日常着としての着物で、着物の在り方を創造する
ストーリー
始まりは、リサイクルショップで見た大量の着物でした。
どれも上質な素材、丁寧に織られた生地、美しい染め。
しかし、それらはファストファッションと変わらない価格で販売されていました。
その場にいたお客さんは皆、目の前に並ぶ着物に関心を持っていないようでした。
私自身も魅力は感じつつも、買ったところで使うだろうかという疑念がありました。
その状況を俯瞰したとき、着物文化がなくなるということが現実に起こりえる気がしました。
長い歴史の中で日本人の美意識や生活様式を反映してきた着物。
これから先も着物が衣装文化として生き続けるために、どのように在るべきかを考えました。
現代人の生活に添った、日常着としての着物。不要な柵から開放された、自由な着物。
行き着いた答えは、着物を「ファッションに戻す」ことでした。
2018年、これを叶えるべく古着の着物を使ったリメイクでの創作を開始しました。
元来の魅力を残しながら洋服視点のアプローチを加えることで、実用性・洋服との親和性を向上させる考察を重ねました。
2021年、帯の要らない着物が完成。ポップアップイベントなどへ参加しながら、現在も着物の未来の模索・提案を続けています。
そしてこの度、日常着としての着物を多くの方に体験していただきたいという思いから『HEIE(ヘイエ)』を立ち上げるに至りました。
より日常着として取り入れやすいデザイン、扱いやすい素材を厳選し、平衣(へいえ/普段着)としての着物を目指します。
私たちの提案が、既存の着物に対する”特別な場面の為の服”というイメージを払拭し
楽しむ衣文化として着物が繁栄する一助になればと思っています。
着物のこれまで
着物は何世紀にもわたって日本の生活に深く根ざしてきた衣装文化です。
しかし、現在のようなルールや着方が定められたのは比較的最近のことです。
平安時代に「小袖」と呼ばれる今の着物の原型が生まれて以降、時代によってかたちや着こなしを変えながら着物文化は続いてきました。
今では「着物」と聞くと、伝統衣装でルールが多く、着方が難しいというイメージを持つ方が多いと思います。ですが、当たり前に着物が着られていた時代に、現在のような細かな着こなしのルールは存在していません。(礼装や身分の違いによる制限などは除く)
特にまだ洋服がなかった頃は、買い物に出かけるときも、畑仕事のときも着物。今のような着付けでは生活もし辛かったはずですし、庶民は着物を多く持てる人も少なく、季節で素材や柄を変える、などというお洒落ができるような人も少なかったでしょう。
ここでは、主に庶民の着物にフォーカスした大まかな着物の歴史と、在り方(人々の「着物」に対する意識)の変化について触れてみます。
平安~江戸時代 (着物=「着るもの」の時代)
平安時代は、それまでの服装を含めた文化が中国からの影響を大きく受けていた時代から、日本独自の文化へと移ってゆく時代です。
庶民の間では、男性は「直垂(ひたたれ)」に「小袴(こばかま)」、女性は「小袖」に「褶(しびら)」などのスタイルが主流となりました。(この頃の貴族階級にとっては下着だった小袖ですが、庶民の間では既に普段着として定着していたともされています)
鎌倉~室町時代になると、男女ともに着流しのスタイルが定着していきました。
下に袴を履いたり、丈の短い小袖を着流したりと、職業や生活スタイルに合わせて着こなしも多様化しました。この頃の小袖は今の長着と比べて袖が小さく、身幅が広くとられていました。
着方も男女の違いはほとんどなく、細い帯を腰骨辺りに絞めてゆったりと着ていたようです。
(左)平安時代の直垂、小袴姿の男性イメージ (右)室町時代の女性イメージ
そして町人文化が栄えた江戸時代、形として現在とほとんど変らない着物が完成しました。
この時代に染めや織りの技術が発達し、色や柄、素材にこだわった着物が多く生産されるようになりました。また、度々出された贅沢な装いの禁止令から生まれた「裏勝り」や広幅の帯、引きずって着ていた裾をたくし上げたことに由来する「おはしょり」など、現在の着方にも影響を与えている着こなしの流行も多く生まれました。
動きやすさや見た目など、様々な視点から新たな着方が生まれたこの頃までの時代の人々にとって、着物はリアルクローズです。着物に対する意識は(解ってはいても)伝統文化などというものではなく、純粋に「着るもの」だったはずです。しかし、洋服の登場以降その感覚は少しずつ変化していきます。
