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チェロの長南牧人です。
今日は前回お伝えしたように、弦楽器の「お値段」について、すこし触れてみたいと思います。
赤裸々に語る所もあると思うので、ひょっとしたらパンドラの箱を開けてしまう事になるかもしれませんが、
今や情報化社会、クリアーな部分も必要かと思います。
コロナ禍になってから家で過ごす時間が多くなったせいか、弦楽器の販売数が伸びているそうです。
それに伴ってネット知識検索サービスなどで「バイオリンの値段」とか「初心者用バイオリン いくら」などという検索や質問を良く見かけるようになりました。
テレビ番組で音を聴き比べて「どちらが〇〇億円のヴァイオリンでどちらが〇百万円のヴァイオリンでしょうか?」などとやっていると「そんなにべらぼうな値段なのか!?」と思ってしまいますが、平たく見ると車などと同じように考えても良いと思います。まぁもっとも、車よりは骨董価値や美術品的価値がかなりの割合なので絵画などの美術品に例えても良いでしょう。
車も安い中古車は1万5千円なんていうのもありますし、何十億円の車もあります。
2020年に1963年式のフェラーリ250GTOが76億円で取引されたそうです。
絵画もオークションで競り合うとどんどん値段が吊り上がっていきますよね。
ヴァイオリンやチェロの弦楽器も最近は数万円のものが出回っていますし、いっぽう数十億円のヴァイオリンもあります。
さすがに一万円から何十億では幅が広くとりとめもないので、カテゴリー分けしてみましょう。
そうすればもう少し値段帯の意味がはっきりしてきます。
カテゴリー、製作された形態と値段帯で分けると大きく4つに分けられるのではないかと思います。
他にも産地によっても変わってきたり、通貨、為替相場によっても変わってきますがさらにややこしくなってしまうので、今回はこの2つで分けようと思います。
①一万円~十数万円程度 一番低い価格帯。
ベニヤ板、プラスチック、合成接着剤など安い材料や、本来使われるもの以外の材木などで手間をかけずに作られていて
構造や形が違っていたり音量が無かったり音質が悪かったりする。見た目が楽器の形をしているだけで楽器と言えるかわからない物もあり、実用的ではないもの。あまり長く使うと演奏技術に弊害が出るおそれもありますが楽器の構え方など初めて弦楽器を持つ人のトレーニングには有効かもしれません。
分数楽器(例えば子供用の小さな楽器など)はこの価格帯でも良いものが見つかる事があります。また、大きな修理が必要な良い楽器もあったりします。しかし現実問題として10万円で買ったヴァイオリンにたとえば50万円の修理代を出すのは勇気が要りますよね。
②十数万円~150万円程度 一般的な価格帯の楽器、工場量産、手工量産など量産品が多い。
量産楽器は工業製品扱いになる。おおむね10万円単位でクオリティーに差がある。
使われている材料、作りや仕上げなどのクオリティーで価格帯が分かれる。
多くのアマチュアの方、演奏家を目指す学生さんはこの価格帯の楽器をお使いの事だと思います。
③100万円程度~数千万円程度 マスターメード、完全手工製、手工量産もある。実用に耐えられる性能、機能を持つ。
多くのプロ奏者がこの価格帯だと思います。
見習い職人さんが製作した物や職人さんたちの合作(工房製などと呼ばれています)、人気や実力のある職人さんの作ったものなどがこのカテゴリーになると思います。
④数千万円~数十億円 マスターメード、骨董的価値、希少価値、歴史的価値が付いているので価格が高い。
個人では買えないような価格のものは銀行や大企業、財団、音楽大学などが所有していて演奏家に貸与していたりもします。
・・・といったように、機械で作ったのか、人の手がどれくらい入っているのか、腕の良い人気の職人さんが一人で全て作ったものなのか、職人さんが何人かで合作したものなのか、材料は良いものが使われているのか、手間をかけずに作ったものなのか、コンクールに出しても恥ずかしくないくらいキッチリ作ったのか
