こんにちは。いつも温かなご支援、ご関心を寄せていただきありがとうございます。
本の制作も着々と進んでいます。
今日は、どうしてこの本を作ろうと思ったか。どんな本になり、誰に手渡していきたいか、などの思いを綴った、「はじめに」の原稿をご紹介させていただきます。
クラウドファンディングはまだ32日ありますが、すでにたくさんの方にお気持ちを寄せてくださいました。嬉しく、驚き、そして期待の高さも感じ、身が引き締まる思いです。
お時間のある時にでも、どうぞお読みいただけたらと思います。
編集長 矢嶋桃子
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はじめに―「であう」ということ
私たちの仕事は「社会的養護のアフターケア」と言われるものです。親や保護者と暮らせない子どもたちを、児童養護施設や里親家庭など公的な制度のもとで育てるのが社会的養護ですが、基本的には18歳で、高校卒業と同時に施設や里親のもとを出ることになります。または高校進学しなかったり中退したりすると、中卒でも「自立」という名のもとに出されてしまいます。そこから出た後のケアということでのアフターケアですが、頼れる家族という後ろ盾のない人たちが社会に出て遭遇する困難に、誰の力も借りずにひとりで対処することはとても大変なことです。
現在、社会的養護のアフターケアを事業として行っている団体は各地に増えてはきているものの、まだ数は少なく、財政基盤が脆弱なところも少なくありません。そこで、まずは全国の仲間たちと手をつなぎたいと、2018年に「アフターケア事業全国ネットワーク えんじゅ」というネットワークを作りました。規模の大小だけでなく、年齢や社会的養護の有無で相談対象を区切っていたり、逆に社会的養護関係なく幅広く対応しているところ、提供する支援の内容も、得意分野、こだわりも、事業所によって様々です。お互いに、どんな相談があり、みんなどう対応しているのか、正直よくわからない部分も多いです。それでも少なくとも、誰かの「困った」「苦しい」の声に接した時には、どうにかしようと奔走していることと、願い半分、思っています。
この本は、そんな全国の仲間たちの日々の支援や活動をなんとか見えるものにできないか、知恵を分け合い、思いを分かち合うことで、人の援助や支援に関わる人たちがエンパワメントされるものはできないか、という思いから始まりました。私自身、自信がなく、迷い、戸惑い、しんどくなることがあることもあります。そんな時の「御守り」になったらと、切実な願いもありました。
形にするにはまず、「社会的養護のアフターケア」とは何か。その問いから始めなければなりませんでした。自立、共生、脱孤立などのキーワードが浮かびましたが、そのような言葉でそれらしくまとめることに、どこか心地の悪さを感じました。なぜならやはり真っ先に思い浮かぶのは、自分がこれまで出会ってきたあの人やこの人の、顔や、聴かせてもらってきたこと、一緒に笑ったり泣いたり怒ったりしたことだったからです。虐待や貧困など過酷な環境を生きのびてきた人もいますし、自分はそこまでひどくなかったと語る人もいます。目標に向かって邁進する人もいれば、生きることに落胆している人もいます。どれにも正しい、正しくないはないし、ましてや彼らとの営みを「これが社会的養護のアフターケアです」と支援論として語ることは、私にはできませんでした。でもきっと、この仕事の根っこの部分に流れる、通底するものがあるはずだとして、仲間たちと対話を重ねました。
そうして、結局は「あなたとわたしが出会った」ということに尽きるのではないか、と思うに至りました。
出会ってしまったから、動く、考える。「あなたはうちの支援対象じゃないですよ、他をあたってください」と、制度と制度のはざまで、あるいはそこに行き着くまでもいかず、支援から拒否されたり、こぼれてしまった人たちがたどり着く場所があります。
私たちはそのすべてに対して何かができるわけではないけれど(むしろ何もできないということもたくさん!)少なくとも、目の前の出会った人たちに、その抱える困難に、苦しみに、向き合う。そこがこの仕事の出発点であることは間違いありません。しかも、出会うことについて語れるのは、仕事として支援に携わる人だけではないし、福祉だ、司法だ、医療だ、教育だと、分野も関係ない。支援をする、されるという枠も取っ払った、すべての人に「であう」は用意されている。そのように思っています。
この本では、出発点である「であう」ことから考えてみたいと思います。「であう」という言葉からふくらむ発想で、とても素敵な方たちに原稿を寄せていただき、またお話を伺うことができました。出会い、足掻いて、そこにいる、ということ。支援する人、される人という話ではなくて、ここで生きる私たち人間の話として、読んでくださった皆さんに、受け取ってもらえるものがあったなら、こんなにうれしいことはありません。そしてひいては皆さんとつながるその手の先に、温かな眼差し、温かな支援として渡っていくようにと願って止みません。
矢嶋桃子