2024/02/21 20:22

Report Vol.4 目次
1.砂漠だけじゃない
2.鳥相
3.我らがハゲタカ
4.そしてハゲトキ


1.砂漠だけじゃない

海と山と砂漠に囲まれた とある王国の小さな動物園の檻の中で
一羽のハゲタカが卵を産みました

― 「ハゲタカの旅」より

絵本の表紙の絵を見た山登好きの親戚が、「モロッコにも雪山があるって意外」と。モロッコといえば、砂漠にラクダのイメージが一般的に強いようです。実際は、国際空港のある主要都市から、砂丘の連なる砂漠に行くにはかなりの時間車で移動して、モロッコを南北に縦断するアトラス山脈を越えてゆかねばなりません。沿岸部に住むモロッコ人には、砂漠を見たことがないという人も多いのではないかと思います。

北に地中海、西に大西洋、東と南に向かって山脈を越えたらより乾燥したオアシス地帯、化石がたくさん出る砂漠に続きます。その途中には肥沃な農地やマツタケも採れる針葉樹の森も(モロッコはヨーロッパに多くの野菜果物を輸出する農業大国、美味しいワインも作られます)。最高峰は、富士山よりも高い4000メートル越えのツブカル山。例年冬には、高山は雪化粧もするのです。

これだけ多様な自然環境に生息する動植物も数が豊富です。動物種24,000種(うち11%が固有種)、植物種7,000というモロッコの生物多様性は、地中海地域で2位とか。数字を並べてもピンとこないかもしれませんが…とにかく、砂漠だけじゃない。

私から特別にそう注文したわけではなかったのですが、表紙に砂漠ではなく雪山を描いたロリは、やっぱりすごい。

雪を頂く高アトラス山脈(2024年2月撮影)

今週、まさに雪山を仰ぐ山岳部、昨秋の大震災の震源地近くまで行く機会がありました。破損した道路の修復や建物の解体作業が今も急ピッチで進められ、あちこちに仮住まいのテントが見られました。人々はとにかく逞しく、そして風景はひたすら雄大で美しかった。厳しい冬が過ぎ、春の訪れを感じさせる花も咲き始めていました。

地震による山崩れで塞がれた多くの道路は、当局の昼夜問わずの懸命の努力により、震災後2−3週間のうちに全て開通。しかしアクセスの困難な山岳地帯で破損されたインフラ修復には今後何年もかかります。

奥に仮住まいのテント。手前にまだ建っているように見える建物の中にも、破損のためもはや住めず解体・再築を待つものも。この地域にはヨーロッパ人に人気のトレッキングツアーの拠点も点在していますが、観光業再開にはまずは一帯へのアクセス路の補修と建物整備が必要。

2. 鳥相 - avifauna 

育ての親の コウノトリのおばさんのような
優しいコウノトリたちに たくさん出会いました

― 「ハゲタカの旅」より

話を生物多様性に戻して、絵本の主人公である鳥に関して言えば、国際野鳥保全組織バードライフ・インターナショナルが指定するIBA(重要鳥類生息地:Important Bird Area)には現在46箇所が選定され、ラムサール条約で守られる水鳥の貴重な生息環境の湿地帯は現在38箇所(日本はそれぞれ167箇所と53箇所)あります。これまで494種の鳥が確認され、うち北アフリカの固有種11種、そして100種近くが希少、あるいは生息が脅かされています。

バードライフ・モロッコ提供

14,000ha、地中海南岸第2の大きさをもつ潟湖(ラグーン)のマールシカ湖は、ラムサール条約登録サイトであり、且つ重要鳥類生息地(IBA)。ここでも活動を展開するバードライフ・モロッコは、近年ここにイカダ式の鳥の営巣スポットを導入。岸での営巣では野犬など天敵に襲われる危険が高い。

モロッコはさらに、北極圏・カナダ・グリーンランドやシベリアから毎年南部アフリカに向かう渡り鳥のルート(東大西洋飛行経路:East Atlantic Flyway)上に位置し、とても重要な経由地、休息地でもあります。コウノトリやハゲタカはじめ、北から南下してきた鳥たちは、ジブラルタル海峡を越えモロッコに入ったところで栄養補給し、広大なサハラ砂漠を飛び越える力を蓄えてから、再び南に飛び立つのです。故に、モロッコの野鳥生息環境が守られることの意義は、同国だけにとどまりません。

