こんにちは。由佳です。今日のテーマは『この土地で生きる人の一生』についてお話します。私の生まれた田舎(石川県)ではご先祖様から受け継いでいる土地や財産は、その家の長男が継承して守ってきました。おじいちゃんになったら家の裏のお墓に眠り、その土地のご先祖さまになる。このようなローカルな思想は同じ農地の広がる大宮でもあるのではないかと興味がありました。この土地で暮らす人はどんな一生をしているのだろうか。それを知るには絵図当時を知る大宮に住んでいる方からの聞き取り調査が必要でした。図1聞き取り調査をして見えてきた大宮で暮らす人々の一生。聞き取り調査をした方々は、全員絵図当時を知る方で、代々農家に生まれた長男のおじいちゃん、この土地にお嫁に来た70代の女性やここで生まれて育った女性、次男で一度この土地を離れたけど、農業以外の仕事をして戻ってきた方々 です。それをまとめてこの土地に住む人の一生を作ってみました。水色で色をぬっている場所は人が集まっている行事などです。この土地で生まれた長男のおじいちゃんから聞き取り調査をしました。長男は仕事を選べない。農家になるのは当たり前?そのおじいちゃんはたくさんいる兄弟の中で唯一、代々受け継いできた農地を仕事として引継ぎました。仕事は農業をするというのが当たり前であり、子ども時代は家族で大切に育てていた牛の世話の仕事をしていたそうです。農家さんはたいへん忙しいため、子供でも仕事が与えられていたそうです。図1の左下に、『男』と『女』がいますが、『男』が若い頃のおじいちゃんとして、男は力仕事の田起こしをします。田植えは女性の仕事なので、農家にお嫁に来た『女性』を描きました。男と女がいて、子供が生まれて、『父』と『母』になりました。その息子は牛の世話をしていた子どもでしたが、この家の跡取りとして青年として成長しました。成長した青年のその後の人生をどう描くか。70代女性から聞き取り調査をしてわかったこと男女の出会いの表現方法●70代女性『男女の出会いは盆踊りぐらいだった。』人口が少なく、農地がほとんどの地域では、人が集まる行事がお見合いのような場所だったようです。成人した女性が着飾って盆踊りに胸を躍らせて行っていたようすが目に浮かびます。女性から聞き取り調査をして、絵図では跡取り息子が盆踊りで女性と出会って結婚と言う流れにしました。●70代女性『結婚式は家でしていた。』このお話を聞いて、女性が結婚すると『家の中に入る』というイメージが湧きました。絵図では、跡取り息子のお嫁さんは、結婚をするために、この地域の文化的な『門構えの松』をくぐます。門構えの松とは、松の枝が一本だけ長く横に伸びていて、人がその下をくぐれるようになっている松のことです。とても縁起がいいものです。絵図ではお嫁さんが家の中で行われる結婚式のために家に入りますが、家の中ではこれから結婚する旦那さんが待っているという設定にしてあります。●70代女性『布オムツだったから、庭の物干しにはたくさんの布オムツが干してあって壮観だった』赤ちゃんを育てるのに重要なのが、オムツ問題。そこをちゃんとしないとオムツかぶれになったりで大変です。私は紙おむつで子育てをしたのでオムツが汚れたらポイッとゴミ箱に捨てていました。絵図当時は何度も繰り返しオムツ使用していました。また、この家には赤ちゃんがいまーす、というメッセージがあるようで面白いなと思いました。この土地に生まれた次男のお嫁さんのお話。旦那さんが農家の次男のため、農業以外の仕事に就くため大宮を離れて都会に住んでいましたが、この土地が好きで戻ってきたご夫婦のお話を聞くと大宮への愛着が伝わります。●次男のお嫁さん『ミルクなんてないから赤ちゃんに母乳をあげました。』絵図の家の中では『子育て』が行われています。絵図では赤ちゃんに母乳をあげるお嫁さんを描いていますが、大っぴらにそれを表現するのではなく、家の前の柿の木にわずかに隠れて描いています。赤ちゃんはすくすく成長をしますが、図1の右側にいくと、冬の仕事のしめ縄づくりが描かれています。ここで、お嫁さん、子供達、おじいちゃん、おばあちゃん、息子が登場。家族が増えて、おじいちゃん、おばあちゃんから次世代にしめ縄の技の継承が行われ、その後、おくどさんに行き、人の死になります。結婚式とお葬式をどう表現するか。昔はこの二つは地域の人が集まって行われていたものでした。絵図ではおくどさんという、竈門で煮炊きをする地域の人を描いて、お葬式を意味する白黒の垂れ幕の鯨幕を描いています。
下絵 の付いた活動報告
絵図に時間軸を作って風が吹くように季節を動かしたい。この絵図には時間軸があります。過去から現在、未来へと経過していく時間の流れ 、変える事のできない、すべての人に平等に与えられたもの。絵図の一番左は1月、一番右は12月として時間を設定して月日を表現。また、人が生まれてから命が終わるまでの時間軸も存在します。人は生まれ、どんな人とご縁があり、地域のどんな行事に参加して人生を送ったのか、何を見て、何を感じて生きていたのか、人の一生の歳月も左から右に行くにつれて進むように描きました。ねらい作品の流れに視点をまかせることで、自然と作品を見る事ができるのではないか。絵巻物を見ているように、絵図の物語を見てほしいと思ったから。一番左の1月にはお正月の行事を描き、8月には送り火の行事が集まり、絵図上には五山の送り火があります。一番右の12月には新年に使うお正月の飾りを作る家族を描いています。大きな赤い矢印の動きのように人の一生も一年の月日も過ぎていくその中心の『船山』は、始まりと終わりとして存在しています。ゆく河の流れは絶えずして、しかも、もとの水にあらず (方丈記)川の流れのように、幸せも、悲しみも、時とともに過ぎていき、なにごとも移り変わっていく、人の人生とはそういうはかないものかもしれません。しかし、それぞれの流れの中で私達はほんの一瞬を生きていますが、情熱をかけて生きていること、その土地の歴史に比べれは点にすぎないかもしれないけど、毎年同じ行事を同じ場所で行い、親から子へ里で暮らす技の継承を繰り返していくことで次の世代に受け継がれ、『点』すらも、何度も繰り返すことで大宮という土地に根付いてこの場所に色を残していくのではないでしょうか。私はそういうものを鳥瞰図で描いていきたい。次の③からは大宮絵図のテーマについて解説。おたのしみに。