2024/03/28 14:28

久能山東照宮「刀剣伝承」プロジェクトに多大なご支援をいただきまして厚く御礼申し上げます。

皆様から頂きましたご支援をもとに、次世代へ繋げるべく事業は既に動き出しております。今回は、先日久能山東照宮博物館にて行われた資料調査の様子をご紹介します。


国宝 真恒拵の復元模造の製作には、実に多くの職人が関わっています。鞘師さんが中心となり、プロジェクトページにてご紹介出来なかった職人も参加しています。今回の調査では、主に鞘の沃懸地(いかけじ:地蒔きの一つ。金または銀の粉を密に蒔いた上から漆をかけ、研ぎ出したもの)部分と蒔絵(まきえ:漆で模様を描いて、漆の乾かないうちに金粉などを蒔(ま)きつけ、文様を表したもの)部分を担当する職人と、そちらに使用する金粉を製作している業者の担当者が、実際の資料を見比べながらこれから製作するパーツや材料の確認を行いました。

桐紋が特徴的な蒔絵は、その図柄の配置を再現するだけでなく、当時の職人の筆づかいまで再現する事が求められます。そこで一つ一つの蒔絵の精細な写真を撮影し、形状だけでなく筆づかいや、使用された金粉の粒子の形状を確認していきます。

蒔絵師さんにお話を伺いました。最初に写真だけを見た時には、蒔絵のひとつひとつが鞘から盛り上がって立体的な形をしている様に見えた為、高さのある蒔絵をサンプルとして作成されたそうです。しかし現物を見ると、写真で見た時よりも平たいものである事が分かり、蒔絵に使用する材料の再検討が必要だという事でした。また、手描きならではの形状の細かな違いがあり、実際に製作する際には現物とよく見比べて描かなくてはならないともおっしゃっていました。

「大らか」と複数の職人が表現していましたが、型にはめられた模様が規則的に並べられているのではなく、当時の職人のいわゆる「手癖」で不規則に並べて描かれている桐紋。当時の職人の「手癖」を現代でどの様にして再現するのか、そこが非常に難しいところです。


そしてもう一つ行われたのは、使用している金粉の粒子の大きさや形状についての調査でした。

精細な写真をもとに、沃懸地と蒔絵に使用されている金粉がどの様な形状や大きさなのかを確認していきます。塗師さんによると、製作された江戸時代初期と現代では使用されている金粉の粒子の形状や大きさに違いがある為、同じ様に塗っても色合いに違いが出てしまうという事でした。そこで、製作当時の色合いに近付けるべく、当時の製法に近付けた金粉のサンプルをご持参頂き、実物とも比較して確認する事になりました。

遠目から見ると、似たような金粉が並んでいるようにしか見えません。ですが近くで見ると粒子の粗さが異なり、形状の違いで輝きや色合いも違って見えます。現代の金粉はいかに均一な形や大きさにするかを追求して作られるものだそうですが、真恒拵に使用されている金粉はその逆で、形状や大きさがまばらであるという特徴があります。担当者の方にお話を伺うと、今回はまばらな金粉を作る為にやすりで削り出す方法で作る事にしたそうなのですが、作業に必要な昔ながらのやすりを作る数少ない職人が高齢を理由に既に引退されていたのです。しかし今回の事業の為に特別に製作して頂けた事で、現代とは違った味わいのある金粉を製作する事が出来たという事でした。

一つの太刀拵を製作するにあたり、職人だけでなくあらゆる材料の調達も今回の大きな課題の一つです。現代では手に入らない材料を、製法から検証して作り上げる事で再現し、往時の姿を再現していく大切なパーツとして使用していきます。

文化財だけでなく、文化財に携わるあらゆる「こと」や「もの」を未来へ繋いでいく為、引き続きご支援を賜りますようお願い申し上げます。