2018/09/11 16:18

メールインタビューvol.8ページは、ジャーナリス トの鎌田慧さんにお聞きしました。

なにかを始めるために

東京演劇アンサンブルとの最初の出会いは、拙著『自動車絶望工場』(73年)が出版されてなん年かあと、演出家の広渡常敏さんに呼ばれて、劇団に伺ったときだった。若い劇団員たちに自動車工場の話しをしたのだが、みな熱心で、好感があった。

広渡常敏(撮影:高岩震)


 大泉学園からバスに乗っていった記憶があるから、「ブレヒトの芝居小屋」ができたころだったのであろう。ブレヒトの芝居はみたことがなかったが、実はブレヒトは好きで、学生のころ、カネがなかったのに、白水社の戯曲選集全五巻を買ったばかりか、評論集『今日の世界は演劇によって再現できるか』(千田是也訳)も購読していた。
 演劇好きだから、というのではない、社会的な文学に関心があったからだ。
「ものを書く人間にとって大切なのは、だれにむかって真実をいうか、だれがわたしたちに真実をいうかということである」
「ひたすら、だれかのために、そのだれかがこれによってなにかを始められるように書かねばならないのだ」(「真実を書く際の五つの困難」)。
 それは、ルポルタージュを書く自分にとっても、重要な指針だった。「だれかが、なにかを始める」。そんな作品を書ければ、物書きとして冥利に尽きる、といえる。
 ブレヒトの芝居小屋、にうかがってから、芝居の案内などを頂くようになった。が、地方へいくことが多いし、ときには海外へもいったりするので、なかなか日にちが合わずうかがえない。
 ブレヒトやチェホフ、ウエスカーなど学生時代に好きな劇作家の作品が上演されるので、この劇団には親近感がある。余計なことかも、と思いながらも、ブレヒトの有名な『屠畜場の聖ヨハンナ』の上演をめぐって、品川屠場労組の人たちを紹介したりした。
 木下順二の『おんにょろ盛衰記』やいま、もっともアクチュアルな坂手洋二の『沖縄ミルクプラントの最后』などは印象的な上演だ。実はわたしは坂手洋二のファンでもある。
 残念ながら、演劇は年に数回しかみられない。そのほとんどが演劇アンサンブルなのは、ひとえにわたしの怠慢による。

『おんにょろ盛衰記』(1997年~2000年 作:木下 順二 演出:広渡常敏 撮影:高岩震)

『屠畜場の聖ヨハンナ』(2014年3月20日~30日  作=B.ブレヒト 構成=庭山由佳・小森明子 演 出=小森明子 音楽=かとうかなこ 撮影=松浦 範子)

『沖縄ミルクプラントの最后』(2017年3月9日~ 19日 作=坂手洋二 演出=松下重人 音楽=菊 池大成 撮影=松浦範子)