佐々木セルロイド工業所には約40名の職人がおり、内10名強が磨き職人です。先日の活動報告(「SASAKI」の値段の理由。)でも触れましたが、磨き工程はメガネ造りの中でも仕上がりを決める要の工程です。(他の工程も要ですが!念のため!)
実はメガネ造りの工程によって、その人それぞれに向き・不向きがあるのですが、磨きはその向き・不向きが特に顕著に出る工程です。弊社は基本8時半始業、17時半終業ですが繁忙期には当然長めに作業を行わなければならないこともあります。バフ磨きは椅子に座り、動きも少なく集中しての作業が必要なので、まずは長時間同じ姿勢でいなければならない点が過酷です。
そしてメガネを高速のバフに当てると、しっかりと持っていなければメガネが飛んで行ってしまいます。そのため、ぐっとホールドする力も必要です。また、バフに当てすぎるとメガネがすり減ってしまい、当てた角度の通り削れてしまうので、デザインに沿った形状に仕上がるよう集中力も必要です。そんなあらゆる角度での能力が必要なのが磨き工程。私もバフ磨きに挑戦したことがありますが、5分ともたなかったのはここだけの話・・・。
このようにまずは磨き作業に慣れるまでに越えなければならない壁が多数あり、慣れるだけでも最低3~4年はかかります。その先は「向き」の職人はひたすら磨きの研鑽を積み、一本でも多く美しいメガネを生み出せるよう経験を重ねます。磨きはよくセンスだと言いますが、経験とセンスを兼ね備えて初めて艶やかなメガネが出来上がります。今回の「SASAKI」で使用しているセルロイドは特に、研鑽を積んだ職人でなければ完璧に仕上げることはできません。「SASAKI」は、職人の中でも特に磨き歴が長い熟練の職人の手で、丁寧に仕上げさせていただきます。
後継者不足が深刻な鯖江。中国製メガネの増加、コロナや戦争など様々な外的危機により受注量が減り、今鯖江では技術を持った小さな工場が廃業をやむなくされ、後継者不在のまま技術が消えていっています。苦境の中でも日々実直に磨きを重ねている職人達。そんな彼らに自分の仕事の何が楽しいかと話を聞くと、口をそろえて「自分の手でお客様がかけるメガネが綺麗になるのが嬉しい」と照れ臭そうに言います。まさに磨き職人になるべくしてなった人達のこの純粋な想いを守っていきたい、その嬉しそうな顔を見ると思うのです。