◎今井健太郎さん(今井健太郎建築設計事務所代表取締役)
エコロジカルな概念が一般化し、物質的な飽和の時代を迎えた現代社会において、建物の「保存再生デザイン」というジャンル(視点、考え方)は、今後ますます重要となってくると思われます。 大黒湯さんの<唐破風屋根保存プロジェクト>について私が特に共感する点は、単に「保存される」だけでなく「大切に活用される事」を前提とした保存デザインであるという事です。仏教様式に由来する「破風様式」の屋根が寺院で再生活用されるというストーリーには、ある種の必然性を感じます。大黒湯さんの廃業は残念ではありますが、この保存プロジェクトは、建物の「保存再生デザイン」に関わるケーススタディとして、ひとつの意義ある方向性を示しているように思います。
(プロフィール)1967年静岡市生まれ。’92年武蔵野美術大学大学院造形研究科修了。設計事務所を経て’98年に今井健太郎建築設計事務所を設立。改良湯(渋谷区)吉野湯(江戸川区)など東京都内の銭湯を数多く手がける。著書に「銭湯空間」角川書店