってきた、とお土産に持って帰ってきました。どうやらこの豆を使ってチョコレートを作れるらしい、と。
インターネットなどで調べて、試しにチョコレートを作ってみました。カカオ豆をオーブンで焙煎し、皮をむいてから家にあるすり鉢やフードプロセッサーなどを使って擦っていくと、ドロっとしてきます。そこに砂糖を加え、好みの甘さにして混ぜてから、適当な型に入れて冷やし固めると、舌触りこそざらざらしていましたが、今まで食べたことのない、フルーティで後味がスッキリとした美味しいチョコレートができたときは驚きました。あまりにも美味しかったので、遊びに来る友人たちにおやつで振る舞っていたら、どの人も驚きとともに「これは絶対に売ったほうがいいよ!」と。でも、お菓子づくりもそんなにやったことのない私たちがチョコレート屋さんなんて無理だよ、製造許可が下りる場所もお金もないし。と言っていたところ、「あそこの工房なら使えるよ」とか「あの補助金があるよ」とか、藤野の様々な友人知人がアドバイスをくれ、あれよあれよという間に実現化してしまいました(笑)。
- Q4 藤野良品店のこだわりについてお聞かせください。
まずは、美味しさと安心安全なものであるか。基準は、我が子に食べさせたいものかどうか、で判断しています(笑)。
それから、地域との出会いや繋がりを大切にしたものづくりを心がけています。ドライフルーツやチョコレートの包装紙のデザインやイラストは、藤野でイラストレーターやデザイナーをしている友人にお願いしています。また、チョコレートのオリジナルの型は、カカオの実を半分に割った形をイメージしたもので、これも藤野の造形作家さんにデザインをお願いしました。チョコレート包装紙の折り作業は地元の障害者施設に手伝っていただいています。また、藤野は有機農家さんが多い地域。特産品の柚子やキウイ、生姜など、有機農産物を使った季節限定商品も試行錯誤しながら商品開発しています。
それから、環境にも配慮した商品づくりを意識しています。これは、最初の方にお話した、「地球の自然環境や世界の教育環境がより良いものになるような働きかけがしたい」という気持ちが自分の中にあるためです。
一般的に、カカオ豆はオーブンで焙煎するのですが、なるべく環境負荷を減らしたチョコ作りをしたいという想いから、私たちは地元藤野の「篠原の里 炭焼き部」が作っている木炭で焙煎しています。炭火焙煎したカカオ豆で作ったチョコレートは、遠赤外線の効果なのか、より風味に深みが出るように思います。でも、木炭での焙煎は火加減や焙煎時間の調整が難しいので毎回少しずつ焙煎具合によって風味が違います。いつも同じ味が出せないクラフトチョコレートですが、それを楽しんでもらえたら嬉しいです(笑)。
また、チョコレートの包装にはアルミ箔を使うのが一般的ですが、環境負荷を考えて私たちは紙素材を使っています。紙だとチョコレートの風味の保存性がアルミより少し落ちるので、早めに食べてください(笑)。
- Q5 やったことのない事業を始めて、苦労ややりがいはどんなことがありましたか?
これまで私は会社員しか経験したこともなかったので、小さい事業とはいえ、何をどうやってスタートすればよいのか全くわからずとても不安でした。価格ひとつ決めるのも何を基準に決めれば良いのか、など。自分の人件費も考慮して値段をつけると、すごく高くなってしまって、これじゃ売れないよ〜!とか。チョコレートの試作品を友達に食べてもらうのは大丈夫でも、実際に売り物を作るとなると話が全く違ってきます。どこまでのクオリティを求めるのか、量産に必要な機材や製造条件をどうするのか。50枚一度に作ったチョコレートを型から出すと、ほぼ全滅の仕上がり、ということもしょっちゅうありました。でも、この街には、私みたいに「やってみたい!」と思ったことを実現している、小商いを営む人がたくさんいます。彼らも同じような悩みや経験を持っているので、私の悩みを聞いてもらってアドバイスをもらうことができ、解決策を見いだすことができました。
ドライフルーツ工場のスタッフから聞いたのですが、タンザニアでは、毎月約束した日に約束した給料を支払うという習慣があまりなく、また、自分の仕事が終われば人の残っている仕事を手伝って工場全体の仕事をみんなで終わらせるという感覚もあまりないそうです。でも、Matoborwa社では、みんなで助け合ってひとつの仕事を仕上げ、毎月きちんと約束した給料を決まった日に支払っているため、安心して子どもを学校に通わせながら働き続けることができるそうです。パイナップルは稀少な自然栽培のものを使っているのですが、これも、きちんと約束した金額を約束した日にお支払いすることを続けているからこそ信頼関係を築くことができ、契約農家さんに安全安心な作物を作り続けてもらえています。
こういう話を聞くと、色々と苦労もありますが、この事業をはじめてよかったな、と思います。
- Q6 この事業の可能性や今後やってみたいことはなんですか?
以前、トライアル企画で、チョコレート作りのワークショップをやったことがあるのですが、それがとても楽しくて。
みんなで炭火を囲んでカカオ豆を焙煎しながら色々な話をしたり、地元産の農産物を自由にデコレーションしてオリジナルのチョコレート作りをしてもらったり。
カカオ豆からチョコレートを作るという体験をしたことがある人はほとんどいないので、みなさん、すごく興味も持ってくださったし、タンザニアや藤野のことを知ってもらう良い機会にもなって。チョコレートづくりをテーマに、子どもたちの五感を使って試行錯誤する楽しい体験プログラムにもなるし、チームビルディングやクリエイティブの新人研修にもできるし、環境問題や途上国問題を考える企画もできるし。
この事業を時代や環境に合わせてどんどん変容させて、私自身の生涯の仕事と位置づけた「地球の自然環境や世界の教育環境がより良いものになるような働きかけがしたい」を実行していきたいと思っています。
- オリジナルのチョコレート作り、素敵ですね!ひなのマルシェでも地球環境にメッセージを発信していくべく、ひなのマルシェオリジナルの新しいチョコレートなんて作れたら素敵だと思うのですが、いかがでしょう?
それは素敵なアイデアですね!タンザニアのカカオ豆と地元の有機農産物、そしてひなのさんがいらっしゃるハワイとがコラボした、地球環境を意識したチョコレートが作れたら、大きなメッセージを多くの人達に伝えられると思います!考えただけでワクワクしますね!
- いいですね!『ひなのマルシェ』第一期メンバーも全員参加できる形で商品開発させていただければ最高です。柳田さん、ひなのさんとリモートでミーティングしましょう!
ぜひ、よろしくお願いします。
- 今後、クラフトチョコレートに関する進捗情報は、皆さんにお知らせしますのでお楽しみに。
柳田さん、本日はありがとうございます。