前回、クランクケースに水素が入ってしまうと、クランクケース内で異常爆発が起こり、これが水素バイク1号機の解決できない課題となってしまったところまでお話ししました。
iBは水素燃焼エンジンを2ストでやろうと考えたわけですが、やってみると多くの点で2ストエンジンは水素燃焼に向いていることがわかりました。腰上ではいろいろな点で異常燃焼が起こりにくいのです。この利点については2号機の解説の時にお話しします。
ところがこと腰下となると、4ストロークの方が有利なんです。何しろ、ご存知のように4ストロークエンジンでは混合気は直接シリンダーヘッドから燃焼室に入るので、クランクケースを通過しません。クランクケースは独立した空間でそこにはエンジンオイルが入って密閉されています。ここに水素は初めから入る理由がないんです。
ところが2ストロークでは混合気ははじめにクランクケースを通って、そこで一次圧縮されることでシリンダー内に押し込まれる構造になっています。
もちろん、1号機でもケースに水素が入りにくいように空気がクランクケースから燃焼室に入る直前に掃気ポートに水素を吹き、その直後に点火・爆発することで水素が水素のままで存在する時間を最小にする工夫をしています。
それでも4ストロークのようにクランクケース内が完全に独立・密閉した空間になっているのと違って、掃気ポートはケースの上下を繋いだ構造になっています。そうすると、どうしても未燃焼の一部の水素がクランクケース内に侵入することを完全にゼロにすることはできないんです。
この問題を解決できずに10年近い月日が流れてしまいました。ところが、ここで一つの発見があったんです。それはiBが開発して大好評をいただいている2ストの銘車HONDA NSR用のラビリンスシール(LABYRI®)の性能確認試験をしているときに気がついたことです。
NSR用のLABYRI®がきちんとシール性能を発揮しているか、測定しようとした時のこと。まずは純正のゴムシールで計測し、次にLABYRI®で計測したのですが、いずれの場合も測定値は大気圧に対して0.4~5倍程度(大気圧との合計計測値で1.4倍程度)の低い圧力上昇しかしていないことがわかったんです。LABYRI®のシール性能は間違いないことが確認できてよかったのですが、それに加えて一次圧縮がこんなにも低い値であることを知ったのが僕たちにとって大きな発見でした。
一次圧縮というのがこの程度の低いものであるなら、何もピストンの上下する複雑な機構を利用しなくても、簡単に圧縮することができるのではないか?と気がついたんです。
そこで検討したのが「電動スーパーチャージャー」というものです。これは1号機を開発した頃にはまだ世の中に広く出回っていませんでした。ですが、現在では大小様々なタイプのものが出回っています。
一次圧縮をエンジンの機構を使ってやる代わりに、電動スーパーチャージャーで電気モーターの力で吹き込んでしまう。そうすれば一次圧縮のためのメカニカルロスもなくなり、さらには過給効果だって期待できるのではないか?
この発見がiB (株)井上ボーリングの70周年記念のその年にもたらせれたのは、ただの偶然なのでしょうか。さらにスーパーチャージャーが入手しやすい時代になっていたことは?世の中の水素社会への機運がここに来て急に高まっている理由は?
本当の理由は僕たちにもわかりません。ですが、気づいてみると我々の周囲にはどういいうわけかチャンスが転がり込んでいたんです!!
続く