このアルバムの4曲目に収められる予定の「ママの初恋(DEMO音源の10:23からもしくはライブ音源の7:53から)」という曲の間奏にはハーモニカを入れようと決めてました。
この曲の物語は、私が90年に書いた「天安門にロックが響く」という小説のストーリーから派生しています。
90年に初めて北京に行った私は、まだ銃弾の痕が生々しい天安門広場に降り立ちました。
前の年に起こった天安門事件は、民主化を求める数多くの若者達の命を奪ったことを目の当たりに見てこの小説を書いたわけです。
地下クラブで「张楚(Zhang Chu)」というひとりのパンクスと知り合った私は、「演奏の場所も全部ファッキンガバメントのものなのでロックをやることが出来ない」という話を聞き、「じゃあ路上ライブをやれば?」と提案します。
当時のご時世ではそんなことをやった人間は中国にはいなかったので、「そんなことしたら殺されるかも知れない」ということになり、「じゃあ外国人だったら大丈夫なのか?」ということで、私が代わりに彼の曲を路上で歌おうということになりました。
その曲というのが、後に中国ロックの黎明期を飾ることとなる「蚂蚁蚂蚁(MaYiMaYi)」という曲、「俺たち中国人は蟻と同じだ。大きな足に踏み潰される」という過激なメッセージを込めた歌でした。
「マイマイマイマイ」というサビは、最後には「マビマビ(Fuck Your Motherの意)」となるんだと聞いて、「そりゃ中国人が路上でこれを歌ったら殺されるかもな」と思ったものでした。
その歌詞をピンインという中国語のローマ字表記で書いてもらい、「じゃあどこでやる?どこでもお前がやりたい場所で俺が代わりに歌ってやる」と言ったところ、彼は私にこう答えました。
「TianAnMen Square・・・」
脳天に衝撃を受けましたが、もう引っ込みがつかなくなった私は、勇気を振り絞ってギターを持って再び彼と一緒に天安門広場へと向かいます。
彼が側にいると、万が一の時に彼にも危害が加わるかも知れないので、「俺がひとりで広場に入るから、お前は他人の振りをして遠くから見ているように!!もし歌い終わっても無事だったらまたホテルの部屋で会おう」そう言ってひとりで広場に入りました。
銃弾の跡が生々しい英雄記念碑の前に腰掛けて、いざギターを持って歌おうとしても、周りにいる人達がみんな「密告おばさん」や「密告おじさん」に見えて足がすくみます。(当時は人民に密告を奨励していた)
結局蚊の鳴くような声でしか歌うことが出来ず、あまりに情けなくて涙が流れて止まりませんでした。
「俺はなんて情けない人間なんだろう・・・それに比べてこいつらはこの国でいつもこんな思いをしながらロックをやってるのか?・・・」
私は泣きじゃくりながら、当時練習していたハーモニカを取り出して、どうしても歌えなかった彼の曲をハーモニカで吹きました・・・
「天安門にロックが響く」という小説は、彼ら中国のロッカー達をモデルに、主人公を女性という設定にして作られています。
そしてその主人公は恋人をこの天安門事件で殺されてしまいます。
その後「ある愛の唄」というコンセプトアルバムを作ろうとなって、今度はこのアルバムの主人公の母親がこの女性ロッカーということにして、天安門事件で消えた初恋の話を、子守唄代わりに子供に聞かせるという「ママの初恋」という曲を作りました。
ですのでこの曲の間奏はどの楽器でもない、ハーモニカで入れたかったのです。
DEMO音源では私自身がつたないハーモニカを吹いてますが、やはり下手な人間が拙く吹くのよりは上手い人間が素朴に吹く方がよかろうというわけで、友人であるブルースハープの名手、西村ヒロさんにお願いして今回レコーディングとなったというわけです。
さて、そうなって来ると色々と「欲」が出て来ます。
8曲目の「中国のマドンナ」という曲(DEMO音源の21:39から、もしくはライブ映像の20:26から)は、主人公が中国に嫁いでゆくわけですが、この曲の詞の中にも「都ではいろいろあったけれどここには平和だけがある」とか「遠くから聞こえる大砲の音」とか、「ママの初恋」にリンクしている部分もありますので、当初間奏は中国の民族楽器でと考えていたのですが、急遽この曲もハーモニカでとお願いしました。
コンセプトアルバムは、このように使う楽器によって全体のストーリーを表現してたり、各曲がこのようにリンクして、「全部で一曲」のようなアルバムになります。
来週には中国の民族楽器、二胡や琵琶、日本人にはあまり馴染みのない「楊琴(YangQin)」という楽器もレコーディングします。
その時にはまたレポートしますのでお楽しみに〜