チョコレートの香りや奥深い味わいは、「カカオ豆の発酵」という工程から生まれます。タイ北部・ナーン県では、収穫されたばかりのカカオ豆をバナナの葉で丁寧に包み、5〜7日間かけて自然発酵させています。ただ置いておくだけではありません。毎日、人の手で豆をかき混ぜ、中心温度を温度計で確認しながら、お世話をする、まるで糠漬けの「ぬか床」を育てるような感覚です。この工程では、酵母や乳酸菌が活発に働き、豆の中に眠る風味が少しずつ引き出されていきます。香り、酸味、甘み、そして深み。チョコレートに欠かせないすべての風味が、ここで生まれるのです。発酵期間は、気候や豆の色・香りを見ながら、毎回少しずつ調整されています。それを可能にするのは、現地の生産者が持つ長年の経験と感覚。大量生産では決して真似できない、手仕事の技術です。カカオ豆を乾燥するためのビニールハウス発酵が終わると、ビニールハウス内で5〜10日かけてじっくりと乾燥させます。風通しをよく保ちつつ、天候によっては扇風機を回したり、ハウスの温度を調整したりと、ここでも細やかな管理が続きます。こうして約1か月の工程を経て、ようやくカカオ豆は日本へと旅立ち、私たちのもとでチョコレートへと生まれ変わります。一粒のチョコレートの背景には、自然と寄り添いながら育てられた物語と、人の手のぬくもりがあります。






