2024/02/04 18:40

Report Vol. 2 目次

1.初稿
2.ハゲタカになる
3.アトラスの獅子

4.金曜日おめでとう


1.初稿

先週、出版社側から絵本の初稿があがってきました。皆さんにお届けする絵本の全体の雰囲気(アンビエンス)に関して、著者の私と出版社側のイメージに多少隔たりがあるようで、これから相談しつつさらに磨いてゆきます。素人ながらモロッコの異国情緒満載にしたい私、日本の読者を知り尽くしたプロの出版社。どんな着地点になるのかは、印刷があがるまでわかりません。「より素敵な本にしたいという想いは一緒」という編集者さんのお言葉が大変嬉しいです。

現在の予定では、印刷所への入稿はクラファン公開終了日と同じ3月12日だそうです。予定通りにゆくよう頑張ります。


2.ハゲタカになる

「はげたか」か、「ハゲタカ」か。それが問題だ。

私がラバトで印刷所に持ち込んで印刷した最初のバージョンでは、絵本のタイトルは「ハゲタカの旅」と、鳥の名前がカタカナでした。文章でも、全部カタカナ。しかし今回、日本で出版して頂くにあたり、当初絵本のタイトルだけは平仮名で「はげたかの旅」とする予定でした(出版社との契約でもそのタイトル)。「ハゲタカ」よりも、丸いカーブの平仮名で「はげたか」の方が、可愛らしくて、この鳥につきまとうネガティヴな印象がちょっと和らぐ気もしていました。だからこのクラファンページも、タイトルは「『はげたかの旅』」出版プロジェクト」です。

しかし編集作業の過程で、編集担当の方より、やはり題字と本文とで平仮名・カタカナを使い分けるのは好ましくない(校正ミスだと思われる)とのご指摘が。統一するために本文中の「ハゲタカ」を平仮名にしてしまうと、読みにくくなるし、そうすると「コウノトリ」まで平仮名にしなくてはならなくなり、一層読みにくくなります。小学生でも読めるように総ルビふってくれるということなので、いっそ両方とも漢字にしては、と調べたところ、「禿鷹」、そして「鸛」。素敵ですが、画数が多く難しい…。

ということで、最終的に、日本で印刷出版するバージョンでも、題字は「ハゲタカの旅」に戻ることになりました。当クラファンプロジェクトのタイトルは変更せず平仮名でキープしますが、どうかご了承下さい。「ハゲタカ」というカタカナ表記での表紙上の題字の印象を和らげ、より多くの方に書店で手にとって頂けるように、フォントで工夫すべく試行錯誤中でもありますので、乞うご期待。

以上、日本語ならではの葛藤でした。今後活動報告の文章でも、本の題名は「ハゲタカの旅」とさせて頂きます。あしからず。


3.アトラスの獅子

時には人間がくれる食べ物をくちばしにはさんで 格子の間から自分の子に食べさせ できうる限りの方法で 我が子を可愛がりました
-「ハゲタカの旅」より

絵本のストーリーを思いつくきっかけとなったラバト動物園のハゲタカの檻、そしてハゲタカたちが人間のくれる餌を食べる様子を見る機会がありました(動画1分16秒):

ハゲタカたちは、檻の上に巣作るコウノトリたちをどう思っているのか。一方コウノトリたちは、自分で探さずとも人間に餌をもらえるハゲタカたちを、羨ましく思うのか。どうなのでしょうかね。

この動物園内には、ハゲタカの檻の周り以外にも、実に沢山のコウノトリが見られます。本来渡り鳥ですが、一部モロッコに定住するものも見られるようになったとか。居心地が良いのですね。

絵本の出だしでは、「ある王国の小さな動物園」と書きましたが、実際のラバト動物園はアフリカで2番目の規模です(サファリで動物を見る国は動物園は要らないのかも)。広々として緑も多く、地元の人たちの憩いの場となっています。

この動物園のシンボルにもなっている目玉動物は、なんといってもアトラスライオン。かつてアトラス山脈を含む北アフリカ一帯に生息していたものの、乱獲などのため1950〜60年代くらいに野生では絶滅し、現在では飼育下ながらモロッコで最も多く生息するそうです。


対欧州強豪チーム勝利後の熱狂そしてモロッコのサッカー男子ナショナルチームの愛称も、Lions de l’Atlas(アトラスのライオン)。女子はLionnes de l’Atlas(アトラスのライオネス)。そして息子の所属する地元チーム名にはLionceaux(子ライオン)が。2022年、男子ナショナルチームがアフリカ・アラブ・イスラム圏で史上初のサッカーワールドカップ4強入りし、王様ご自身が街頭に出てきて庶民と一緒にお祝いするなどかなりの盛り上がりを見せ、また2030年のモロッコでのワールドカップ開催決定もあり、将来「アトラスのライオン」仲間入りを夢見る子供たちが日々練習に励んでいます。

ご近所のストリートアート


4.金曜日おめでとう

緑の屋根が光る 白くて大きなモスクを見ました
そこから流れる心地よいお祈りの声に酔いしれました

-「ハゲタカの旅」より

毎週金曜日の挨拶は、「Jmaar moubaraka(ジュマームバラカ)、金曜日おめでとう」。金曜日はイスラム教徒の人たちにとって神聖な日、特に午後一番のお祈りは重要とされ、私の職場の近くでも、モスクに入りきらず外の地面の上に祈祷用カーペットを敷いてお祈りする人たちの姿が見られます。このお祈りの時間は店を閉めるレストランもその後開いて、モスク帰りの多くの人がクスクスを食べにやってきます(顧客が観光客メインではない地元レストラン・食堂では、クスクスは金曜日にしか出てきません)。

モロッコのモスクの多くが、イスラムを象徴する緑色の瓦屋根を持っています。私が絵本のこの場面を書いた際に思い浮かべていたのは、モロッコの象徴的モスク、カサブランカのハッサン2世モスクです。前国王の名前をもつこのモスクは、アフリカ最大、世界ではサウジアラビアの聖地メッカのモスクに次いで第二の大きさを誇ります。

また、コーランの「神の玉座は水の上にある」という節から前国王がインスピレーションを受け、建物の一部が水(大西洋)の上に建てられている、世界唯一のモスクだとか。イスラムの理想を追求した宗教施設でありながら、同時にやはり前国王の望みでキリスト教教会とユダヤ教シナゴーグの建築要素も取り入れ、いわゆる「啓典の民」の人々の穏やかな共生への願いが込められているそうです。現地の人でさえ忘れているらしいこの事実は、今こそ重要に思えます。

息を飲むほどに美しい工芸が細部まで施されている上に、神様と向き合いにやって来る人たちの居心地に配慮した作り(夏は天井が全開するとか、冬は床暖房とか)。まさに王様のプロジェクト。通常モロッコでは非イスラム教徒はモスクの中に立ち入ることはできませんが、ここは例外。モロッコ最大の都市であり経済の中心であるカサブランカは、観光ではスキップされてしまうことも多いようですが、もし訪れる機会のある方には、是非立ち寄って頂きたい場所です。


FIN