
「私:おじいちゃん、もうあと2軒しか残ってないね、かやぶき屋根の家。」
「祖父:昔はみんなかやぶき屋根じゃったがなぁ。」
「私:なんでうちも瓦に葺き替えんかったと?」
「祖父:お客さんが口々に、『大事にしてね、大事にしてね』と言うんたな。
やっぱり皿山の風景を守りたいと思ってな。ただそれだけたな。」
私は高取由布子と申します。陶芸の里で高取焼の陶芸一家の家族に囲まれ育ちました。
18歳でこの小さな村を離れ上京し、5年間を都会で過ごした後、作陶の道を志して故郷に戻りました。現在は家業に携わりながら自分自身も陶芸家として作品を制作し発表しています。

ここは福岡県の豊かな自然と歴史に包まれた山里、東峰村。その小石原地域には、長い伝統を受け継ぐ「高取焼」と「小石原焼」の陶器をつくる『窯元』が数多く点在し、九州を代表する陶芸の名産地として親しまれています。
私の家業「⾼取⼋仙窯」もまた、代々陶器を⽣産する窯元で、14代の⽗、先代の祖⽗、15代後継の兄と⼀家で400年続く⾼取焼の伝統を継承しています。冒頭に出てきたお爺さんが、第13代高取八仙、現在90歳で未だ現役の陶芸家です。
十三代 高取八仙(現在は宗仙と号し作陶)
十四代 高取八之丞不忍
十五代窯嗣 高取周一郎
日々窯業を営んでいる場所は「皿山」と呼ばれる地域で、350年以上前から続いている窯元の集落です。ここに佇む築156年の高取八仙窯のかやぶき屋根の店舗に、私たち家族3世代の作品が並び、訪れる方々に静かで温かいひとときを提供しています。
趣きある皿山地区もかやぶき屋根の建物は2軒だけが残っている状況となりました。半永久的な瓦屋根などに替える機会はありましたが、皿山の風情を守りたい気持ちでかやぶき屋根を継承してきました。


かやぶき屋根の室内で海外からのお客様に抹茶を振る舞い、大変喜んでいただきました。


世代や国を越えて訪れる人々の心を癒し、懐かしさや温もりを与える力があります。このかやぶき屋根を未来に受け継ぐことは、私たちが400年続く焼物づくりの伝統を守り、次世代へとつないでいきたいと願う思いと通じるものがあります。かやぶき屋根を守っていくことでかやぶき職人の技術と知識や、その担い手を次世代に引き継ぐ一助となることが私たちの大切な役割です。
そうして、皿山の風情、小石原の魅力、日本の美しさを守って行きたいと考えています。

①かやぶき屋根の魅力と、かやぶき屋根保存継承の思いや課題を知ってもらう。
日本最古の伝統建築様式の一つで、自然との調和が美しい価値ある存在です。高価な維持費や茅葺職人の減少などの問題から存続が危ぶまれています。
②これまでにない保存活動の仕組みを作る。
保存活動を参加型にしたり実際に立ち会える見学型にするなど、みなさまとの持続的な保存のためのアイデアを考え、できることから実行していきます。
③小石原に残る数少ないかやぶき屋根の保存継承と地域活性化。
保存活動が地域の活性化や観光資源につながる役割を担います。
④かやぶき屋根保存活動を通じて、職人の技術とその価値を多くの人に伝える。
伝統の継承には高い技術と知識を持つ職人の存在が欠かせません。その存在を人々が認知し、関心を持つことも伝統が継承される大切な要素です。