バードライフ・モロッコ提供

ジブラルタル両岸の山岳地形により、海峡の上には鳥が渡りに使う上昇気流が作られているそうです。目には見えない鳥の高速道路が、そこにはあるのですね。

3.我らがハゲタカ

クラファンのメインページに書いた通り、私の絵本の主人公がハゲタカになったのは、動物園の檻で見かけたから、だけが理由でした。しかしハゲタカは実はモロッコの野鳥保全の象徴的な鳥でもあったことを、このクラファン計画を進める中で知りました。

アフリカのハゲタカは、電線による感電、密猟者に毒殺された動物の死骸を食べることによる毒死、伝統医療への利用(迷信)のための密漁、などの原因で急速に減少している希少種です。この本の収益で支援を目指すバードライフ・モロッコは、モロッコ北部に政府が作ったハゲタカ保護センターの運営を任されています。地元当局や住民との連携活動により、渡りの途中で弱ったハゲタカを保護して飛べるようになるまで世話をしたり、GPSによる追跡で飛行ルートや死因の原因の調査をしたりしています。

GREPOMの参考動画(英語、6分33秒):Saving Africa's Vultures


4.そしてハゲトキ

バードライフ・モロッコの元々の名称GREPOMは、Groupe de Recherche et de la Protection des Oiseaux du Maroc(モロッコ野鳥保護研究グループ)の略称です。1993年に創設され、昨年30周年を迎えました。2015年に国際自然保護連合(IUCN)に加盟し、さらにバードライフ・インターナショナルのメンバーとなったのは比較的最近、2018年のこと(そして名前に「バードライフ・モロッコ」と追加)。

特に渡り鳥保護には国境を越えた連携が重要。そしてフィールドでの様々な活動に必要な資金動員のためにも、国際ネットワークを広げる努力をしています。調査研究を重視し、熱い情熱に支えられ、しっかりした組織体系で活動を展開しています。

具体的には、上記のような渡り鳥の保護・調査のような活動の他に、各地での野鳥センサス、生息・営巣環境の保全・修復、その周囲に住む人々の生計向上、環境教育、エコツーリズムの推進などなど、鳥にも人にもメリットのある活動を進めています。それなりの歴史と重みのある組織でもあるため、寄付をしてもきちんと活用してくれるとの信頼感もあります。

このクラファンプロジェクトのリターンに提供してくださっているモロッコ鳥類図鑑の他にも、様々な出版物も出していますが、私のお気に入りは、やはり絵本。ホオアカトキの保全に関する環境教育目的で作られたものです。

バードライフ・モロッコ提供

日本では野生で絶滅した真っ白のトキとは反対の、真っ黒のホオアカトキ(英語名はbold ibis、訳せばハゲたトキ)は、ハゲタカと並んでモロッコの野鳥保全のシンボル的な存在です。過去、ホオアカトキは中東・北アフリカやヨーロッパに広く生息していましたが、現在野生の繁殖地(コロニー)が残るのは、モロッコ大西洋岸スース・マサ地方のみ。バードライフ・モロッコは、ここでもコロニー周辺環境の整備や環境教育、エコツーリズム推進により、保全活動を行なっています。


バードライフ・モロッコ提供


渡り鳥のように話がどんどん飛びますが、絵本に話を戻すと、私は「ハゲタカの旅」が、日本であまり知られないモロッコの側面を紹介し、且つ地球規模的に(!)重要な鳥とその生息地の保全の貢献につながったら、こんなに素敵なことはない、と妄想しています。

バードライフ・モロッコのダイレクターによると、国際組織のステータスになっても、交流のある国は、野鳥の往来があって情報交換が盛んな国同士になりがちだとか。だから余り野鳥の往来のないアジアの国とはこれまで交流が限られていたそうです。日本で同団体が紹介されるのは、このクラファンプロジェクトが初めて(ついでに図鑑も売れてありがたい)、と喜んでいただいています。それだけでも光栄なことですが、やはり、ちゃんとした寄付には繋げたいと思っています。

FIN