はじめに・ご挨拶
お世話になります。NPO法人環境共生機構 理事長の臼井惠次(うすいけいじ)と申します。私は、宇部フロンティア大学という山口県にある地方大学の名誉教授(68才)です。専門は環境化学や環境社会学であり、海水、湖沼水、河川水などの水環境の保全や堆積物中の有機物である腐植物質に関する研究、あるいは環境マネジメントシステムの研究、とくにカーボンニュートラルに関する研究を行ってきました。
さて、皆さんは、「ブルーカーボン」という最近よく聞かれるようになってきた言葉をご存じでしょうか? そうです!海洋に吸収されるカーボン(二酸化炭素)のことです。地球温暖化問題では森林に吸収されるCO₂が重要といわれていますが、海にも森林に匹敵するくらいの多量のCO₂が吸収されているのです。海水そのものに吸収される量も多いのですが、光合成を行う褐藻類などの海藻に吸収・固定されるCO₂は非常に重要なのです。
ところが、地球温暖化により、海水温が30℃近くに上昇する沿岸海域では海藻が弱り、海中林とも呼ばれる海藻の群落(海中林)が極端に減少して、CO₂の吸収が出来なくなっています。さらに、海藻の天敵と呼ばれるようになったウニ類が異常増殖し、少なくなった海藻を食べ尽くしています。この現象を「磯焼け現象」と言いますが、最近よく話題になる社会問題ですね。「磯焼け現象」は海藻の養殖技術の画期的な改善やウニ類の大規模な除去など、様々な方法で対処しなければ回復しません。
海中林による「ブルーカーボン」固定の問題は、地球温暖化防止に関係するばかりでなく、海中林は海の「ゆりかご」と称されるくらいの魚介類の産卵の場であり、養魚を守るバリケードでもあります。海中林は、水産業の発展にも是非とも必要なものなのです。私たちは、国内外の大学で研究してきた森林土壌由来の有機物質である腐植物質のうち、低分子フルボ酸と鉄の化合物である「2価鉄-フルボ酸錯体」など、堆積物中の物質が海藻や水産物の増殖に関与している可能性を見極め、これらを発展させて行く必要があると考えています。
このたび、雲仙普賢岳や桜島の新生火山灰、電力会社の火力発電所から排出される廃棄物であるフライアッシュ(石炭灰、飛灰ともいわれる)の粉体を基材にして、トウモロコシなどからつくられるPLA(ポリ乳酸)樹脂という生分解性の特殊な発泡バインダーで固め、バーク堆肥などの森林土壌由来の腐植物質や鉄化合物を用いて2価鉄-フルボ酸錯体を高濃度で長期にわたって溶出するブロックを開発しました。これを磯焼け現象で荒廃した海底に、新しく開発した鋳鉄製の枠(錘と魚礁を兼ねる)と共に沈め、栄養のない海域の海中林を再生する試みを開始しています。このバインディング技術等で、山口県知事から2021年度の技術革新計画に係る承認も受けております。
また、これだけでは海中林を復活させるのは困難ですので、最近普及している3Dプリンターを駆使し、発泡バインダーと同じ生分解性ポリ乳酸(PLA)を原料にした有用海藻の種苗チップも開発しました。この種苗チップを用いて、ヘルシーなネバネバ海藻(フコイダン含有)として注目されているアカモク(海中林の中心となるホンダワラ類の一種)の種苗に成功しています。
さらに、海藻の天敵として駆除されるウニ類を独自の技術での有価値化も行っています。ウニ類の有価値化とは「ウニ類の餌」に着目し、陸上野菜をベースにタンパク質による成長速度の増進、酵素反応による溶解速度の低減、至適なアミノ酸や糖質の添加による味覚の改善、色素物質量の調整を行った人工食餌を開発し、これまでにない最高に美味しい黄色い生殖巣をつくり出す我々の開発している技術のことです。既に、乾燥個体とゲル体の2種類の人工食餌を開発しています。また、徹底した温度管理や水質管理、組織培養技術を用い、季節によらない旬を創造することにも挑戦しています。最終的には、これらの技術を駆使して、水産業界に旋風を起こしたいと考えています。
