江北図書館の書架の面白さは「ふつうの図書館」とちょっと違うところ。他の公共図書館では、あまりお目にかからなくなった古ぼけた本や、クスッと笑ってしまうようなひと昔前の実用書も、ここではまだまだ現役です。
なぜ、江北図書館には、こんなに昭和時代の本が多いのでしょう。それは、経営難が長く続き、図書館でありながら新刊を購入できず、書架の新陳代謝が行われなかったから、というのが大きな理由です。図書館としては非常に残念な結果ですが、近年、「子どもの頃に読んだ本にもう一度会いたい」という声の高まりとともに、昭和時代の本を求めて来館される方が増えてきました。図らずも、昭和時代の本たちが、あの頃の自分で出会う“時をかける書架”として、脚光を浴びるようになったのです。
今回は、そんな昭和時代の書架の中から、懐かしい児童書の一部をご紹介します。
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(1)文学全集の沼にはまろう
1950年代から1960年代は、子ども向けの文学全集の黄金期。1953年に創元社が「世界少年少女文学全集(全50巻)」を刊行すると、講談社、小学館、岩波書店、学研、河出書房等からも次々と全集が刊行されました。
戦争中のさまざまな統制から自由になり、「子どもたちにも良書を」という声の高まりが、「少年少女文学全集」ブームの原動力になったのでしょう。その志の高さは、監修や執筆陣の豪華さ、装丁の美しさからも、うかがい知ることができます。作り手たちが愛情をこめて出版し、少年少女たちが胸をときめかせてページを開いた数々の全集。誰にでも一つや二つ、タイムスリップのスイッチを見つけることができるのではないでしょうか。
①世界少年少女文学全集 (創元社1953年〜1956年)
1953年(昭和28年)から3年間にわたって出版された少年少女文学全集。イギリス編、フランス編など国ごとに物語が所収。装丁は、大正から昭和にかけて子どもの本の世界で活躍した画家の初山滋。見返しのデザインもその巻のイメージにあわせ1冊ずつ異なるというこだわりよう。内容はもちろんのこと、眺めているだけでも楽しくなる全集です。
②少年少女日本名作物語全集(講談社1958年〜1960年)
古事記物語、竹取物語、平家物語、忠臣蔵、八犬伝など特に明治時代以降、人気を博した日本の30の物語を平易な言葉でまとめた全集。監修は小川未明と佐藤春夫。目次・カットは安野光雅。その豪華な顔ぶれからも、丁寧に作られた全集であることがわかります。
③日本少年少女古典文学全集(弘文堂1957年〜1960年)
原文の味わいを残しながら平易な物語にした少年少女のための古典文学全集。源氏物語、かぐや姫、落窪物語、西鶴物語などを所収。装丁は「シュルレアリスム絵画」の紹介者として日本の絵画史に異彩を放った画家・福沢一郎(1898~1992)。古典文学でありながら、斬新な金色のデザインが箔押しされた表紙は、まるで芸術作品のよう。こんな贅沢な本、最近がめっきり見なくなりましたね。
④少年少女世界名作全集(講談社 1960年〜1963)
八犬伝、三国志、太閤記。鉄仮面、小公子、名犬ラッシーなど国内外の多彩な内容の物語を所収した世界名作全集。装本・レイアウトは安野光雅。函に施された鮮やかなストライプが特徴的です。当時、多くの全集は菊版(150×220mm)でしたが、この全集はB6判(128×182mm)。コンパクトでカラフル、そしてさまざまなジャンルが掲載された全集が並ぶ本棚は、まるで宝石箱のよう。当時、憧れの全集でした。
(2)児童文学を楽しむ
1960年前後は、名作全集のみならず、若い世代の作家たちによる新鮮な創作児童文学が次々生み出された時代でもありました。『ノンちゃん雲に乗る』(石井桃子)、『だれも知らない小さな国』(佐藤さとる)、『龍の子太郎』(松谷みよ子)などが次々に出版され、60年代は日本児童文学の興隆期となりました。単に楽しむだけでなく、戦争や社会問題などを考えるきっかけや生き方について問題提起をするようなメッセージが込められた作品が多いのもこの時代の特徴です。
①理論社の愛蔵版わたしのほん(理論社 1960年〜)
戦後児童文学は、理論社の同シリーズが刊行された頃から本格的に始まり、その内容も一気に多様化していったと言われています。児童文学を代表する今江祥智、寺村輝男、山中恒といった著名な作家が活躍を始めたのもこの時代。まだ無名だった若者を見出したのも理論社だったそうです。「山のむこうは青い海だった」は今江祥智さんのデビュー作。長新太さんが装丁を手がけているのも興味深いですね。もう一度読み返したい名作揃いの愛蔵版です。
②新潮少年文庫シリーズ(新潮社 1971年〜1973年)
新潮社が1971年から1973年にかけて発行した児童向けのシリーズ。装丁の素朴な人形は画家の香月泰男が身の回りの針金や空き缶を再利用して製作したもの。写真の「つぶやき岩の秘密」は新田次郎が手がけた数少ない児童文学。児童文学と言っても、内容はけっして甘くない冒険探偵小説。N H Kでドラマ化されたので、覚えている方も多いのでは。50年ほど前の本ですが、今読んでも、引き込まれるシリーズです。
(3)S Fの世界を旅する
海外SF小説がたくさん刊行されたのもこの頃の大きな特徴。1957 年、世界初の人工衛星・スプートニク1号が宇宙に向けて飛び立ち、1969 年にはアポロ 11 号が人類初の月面到達を果たすと、世の中は宇宙の話題一色に!宇宙人や空飛ぶ円盤に関する小説がたくさん出版されたのもこの頃です。
①「SF名作シリーズ(偕成社1965年〜1970年)。
本格的なSFを児童向けにわかりやすく改編したシリーズ。墜落した宇宙船の中からはいだした二人の宇宙人が、人間の体内に住みつくという内容の「姿なき宇宙人」は、ハル・クレメントの代表作「20億の針」を児童向けに翻訳したもの。大人になった今、訳者による違いを読み比べてみるのも面白いかもしれませんね。
②エスエフ世界の名作(岩崎書店 1966年〜1967年)
昭和時代のS F児童書の名作シリーズ。表紙の絵を、伊坂芳太良、真鍋博、和田誠、井上洋介など多くの著名人(当時はまだ無名の若者たちでした)が手がけているのも大きな魅力。鮮やかでモダンな装丁や丁寧に描かれた挿絵が、ワクワク感を引き立てます。
③少年少女宇宙科学冒険全集 (岩崎書店 1960年〜1963年)
昭和35年から38年にかけ発行された少年向けSF全集。内容のワクワクはさる事ながら、なんと言っても絵が素敵!口絵もカラーで描かれており、見ているだけでも夢が膨らみます。残念なことに、再販されていないのは、科学技術の進歩により宇宙の「謎」や「秘密」が、解明されてしまったから?せめて小説の中では、謎と秘密に満ちた宇宙を冒険したいものです。
*江北図書館では、江戸時代から明治初期に作られた和本、約4,282冊と、明治から昭和前期に刊行された約5,319冊、その他伊香郡役所文書などの歴史資料2,196点を「江北図書館文庫」として、滋賀大学経済経営研究所で保管いただいております。調査・研究を目的に、閲覧をご希望の方は、こちらをご覧ください。
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