今回は良寛さまが修行しておられた頃の玉島を想像しながら童話の形式で紹介しますね。この童話は良寛椿のある会員から原稿を頂きました、お楽しみ下さい。
【童話】良寛さまと椿の精
今日も春の陽が柔らかく風は円通寺境内をそよそよと吹き抜けていきます。
子どもたちの賑やかな声が聞こえています。
境内の一角に大きな白玉椿の樹がそびえています。
そこには200年もの間住みついている年老いた椿の精がウトウトとまどろんでいます。
椿の精は夢を見ていました。
それは遠い昔のこと、越後の片田舎の立派なお寺で多くの若い僧が修行に励んでいました。その中のひとりの僧に椿の精は恋をしていました。名を良寛という大人しげな若者でした。
良寛は尊敬する国仙和尚が郷里の備中国玉島へ戻られるのに従って円通寺というお寺で修行を続けるのです。
椿の精は何とかして彼について行こうと心に決め、いよいよ出立という時に彼の墨染めの衣の袖の中にそっと潜り込んだのです。
そして苦労の末、国仙和尚と良寛は備中国玉島の円通寺へたどり着いたのです。
早速苦しい修行の毎日が始まりました。椿の精はいつも一緒に居たいと願い
彼が寝起きしている庵の側にいつしか住み着くようになりました。そしてそこからは小さな椿の芽が生えて少しづつ大きくなっていきました。
良寛は佛の道を極める修行の間にも生活の糧を得るために時々は玉島の街へ出て
托鉢をして歩きました。その頃の玉島は大変活気があって賑やかな様相を見せていました。港にはいつも2,3隻の北前船が停泊していて小舟が忙しく荷物の積み下ろしをしています。
また、船が着くたびに若い水夫たちは港に並んでいる遊郭へ繰り出します。
通りでは喧騒が激しく聞こえてきます。それに加えて女郎さんたちが客を呼び込む嬌声や座敷からは三味線や太鼓の音が賑やかさに華を添えています。
歳を重ねた水夫たちは小間物屋へ寄って、郷里の越前や加賀の里で留守番をしている
妻のために紅やクシを、娘には赤い鼻緒の下駄などを買っていきます。
水門の近くでは、備中松山から高瀬舟で運んできた綿の他に薪や炭を下ろし、
戻りには畑の肥料となる干したイワシやニシンを積んで帰ります。
大きな倉庫が並ぶ問屋街では北前船に綿花を積み込む若い男たちの
威勢のいい声が飛び交っています。
綿花は大阪で捌きます。結構良い商売になるのだそうです。
さて良寛はこの玉島に12年間ほど修行をして、とうとう一人前の僧として認められる
「印可の偈」を授けられました。この後も修行に励んでいましたが、
師である国仙和尚が没せられたのを機に越後国に戻ることを決心しました。
椿の精は一緒に戻りたかったのですが、椿の樹が大きく育って椿の精もそこから
離れることが出来ないのです
とうとう別れの日がきました。またいつの日か彼が戻ってくるまでここで待とう。
椿の精はそう心に決めてじっと待ちました。
毎年毎年、春が近づく頃に、小さな可愛らしい白い花をたくさん咲かせ続けました。
そして彼を待ち続けたのです・・・
椿の精はここで目が覚めました。
----私ももうそろそろ寿命なのかしら、そうしたら良寛さまにまた会えるかも----
春の陽はまだ高く、風は柔らかく境内を吹き抜けています。
子どもたちの声はもう聞こえませんでした。
(終わり)