【事例写真提供 株式会社クボイ建設】
燻蒸作業の様子


約60年前のかやぶき屋根修繕の様子
約60年前の民陶祭(現在の民陶むら祭の原型)
故郷の美しい焼物の里小石原には、数少ないかやぶき屋根が今も残っています。
“ただ、ただ、風情を残したかった”
と言う、祖父の思いと地域の原風景を次世代にしっかりと繋げていきたいと考えています。そして、かやぶき屋根を守ることは、かやぶき職人の技術の継承や、その担い手となる人々を支えていく重要な役割に繋がると考えています。また、自然との共生や循環を実感し、自然保護の意識を高める機会を持つことができます。代々の人への恩、出会いへの恩、地球に対する恩が後世へと循環し続けてほしいと願っています。みなさんと心を込めて、この美しい記憶を未来へ受け継いでいきたいと考えています。
2017年7月、かやぶき屋根の老朽化と維持費の課題から、高取八仙窯では瓦葺屋根への改修工事を予定していました。しかし、7月5日から6日にかけて発生した九州北部豪雨で被害を受けます。
敷地内に52トンの土砂が流れ込み、かやぶき屋根は深刻な雨漏りに見舞われました。屋根は耐水性を完全に失い、雨水は壁を伝い、商品には水が溜まる事態になりました。
夜中に雨が降ると店に向かい、桶やブルーシートを広げる生活が続きました。その頃東峰村にはもっと深刻な被害に苦しむ方がいたので、疲労困憊になりつつも自力での作業を続けていました。
そんな中、奇跡的な巡り合わせが訪れます。
土砂を重機で取り除く撤去作業のボランティアとして訪れた方が、かやぶき屋根工事を手掛ける株式会社クボイ建設の会長、久保井伸治さんでした。久保井さん自身も豪雨の際に濁流に遭遇し、一時「行方不明」と報道されるほど危険な経験をされていました。
そんな中、東峰村の見知らぬ村民に助けられたことへの感謝と恩返しの気持ちとして、村でのボランティア活動を行い、その活動の中で高取八仙窯に出会ったのです。
さらに驚くことに、久保井さんと父は約30年も前に日本三大修験山の一つ英彦山神宮の儀式に関係して顔を合わせたことがあり、お互いに「お会いしたことありますよね」と偶然の巡り合わせとなったのでした。
英彦山神宮

そうして、かやぶき屋根の現状を目の当たりにした久保井さんは復興を願い、茅葺文化の保存と地域活性化への願いを父に熱心に語りました。その思いに心を動かされた父は決断。当初予定していた瓦ぶきへの改修計画の中止を決め、私たち家族はかやぶき屋根の保存とその文化を継承する道を選びました。
この決定を受け、瓦ぶき計画の着工を目前に控えていた株式会社林建装の社長さまは事情を深く理解し、既にかけた時間や費用をすべて白紙に戻してくれました。そして私たちの決断を心から温かく応援くださったのです。
困難な中での助け合い、文化を守ろうとする意識、理解と思いやりが結びついた出来事でした。
こうして、私たちは久保井さんとともにかやぶき屋根復興への歩みを進め、「阿蘇茅葺工房」の職人さんや多くの協力者の皆さんの支えをいただきながら、2018年5月15日、修復を無事終えることができました。
皆様の善意とご協力により900万円程の費用で収めることができたことに深い感謝の気持ちでいっぱいです。
あれから7年が経とうとしています。
この間、例年の大雨や災害、さらにコロナ渦など、私たちの生活や地球環境が大きく揺らぐ出来事が続く中で、かやぶき屋根の保存活動を実行に移せずにいました。
阿蘇茅葺工房の大将が提案してくださった「毎年、家族や関心のある方々とともにかやを刈り取ってストックする」という事、久保井社長の「小石原の観光資源として地域の活性化に繋がってほしい」という素晴らしい考えを実現させることが私たちの恩返しです。
毎年かやを自分たちで刈り取り、ストックすることで、最も大きな割合を占める人件費を抑えられるとともに、次世代へ継承するための基盤を築くことができます。
寿命を延ばすための燻蒸作業では、漂う煙と皿山地区の風情の調和を楽しんでいただける観光資源としての役割を果たし、かやぶき屋根に関心を持っていただけるよう、見学可能にしてみなさまをお迎えする事が大切です。
古き良き時代のやり方を、新たな方法で継承するためには、いつの時代も「人の力」が欠かせません。大雨や災害が続く中でも、人と自然が共生し、この美しい文化を未来へとつないでいくその一歩を、みなさまと今ここから始めていきたいです。