この事業を主催するのは、NPO法人環境共生機構ですが、仲間には環境社会学や環境分析学を専門とする研究者や技術者たちが集結しています。当NPO法人は、これまで、環境省の策定した環境マネジメントシステム(EMS)であるエコアクション21(EA21)の審査・認証を行う地域事務局として、企業様のカーボンニュートラルや環境への貢献等を長年、指導してきた実績があります。その過程で経験し、問題となったのは「日本の水産業界の衰退」、「沿岸海域の環境保全」および「ブルーカーボンの固定問題」があったからです。
このプロジェクトで実現したいこと
このプロジェクトの最終目的は、「ブルーカーボン」という海に吸収されるカーボン(二酸化炭素)の海藻による固定増進による地球温暖化対策と疲弊する水産業の活性化です。具体的には、磯焼け現象で枯渇寸前となっている海藻の群落(海中林)を森林土壌由来の有機物と鉄との化合物や栄養素、新しい養殖技術等を用いて再生し、多量のCO₂を吸収させることと有価物の海藻とウニ類などの棘皮動物の養殖で水産業を活性化することにあります。
そのためには、次に列挙した課題を解決するための方策が必要となります。
課題1 海藻類増殖のために供給する栄養源とその溶出ブロックの開発
風力や水力、太陽光などの自然エネルギーによる電源確保が重要ですが、まだ、圧倒的に石炭火力発電所の稼働しているのが現状で、毎年数十万トンものフライアッシュ(石炭灰)が廃棄物として排出されます。また、普賢岳や桜島から排出した火山灰は処理が大変な状況です。すでに我々は、これらフライアッシュや火山灰などの廃棄物を基材に用い、助剤として鉄材(主に二価鉄源)、牛糞、鶏糞等と間伐材を発酵させたバーク堆肥等を混入、反応させ、二価鉄-フルボ酸錯体を高濃度で連続的に溶出する多孔質ブロックの開発に成功しています。多孔質ブロック作成に関しては、独自に開発した発泡バインダーによる基材の多孔質化技術を用いています。ブロックを作製するには、これまで海洋プラスティックごみの問題を勘案してPVA(ポリビニルアルコール)を使用していましたが、トウモロコシからつくられるPLA(ポリ乳酸)という生分解性の発泡バインダー(結合剤)が有用であることも突き止めています。コンクリート加工系企業の協力もあり、量産も可能となっています。
課題2 食害防止用鋳鉄魚礁の開発
新しく開発した栄養素等を溶出する多孔質ブロックは、食害防止用鋳鉄枠に入れて海底に沈めます。この鋳鉄枠は、鉄源にも魚礁にもなることを考えました。この鋳鉄枠は漁師二人でも容易に水深5m以浅の藻場が繁茂できる岩礁域に設置できる小型の組み立て式キューブ型としました。また、鋳鉄枠は海底地形に合わせて連結できる工夫をしています。さらに、精度の高い深浅測量などの海底地形調査、海水の水質検査およびフィールド実証実験などで設置場所を決定する水中土木(どぼく)との連携も行っています。
課題3 海洋養殖に用いる種苗チップの開発
海藻の群落(海中林)の再生に必要な中心的海藻は、ホンダワラ類です。ホンダワラ類の中でもアカモクやヒジキという有価物をターゲットに、海藻の幼体を種苗する技術開発を行ってきました。最近普及してきた3Dプリンターで生分解性PLAの種苗チップを製作し、今年5月に、アカモクの幼体を種苗することに日本で初めて成功しています。この生分解性PLA種苗チップは、種苗過程を飛躍的に単純化でき、従来行われている方法と同じく、クレモナロープに装着し、選択海域に設置できるので海藻養殖労務に画期的な軽減対策となります。勿論、養殖したアカモクやヒジキ等は有価物ですので、一部は販売して次の養殖資金や開発費に充填します。
課題4 海藻に食害を与えるため駆除されるウニ類等の養殖