明治以降 (着物=「伝統衣装」へと変わっていく時代)
明治に入り海外の服飾文化が日本に取り入れられるようになると、日本でも徐々に普及していきます。
1878年(明治11年)に「束帯などの和装は祭服とし、洋装を正装とする」という法律が作られましたが、この頃はまだ着物も生活に根付いていました。
化学染料や西洋的な模様が取り入れられた着物が作られたり、女性の羽織や袴、着物にブーツやショール、インバネスを合わせた和洋折衷スタイルなどの流行が生まれました。
(左)江戸時代の重ね着の女性イメージ (右)大正~昭和のインバネス姿の男性イメージ
その後大正から昭和にかけて、関東大震災や戦争などの影響もあり、その着脱の容易さや動きやすさから洋装化は加速していきました。
この状況に対し、着物業界は存続のために着物を高級品としてブランディングするようになりました。高価な素材を用い、定期的な購買を促す為に「格」や季節ごとの生地・柄など、シーンごとの細かなルールを設けました。現在の着物の決まりごとの多くはこの時に出来たものです。ブランディングは成功し、着物は高級衣料としての地位を確立、市場は昭和後期頃まで成長を続けました。
しかし、着物の価格がどんどん高騰するにつれて、庶民は気軽に購入することができなくなってしまいました。その結果着物離れが進行し、着物は「高価なもの」「着付けが難しいもの」さらには「普段着としてはふさわしくないもの」というイメージだけが残り、現在は多くの人にとって着物=特別な場面に限られる衣装と認識されるに至っています。
※史実については諸説あります
このような背景を考慮すると、着物文化の復興には着物が「着るもの」であった時代のような、難しいルールにとらわれず自由に着られる土壌が必要だと感じます。
しかし現状、カジュアルに着られる着物は販売されていても、着付けに関しては礼装とほぼ変わらない提案がされている為、これまで着てこなかった人には高いハードルがあります。
また、今の形のままでは仮に「自由に着ていいよ」と言われたところで、トップス・ボトムスの組み合わせで服を選んできた人たちにとっては扱いにくく感じれられるのも事実です。
ここまでを踏まえ、考え得る懸念を排除し、着物を知らない方でも気負わず楽しんで着られるよう作られたのがHEIEの提案する日常着物です。
デザインの特徴
HEIEの着物は、元来の着物の特徴を継承しつつ、現代のライフスタイルに適したデザインを施しています。
私たちが目指すのは、単に伝統を守るだけでなく、それを再解釈し、現代の生活に溶け込む新しい着物です。
洋服との親和性
HEIEの着物は、洋服と組み合わせても違和感のないデザインが特徴です。
美はディテールに宿ります。細かな寸法まで拘ることで、着物の趣を持ちながら洋服好きな方にも取り入れていただけるバランスを目指しました。
洋装との親和性によって、現代の生活にフィットし、より身近なファッションとして感じられるものになっています。
帯を必要としない設計
着物を日常的に着る際のハードルの一つが「帯」です。帯は美しい装飾品でありながら、締めることが難しく、慣れていない人には扱いが大変です。HEIEの着物は、帯を使用しなくても着用できる仕様となっています。帯を締めることでより着物らしさのある着こなしも可能です。
帯を必要としなくなったことで、着物を洋服のように手軽に着ることができるようになります。
生地を無駄にしないパターン
着物は、できるだけ生地を無駄にしない設計になっています。
伝統的な着物は直線で裁断されるため、生地の切り落としがほとんどなく、効率的な衣服作りが可能です。
HEIEでもこのアプローチを踏襲、直線でパターンを作成し生地を最大限に活用することで、資源の無駄を省いています。
反物での作成と和裁技術
HEIEの着物は、反物(着物を仕立てるために織られた巾40cm程の生地)での作成を前提にしています。
反物が使える構成を保つことで、今後の反物の生産を行うメーカーとの連携を想定しています。
また、和裁工場での縫製も拘っている点です。HEIEの着物は、和裁の知識を持った方々のサポートを受け、和裁の技術をもって作られています。和裁工場で作ることができるからこそ、いずれはブランドを越え、着物のニュースタンダードとして定着することを目標としています。