かやぶき屋根の修復完了翌日の2018年5月16日の朝日新聞筑豊版で、この復興について取り上げて頂いています。
https://kuboicom.co.jp/media/489.html
(株式会社クボイ > メディア紹介 ページへ)
かやぶき屋根を有する高取八仙窯の器をリターン(返礼品)としてご用意しています。
高取焼は江戸時代を代表する茶人、小堀遠州の「綺麗さび」と表現される茶の湯の美意識を受け継ぐ陶器です。独自の釉薬が生み出す深みのある色合いと端正な造りで、静かな趣と使いやすさが調和した器をご用意しています。
いただいたご支援は、かやぶき屋根の保存・継承のための活動、地域活性化に繋がる取り組みのために、大切に活用させていただきます。
その一環として、来年春先に実施予定の「燻蒸作業」の費用として活用します。その際に、ご支援者様や本プロジェクトにご関心のある皆様、地域の方々に声掛けして見学の機会を設ける予定です。
また茅葺屋根の定期的な部分補修を行うための費用にも充てさせていただく。
阿蘇茅葺工房さんのスケジュールに合わせて春〜秋の間で行う。
私たちのプロジェクトは、単なる建物の修復にとどまりません。この故郷に息づいてきた文化や心を未来へと繋げる使命を持っています。高取八仙窯のかやぶき屋根が多くの人々にとって心豊かになれる交流の場となるよう、皆様のご支援をお願い致します。一緒に日本の美しい伝統を次世代に残していきませんか。どうぞよろしくお願いいたします。

本プロジェクトはAll-in方式で実施します。
目標金額に満たない場合も、計画を実行し、リターンをお届けします。
最新の活動報告
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ご縁をいただいた皆様へー三世代作陶展のご案内
2025/09/08 07:30みなさま、お元気でお過ごしですか。あのとき応援してくださったお気持ちに支えられながら、日々製陶活動を続けています。茅葺の活動とは別になりますが、私たちの今の歩みを知っていただきたく、ご案内させていただきます。このたび、富山にて「高取八仙窯 三世代作陶展」を開くこととなりました。友人が撮ってくれた窯焚写真実はこの展示会は数年前から企画されていたもので、ようやくこうして実現できる運びとなりました。会期中は、父・祖父・兄・母、そして私が在廊いたします。祖父は現役90歳、元気に富山まで一緒に車で向かいます。おそらく後にも先にもない、三世代一週間在廊する展示会になるかと思います。また、富山市はニューヨーク・タイムズ紙で2025年に行くべき52か所の一つとして選ばれているそうですので、三連休の旅行を検討中の方は是非候補に入れてみてはいかがでしょうか。では、遠方でお運びいただけない方も多いと思いますが、富山の地でお会いできましたら幸いです。お越しいただけなくとも、「こんなふうに活動しているんだな」と心に留めていただけたら嬉しいです。これからも皆さまとのご縁を大切に、ものづくりを続けてまいります。暑い熱い窯焚作業 もっと見る
リターン制作の進捗について
2025/04/08 10:26春の光がやわらかく降りそそぐ小石原です。皆さまいかがお過ごしでしょうか。写真は梅の花が咲く八仙窯の茅葺屋根の風景です。現在、クラウドファンディングのリターンとしてお届けする高取焼の作品につきまして、4月より順次発送を予定しておりましたが、制作の最中である作品もございます。▲素焼前の状態(まるカップ)▲窯詰め中(おにぎり皿)一つ一つの工程を経て本焼、そして窯出しされ完成した作品から、丁寧に検品梱包を行います。準備が整い次第、ご支援くださった皆さまに、感謝を込めてお届けいたします。最後まで丁寧に仕上げてまいりますので、いましばらくお待ちいただけますと幸いです。どうぞ、引き続き温かく見守っていただけましたら幸いです。いつも本当にありがとうございます。高取由布子 もっと見る
小石原の冬、雪の皿山と薪ストーブの温もり
2025/02/06 16:08九州の北海道、小石原からこんにちは。今もなお降り続けている雪は一面を覆っています。皿山はまるで墨絵のように静かで美しく、雪の白がすべてを包み込む景色は柔らかい印象です。でも、その美しさとは裏腹に特に朝の冷え込みは厳しく、仏壇の花瓶の水は凍っていたりします…!子どもの頃は雪が降ると嬉しくて、寒さなんて気にせず夢中で遊んでいました。「雪が降ると大変だ」と言っていた周りの大人たちの気持ちが、今ならよくわかります。▼店舗前の雪掻きの様子そんな雪模様の中、薪ストーブの炎は心強く、工房をぽかぽかと暖めてくれ大活躍です。ただ、展示会のために制作中の大皿が急に乾いてしまい、変形することもあるのでこんな日は要注意。火の温もりと作品の管理を気にしながら、日程に間に合うよう今日もせっせと作業を進めています。〜最後の写真は、八仙窯のある皿山地区の雪景色。白銀の静けさに包まれた風景を、皆さまにもお届けします。〜 もっと見る













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