(ストラディバリウスさんの時代は楽器製作コンクールなどは無かったと思いますが)、などによっても値段が変わって来るようです。
ある程度ネタバラシはしてしまいましたが、みなさんはプロの奏者がいくら位の楽器を使っているか、ご興味がある事でしょう。
僕も知り合いなどからさりげな~く訊かれたり、ものすご~く遠回しに訊かれる事がたびたびあります。
ぶっちゃけ、数百万から数千万、一部の方は数億、とお伝えしておきましょう。
僕個人の場合は、初めて親に買って頂いた楽器は裏板がベニヤ板で、それでも当時、数十万円の物でした。
ン十年前の数十万円ですから、それなりの高額品だったと思います。だけどベニヤはベニヤ、次の楽器に買い替える頃にはほころびて、剥がれてきました。現在は安くて良いものも増えてきましたが高いも物はどんどん吊り上がっているので格差が広がって来ているとも言えると思います。
当時のお金、サラリーマンの初任給から推測して今の価格に換算すると、三桁万円くらいになってしまうとは思いますが、(国鉄(古いなぁ)の運賃、隣の駅の五反田まで大人10円こども5円だったのを覚えています)現在、三桁万円も出したらベニヤどころか職人さんが一人で製作した立派な物が買えます。
日本も豊かな国になったと思います。(この先は心配ですが・・・)
ここで、ひとつややこしい問題があるのですが「音の好みは人によって違う」のと、それによって
「音の良さと価格は比例しない(①は材料や作りの問題で論外とします)」です。
そしてさらにややこしくなるのが、楽器の評価をする「プロ」は三種類います。
製作者、販売者、演奏家です。この三種類のプロの評価はそれぞれの立場から全く違ったものになる場合があります。
値段を決めるのはその楽器を作った製作者と販売する人です。製作者と販売者でも付ける値段は違うでしょう。
さらに実際に音楽の現場で使う立場の演奏者は、音質や響きの良さ、会場の隅々まで届く音を求めるので輪をかけてややこしくなります。
音も出しづらく弾きにくくて古いからメンテナンスにもお金がかかって大変だけど良い音のする3千万円の楽器と、音はそこそこだけど弾きやすくて長時間弾いていても苦にならなくてメンテナンスも手間がかからない500万円の楽器でしたら毎日使うことを考えて、後者を選ぶ確率も上がるでしょう。
また楽器選びはしばしば、結婚相手を探すのに例えられます。
触れている時間も長いですし、苦楽を共にして目標を目指してゆく、大切なパートナーですよね。
リアルパートナーと違って、何回もグレードアップして行けるので良いですよね。(これは冗談です^^;)
最初の方でも書きましたがここの所、ヴァイオリンなどの弦楽器の販売数が伸びてきているようです。
昔からもありましたがここ数年、資産的価値のあるものとしての需要も多くなってきたようです。
コロナ禍後のインフレ懸念もありますし、お隣りの国の富裕層の方たちも爆買いしているらしく(消耗品ではなく芸術的文化的な価値のある物に目が向いてきたことは喜ばしい事でもあります、が。)資産価値が見込める弦楽器の注文が多くなっているようです。
ますます値段が吊り上がってしまいますね。
ちなみに、その流通量からチェロはヴァイオリンの二倍から三倍、ヴィオラやコントラバスはそれ以上に割高になってしまいます。
また、弦や弓の毛などの消耗品、メンテナンス代、修理費用なども割高です。
よく「コントラバスはヴァイオリンより大きくて材料がたくさん要るから高いのですか?」と訊かれますが、あくまで流通量の問題で、楽器の大きさは関係ありません。ただ、弦はその長さから関係あるようです(笑)
またまたとりとめもなく話してしまいました。
本日の結論、「楽器の価値は値段とは無関係、プライスレス。」
今回は話が少し下世話な方に来てしまいましたが、なんとなく「謎」な部分が少しでも解かる糸口を掴んで頂けたら幸甚です。次回は楽器の話を少し文化的な方に戻しましょう、音楽や楽器の事、色々な意味で「文化」ですよね。
それでは、他のメンバーの活動報告もお楽しみになさってください!