──ちなみに長野さんは撮影後に『狂武蔵』はご覧になりましたか?
長野:観てないんですよ。何でですかね(笑)。観たくないっていうのが本当の気持ちなんですけど、思い出したくないというのもあるんです。僕の中でひとつのピースでしかなくて、それはひとつの映画のワンシーンでしかなくて、あくまで僕の中ではまだ完成できてないもので。まだ整理が出来てないってことなんでしょうけど、観ていないというか、観れないというか……。
──では、いま改めて観たいという気持ちも沸かないと……。
長野:いや、観たいっていう気持ちはあるんですよ。あれば観たいなという思いはあるんです。観たらあの時の瞬間も戻ってくるんで。でもちょっと気持ち悪くなっちゃうというか。
──拓さんと同じですね。拓さんも気分が悪くなるからもう観たくないと話されていました。思い出したくないそうなんです。
長野:カラさんが言っていたように僕らも映画として撮ってなくて。本当はプロとして映画を作らなきゃいけないので良くないことなんですけど、でもその時の記録というのか坂口拓という人間を撮るみたいなことになって。カラさんは上手く回してくれたんですけど、撮ってる自分としては修羅場にいるような感じなんですよ。だから本当に、戦争を撮っているみたいな感じというか。だからその後は軽い病気だったんですよね、たぶん。
カラサワ:なんかこう、いろいろ持ってかれたりする作品でしたよね。長年やってきたこととか考え方も変わっちゃったりとか。
──カラサワさんは『狂武蔵』に、仮音楽をつけたりと何度か作品をご覧になったわけですよね。その時のお気持ちはどうだったのでしょうか?
カラサワ:俺は基本的に全部客観的に見てたから。あの時はあの時でお金もなかったし変にCGをつけるぐらいなら、ドキュメンタリーみたいな感じでって。刀の音は入ってなかったよね?
──入っていませんでした。生音でしたね。
カラサワ:やめたんだよね、入れたんだけど。なんか嘘くなるから。
来週金曜 第7話
『坂口拓、引退について』 続く