『獣害問題』って実際どう困っているの?
農家さんが近くにいないと、獣害問題を実際に見聞きすることは少ないと思います。
日本のほとんどの農村地域で困った、困ったといわれている野生動物からの被害。実際どういう状況なのか私が見てきたものをお伝えしてみます。
田んぼとイノシシ
こちらの写真、田んぼの右端にある黒い穴がイノシシが稲を倒した跡です。しかし、実際には被害はこの部分だけではありません。
この穴から左手側に向かってぐるぐると回りながら田んぼの外へ出ていっており、イノシシが通ったあとは獣臭さが稲についてしまっています。
近年はコンバインという機械でお米を収穫するので、乾燥機のなかですべてのお米が混ざり、全体的に獣臭がするお米となってしまい消費者に出荷できなくなってしまいます。
つまり、被害は一部分に見えますが、農家さんからするとお金と手間暇かけて育ててきた田んぼ1枚がまるまるダメになってしまうのです。
シイタケとキョン
こちらは、原木しいたけがキョンに食害された跡です。小さな噛み口がかわいらしい気もしますが、農家さんからするととんでもない被害です。
なにしろ、まずは椎の木を切り倒してシイタケ菌の苗床となるほだ木を確保。そのほだ木に全て手作業で3000~4000個という量のシイタケの菌を打ち込み、とんでもなく重いほだ木を手で運んで組んで、じっくり1年から2年ほど待ってようやくシイタケが出てきて収穫する、なかなかに重労働な農作業です。林業という一面もあり、ほだ木に使う木を切り倒すことは里山の間伐にもなっています。
そんなシイタケをちょこちょことつまみ食いをするのがキョンです。せめて食べるなら一個まるっと食べておなかいっぱいにしてくれればいいのに、なんと一口ずつほとんどのシイタケを味見していきます。
お米と一緒で、一口でもかじられたシイタケはもちろん出荷できません。来年もこうなることを想像してしまうと、「さてシイタケ準備するか」という気がなくなってしまいます。
農道とイノシシ
実は、野生動物がもたらす被害は田畑の食害だけではありません。こちらは山の農道でよく見る状況です。固く踏みしめた土を歩けないほど凸凹に崩している犯人はイノシシです。山の中の舗装されていない道は一晩でここまでめちゃくちゃにされてしまいます。
舗装されている道でも横の土の部分から崩され、コンクリートが不安定に浮いてしまい、やはり崩れてしまうことがあります。
そうすると、道の先の田畑へ行くためにはまず道を直さねばならず、本来やるはずだった農作業はできなくなってしまい、時期によっては収穫時期を逃してしまうことだってあるのです。
イノシシの役割
とんでもない被害ばかりで、農家さんから「悪さしかしないやつら」と言われてしまうイノシシですが、自然界においては大切な役割があるともいわれています。
固い土ほどなぜか執拗にひっくり返すイノシシは、実は「天然の耕運機」とよばれることがあります。固い土ばかりになってしまった耕作放棄地もイノシシにかかれば一晩でふかふかの土に仕上がり、思わず農家さんもうなるほど。「イノシシ農法もいいかもなぁ」なんて声も聞こえてきます。
つまり、山の中では倒木や固い土などをイノシシがひっくり返すことで土中に酸素が入り、ふかふかの土に戻って植物が繁茂する豊かな森ができるのではないかという話のようです。
根本的な獣害対策とは
イノシシが自然界で土を掘り返すのは存分にやっていただきたいが、問題は人間の都合であえて固くしている土までひっくり返してしまうこと。とすると、人の世界と動物の世界をしっかりと線引きしてお互い不干渉とすることが肝要なのだと思います。
そのためにも、山と里の境界を曖昧にしている耕作放棄地や空き家の管理、動物を引き寄せる放置果樹の対策をしっかりと行っていくことが根本的な獣害対策になると考えられています。
一方で、そのために必要な人手や資金は地域のなかには圧倒的に足りていません。そこで、駆除された野生動物の素材を活用して地域に人と資金を還元しようとする取り組みが「皮活用プロジェクト」となります。その仕組みはまだまだ構想中ですが、ひとまず毎年農業体験は開催しております!
草刈りや農業体験もみんなでやれば楽しいアクティビティ!のどかな自然のなかで体を動かすのはリフレッシュにも最適ですので、都会につかれた方はぜひ里山アクティビティにご参加ください!