海藻の群落(海中林)の再生を妨害する因子にウニ類による食害の問題があります。一般的に大量増殖した内容物のないウニ類の駆除も必要ですが、駆除したウニ類を養殖し有価物として販売する方法が望まれます。ウニ類の養殖に必要な食餌の原料に、天然の海藻を多量に使用すると、海藻によるブルーカーボン固定という観点では本末転倒となり、海中林の再生に逆行する結果となります。このために陸上の植物や野菜を原料とした食餌開発(人工海藻ともいう)を作製して養殖する必要があります。すでに、先人たちが多くの野菜を用いてウニの養殖を行っていますが、美味しく色味の良いウニの生産になかなか到達しないようです。最近話題となっているのは、神奈川県で開発されたキャベツウニで、キャベツを食餌とするウニ類の養殖方法が最先端です。我々が「海の杜研究所」と共に開発しているウニの食餌は、ブロッコリーなどのアミノ酸含有量の多い野菜を原料に、ウニの味を決めるアミノ酸や糖質、成長速度の増進タンパク質や酵素反応の利用して作成したもので、非常に良い結果を得ています。また、季節によらない旬を創造するための食餌も開発中です。さらに、徹底した温度管理のできる高性能浄化装置の付いた屋内水槽において、ウニ類と共存可能な同じ棘皮動物であるナマコ類の養殖との併用も検討しています。
プロジェクトをやろうと思った理由とこれまでの活動
下に示したのが、磯焼け現象という海藻が枯渇してしまった海底の写真です。「ブルーカーボン」という二酸化炭素を大量に吸収し、魚介類の産卵藻場である海藻群落(海中林)は完全に無くなり、可食部(生殖巣)の無いウニやヒトデ等しかいない荒廃した海底です。
この様な海の生態系の変化が起きたは原因は、地球温暖化による海水温上昇や水産物の乱獲など多くあります。世界に冠たる日本の水産業は衰退の一途を辿り、漁業従事者の高齢化も重なって先行きが見えなくなっています。それがこのプロジェクトを立ち上げた理由です。
上述した課題を1つずつ解決して行くことが、海の豊かさを回復させるために必要と考えています。
【詳細説明】
二価鉄-フルボ酸錯体について
地球温暖化による海水温上昇に対抗することは困難ですが、海藻類を増殖させる栄養素の増強は可能です。1つの方法に、二価鉄-フルボ酸錯体の供給があります。フルボ酸は森林土壌の有機成分である腐植酸(落ち葉等の朽ちたものが起源)のうち、分子量が数千の低分子有機物で、カルボキシル基が多く含まれる錯体形成能力(金属イオンと結合する力)が高い有機物です。豊かな漁場で知られるオホーツク海には、ロシアの大森林(ウスリータイガ)起源で泥炭地の鉄を含み、黒竜江(アムール川)を経て流氷や海流に乗って運ばれ、オホーツク海に堆積されていると考えられています。オホーツクの海底から流氷大回転などに起因する湧昇流で巻き上がり、海水中の高い鉄濃度を維持していると考えられます。測定された溶解性の鉄濃度は0.2mgFe /L以上もの高濃度を示します。
鉄は一般に、海水のpH領域(7−9)では難溶解性の水酸化鉄となり沈殿しますので、海水中にはほとんど溶解性の鉄は存在しません。錯体(錯イオン)の形しか鉄は海水に溶解できません。オホーツク海では流氷や海流に乗って直接運ばれる鉄-フルボ酸錯体の他、海底堆積物中に蓄積したフルボ酸が、嫌気的環境の中で三価鉄から二価鉄に還元された二価鉄と錯体を形成し、海水中で溶解型の二価鉄-フルボ酸錯体となって存在し、この高いの供給量が維持されると考えられます。これがプランクトンや海藻の栄養源となり水産活性の高いオホーツク海の大きな特徴をつくっていると思われます。つまり、海の繁栄に必要な海水中の鉄濃度は、0.2mgFe /L以上という仮説が考えられる訳です。オホーツク海以外の海域で同等の効果を創出しようとすれば、0.2mgFe /L以上の鉄濃度を二価鉄-フルボ酸の形で供給すれば良いということになります。同様の考えで、海水に鉄を供給する方法として、鉄源に鉄鋼スラグやカイロの発熱剤、有機物源に廃材チップやデンプンを利用する方法で磯焼け対策に挑んだ例がありますが、これらの方法では有効成分とされる二価鉄-フルボ酸の溶出量が桁違いに少ない(30㎍ Fe2+ /L以下)ことやスラグが収縮して基材として利用できなくなる等の問題があります。