※現状、袴ボトムスのみ国内製造企業の中国工場での製作を予定しています
アイテム詳細
Tarikubi-Top:垂領トップス
①日常着の着物に見られる筒袖・巻袖をベースにした、袂(たもと)のない袖設計。袖が邪魔になることがなく、洋服とイヤリングも容易になりました。直垂の袖を参考に袖口に布を足すことで、反物で製作した際も裄が足りなくなるという問題が起きにくくなっています。
②脇縫いにポケットを配置。実用性を向上させながらトップスインの際などにも外観を損なわない仕様です。
③フロントはボタン留めの為、前合わせが逆になる心配もありません。ボタンホールは開けずにループ留めにすることで、元来の着物のように生地を再利用する際にも扱いやすくなっています。
④テーラードジャケットを参考にした、ジャストサイズでおおよそおしりが隠れる着丈。わずかに前下がりになった裾は洋服とも相性がよく、インした際も裾が出にくいバランスです。
Mo-Bottom:裳ボトムス
①フロントはホック留め。ウエストゴム入りで、幅広いサイズに対応。着こなしに合わせてウエスト位置でも腰骨位置でも着用可能です。
②二重になったベルトループ。様々な太さ、デザインのベルトが使用できます。
帯を締める際の腰ひも通しとしても機能します。(腰ひもを使わなくても着用できます)
③裾に向かってわずかにテーパードするシルエット。下半身を綺麗に見せる、単体でも優秀なスカートです。
Hakama-Bottom:袴ボトムス
①ウエスト内側にゴム入り、フロントはファスナー付き、ホック留め。男女ともに帯がない状態で履くことを前提とした設計になっています。
②袴らしい、ゆったりとしたシルエット。馬乗り袴から小袴や野袴、軽衫など複数の袴を基に、パンツ型のボトムスとして日常使いしやすいバランスを追求しました。
③投げ(脇の縫い合わされていない部分)の内側にポケットを配置。中に生地が入ることで、トップスインしなければいけないという制限がなくなりました。
④適度に裾が窄まるテーパード型。タックの裾部分を縫い留めることで折り目のケアもしやすくなっています。
タックの縫い留めを解くとより袴らしい、フレアパンツのようなシルエットに変化します。
着用方法
全てのアイテムが、着物に触れたことのない方でも直感的に着られる仕様になっています。
着用動画(垂領トップス / 裳ボトムス)
着用動画(袴ボトムス)
使用する生地について
今回使用する生地は、ペットボトルや繊維屑などを原料としたポリエステルを配合した、中肉厚のT/Cツイルです。
T/Cツイルには以下のような特徴があります。
・適度なハリ感があり、綿100%と比べシワになりにくい
・ワークパンツなどにも使われる耐久性
・洗濯しても縮み・劣化が起きにくい
季節を問わずに着用いただける、無地のシンプルなテキスタイル。
カジュアルウェアとして使い勝手の良い生地です。
サイズについて
各アイテム以下のサイズで展開されます。
詳細は各アイテムのページでご確認ください。
サイズ表記(参考サイズ) / 身長目安 / ウエスト目安
36(XS~S)/ 152 ~ 162 / 66 ~ 72
38(S~M) / 160 ~ 170 / 72 ~ 78
40(M~L) / 168 ~ 178 / 78 ~ 84
42(L~XL)/ 176 ~ 186 / 84 ~ 89
スタイルサンプル
同じアイテムをさまざまな着こなしで
モデル:167cm サイズ(トップス/ボトムス):38 カラー:ベージュ選ぶサイズでも雰囲気が変化
(左)モデル:180cm サイズ(トップス/ボトムス):42 カラー:-(サンプル)
(右)モデル:180cm サイズ(トップス/ボトムス):40 カラー:ダークグレー
※実際のアイテムと異なる素材のサンプルを着用(左)全てのアイテムがユニセックス
(左)モデル:180cm サイズ(トップス/ボトムス):40 カラー:ネイビー
(右)モデル:167cm サイズ(トップス/ボトムス):40 カラー:ネイビー好みのシルエットで履ける袴ボトムス
(左)モデル:167cm サイズ(ボトムス):38 カラー:ベージュ
(右)モデル:167cm サイズ(ボトムス):40 カラー:-(サンプル)
※裾タックの留めを解いた状態(右)
※実際のアイテムと異なる素材のサンプルを着用(右)