さて、課題1の海藻類増殖のために供給する栄養源と溶出ブロックの開発および課題2の食害防止用鋳鉄魚礁の開発詳細ですが、東日本大震災後にフル稼働している石炭火力発電所から多量に排出されるフライアッシュあるいは雲仙普賢岳、桜島火山灰を基材に、間伐材から作られたバーク堆肥および鉄化合物を原料に、特殊なPLA(ポリ乳酸)発泡バインダーで固化した新型多孔質藻礁ブロックを作成してみました。このブロックから可溶性二価鉄-フルボ酸錯体を現行の最高水準の60倍である18 mgFe2+ /L以上もの高濃度で溶出し、バインダー量の調整で溶出速度もコントロール可能なことを、我々が新規に開発した2価鉄飽和アガロースゲルカラムでの反応ゲルクロマトグラフィーで確認しています。さらに、藻礁の保護の役目を果たす鋳鉄枠を製作し、漁師が二人程度で容易に設置できる魚礁としても利用でき、レゴブロックの様に3次元に拡張できる工夫を行っています。この魚礁や鉄等栄養塩溶出ブロックを設置する場所の選択は、深浅測量や潮流計測して決定します。
この研究により予想される結果は、日本のみならずグローバル規模で問題となっている「磯焼け」現象の解消に対して貢献でき、同時に開発した安価な簡易キューブ魚礁(鋳鉄で作製した魚礁兼溶出ブロック保護枠)も有効利用できるものと考えます。
課題3の海洋養殖に用いる種苗チップの開発ですが、海中林の再生に必要な基幹海藻はホンダワラ類です。ホンダワラ類の中でもアカモクやヒジキという有価物をターゲットに、海藻の幼体を種苗する生分解性PLAチップを最近普及してきた3Dプリンターで製作し、2021年5月にアカモクの幼体を種苗することに日本で初めて成功しています。
これを沿岸海域に設置した養殖用ロープに50cmごとに装着して養殖します。その概念図を示しました。
課題4の海藻に食害を与えるため駆除されるウニ類等の養殖については、先に述べましたが、海の杜研究所と共同で、海藻に替わる餌として、ブロッコリーなどの野菜を原料にウニの味を決めるアミノ酸や糖質、成長速度の増進タンパク質や酵素反応の利用、季節によらない旬を創造するための保存方法を開発しています。
以上の課題解決を行うことが、有用海藻を主軸にした「ブルーカーボン」の固定に繋がると考えています。また、有用海藻やウニ類などの棘皮動物の養殖推進は、日本のみならずグローバル規模の水産業の活性化にとって、最も良い結果を生むと信じて邁進しています。
【まとめ】
我々が行うプロジェクトを下図にまとめてみました。
資金の使い道
集まった資金は、研究開発のための実験室賃借料(7万円/月)、光熱水費(2.5万円/月)、研究・開発および実験材料費(8万円/月)、研究職員の人件費(15万円/月・人)、研究のための交通費(3万円/月・人)、謝金(6万円)、CAMPFIRE手数料および支援金支出者への返礼(報告書等)に使用します。
リターンについて
本プロジェクトは、ブルーカーボン固定のための技術開発を行い、地球温暖化現象を抑制することを最終目的で行います。支援頂ける皆様はその重要な一員となります。
また、All-or-Nothing方式で実施する寄付型プロジェクトです。リターンは基本的に事業報告書等の非売品となります。また、環境共生機構は非営利活動法人ですが、このクラウドファンディングを支援することで、支援者が税制優遇を受けることはありませんので、ご了承をお願い致します。
実施スケジュール
実施スケジュールは以下に示しました。
最後に
地球温暖化による海水温上昇や他国による水産物の乱獲などにより生じた日本の水産業の衰退を回復させるためには、ブルーカーボンの固定問題がSDGs(13,14)と相まって社会問題となっている今こそ、メスを入れなければなりません。このために考え抜いたプロジェクトです。さらに、漁業従事者の高齢化や後継者不足が拍車をかけている業界の回復も活動範囲に含んでいます。何卒ご支援願います。
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