リターンについて
・垂領トップス:28,600円
・裳ボトムス :22,000円
・袴ボトムス :28,600円
【早割り】10点限定
・垂領トップス:27,170円(5% OFF)
・裳ボトムス :20,900円(5% OFF)
・袴ボトムス :27,170円(5% OFF)
【超早割り】10点限定
・垂領トップス:25,740円(10% OFF)
・裳ボトムス :19,800円(10% OFF)
・袴ボトムス :25,740円(10% OFF)
【セット割】
・垂領トップス+裳ボトムス:43,010円(15% OFF)
・垂領トップス+袴ボトムス:48,620円(15% OFF)
・垂領トップス+裳ボトムス+袴ボトムス:63,360円(20% OFF)
スケジュール
2025年3月2日 :クラウドファンディング終了
2025年3月~ :資材発注・製作開始
2025年5月中 :商品発送
※進捗状況により前後する可能性があります
デザイナー紹介
千葉直也 / Naoya Chiba
1983年生まれ。宮城県立仙台高等技術専門校、宮城ドレスメーカー専門学校(現ファッション文化専門学校DOREME)を卒業。その後、スタイリスト、ファッションリフォーム工場、アパレルオンラインショップと幅広くアパレルに従事。リサイクルショップで売られている着物を見て、日常着として使いやすいものにできればと考え、リメイクでオリジナルの着物制作を開始。
2018年、古着やデッドストックの着物を利用した創作和服プロジェクト『WEAR 2.5』をスタート、2021年よりWEAR 2.5 WEB STOREでの一般販売を開始。2022年に開催されたイベント、Tokyo Fashion Link 2022 Autumnで最優秀賞を受賞。2025年、より多くの人の日常服としての着物を目指すブランドとして『HEIE』をスタート。
最後に
HEIEは、日本の伝統を重んじつつ、現代の生活に合わせた着物の在り方を模索しています。私たちの国の着物は歴史を持った伝統衣装ですが、同時に日常の中で楽しむことができるファッションアイテムです。
和装に触れるきっかけとして、伝統と新しさを併せ持つHEIEの着物を、ぜひ一度体験してみてください。
最新の活動報告
もっと見る【目標金額63%達成】終了まであと1週間!※3月2日(日)終了
2025/02/23 09:00こんにちは、当プロジェクトオーナーの千葉です。この度はプロジェクトにご興味いただきありがとうございます。初めてのクラウドファンディング、準備にはかなり時間がかかりましたがスタートしてからは早いもので残り一週間となりました。ラストスパートに向けて、改めてアイテム紹介です。----------------------垂領トップス・筒袖、巻袖をベースにした袂のない袖設計で、洋服とのレイヤリングが容易に・脇縫いにポケットを配置しトップスとしての実用性を確保・フロントはボタン留め、前合わせが逆になる心配がありませんこれからの時期のライトアウターとして丁度よいトップスです!裳ボトムス・フロントはホック留め、ウエストゴム入りで幅広いサイズに対応・二重になったベルトループは様々な太さ、デザインのベルトが使用可能・裾に向かってわずかにテーパードするシルエット、単体でも優秀なスカートですフーディーなどカジュアルなトップスとの相性抜群です!袴ボトムス・ウエスト内側にゴム入り、フロントはファスナー付き・適度に裾が窄まるテーパード型、複数の袴を基にパンツとして日常使いしやすいバランスを追求・投げの内側にポケットを配置、中に生地が入ることで単体での着用が可能にストレスフリーな履き心地でご好評いただいているパンツです!----------------------現在達成率63%、ご支援いただいた皆様ありがとうございます!どのアイテムも洋服と合わせやすく簡単に着られる(プロジェクトページに着用動画あります)、普段着として使いやすいものに仕上がっています。気になることなどありましたら、メッセージフォームやXなどでご連絡くださいませ。しっかりと準備を進めてまいります、引き続き応援のほどよろしくお願いいたします!プロジェクトページ(着物のこれからをつくる) もっと見る
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