獄中作家・永山則夫の遺品をアーカイブとして公開し、次世代に継承していきたい!

永山則夫の遺品や資料をアーカイブとして整理・データ化を行い、Webサイトでの公開や展示会、研究会やトークイベント等を通して広く公開し、次世代に継承していきたい。

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現在の支援総額

2,305,500

92%

目標金額は2,500,000円

支援者数

114

募集終了まで残り

5

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永山則夫の遺品や資料をアーカイブとして整理・データ化を行い、Webサイトでの公開や展示会、研究会やトークイベント等を通して広く公開し、次世代に継承していきたい。

作家の吉岡忍さんより応援メッセージをいただきました!

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ある日、知り合いの編集者から電話があった。ノートに書いた原稿があるのだが、印刷所に入れるため、原稿用紙に書き写さなければならない、そのアルバイトをやらないか、というのだった。1970年の秋である。

私は反戦運動に明け暮れたあげくの、落ちこぼれ大学生。わけもわからず、神田神保町の古いビルにあった出版社を訪ねた。そこで手にしたのが、のちに『無知の涙』(合同出版刊)として刊行された永山則夫の自筆ノート10冊だった。

にぎやかで、騒々しい時代だった。ベトナム戦争、全共闘、アンポ闘争、3億円事件、大阪万博、ハイジャック事件、そして、何より高度経済成長のまっさかりである。日本は世界第2の経済大国、国民の9割が自分は中流だと思っていた。都会は高層のオフィスビルやホテルやマンションが続々建って上へ上へと延びる一方、地上ではミニスカート、ジーンズ、Tシャツ、ハンバーガーショップが流行って、どんどん軽くなっていく。

そんな世の中の景色に慣れ親しんだ目に、永山則夫が書きつけた文字群はクサビのように突き刺さってきた。貧困、家庭崩壊、集団就職で上京してからの転職と孤立と焦燥。私が書き写したのはノート2冊分程度だが、1行書くたびに、この景色の裏側にあるものをしっかり凝視しろ、といわれているような気がして、何度も鉛筆を放りだした(このとき同じ作業をした一人に、のちに『三国志』『論語』の翻訳と解釈で活躍した中国古典文学者、故・井波律子がいた。私のとなりで、彼女もくり返しため息をついていた)。

永山は4人を射殺した事件の弁明はいっさいしていなかった。犯行を悔い、なぜこんな事件を起こす人間になってしまったのかを必死で自問し、膨大な本を読んで学び、「私が自己を完全に理解する」ことをめざした。自分を客観的に分析しようとする苦しい自問自答から、「(この事件は)私が在っての事件だ。私がなければ事件は無い、事件が在る故に私が在る。私はなければならないのである」という認識に達した。

しかし、「なければならない私」がどんな家庭と家族関係のなかで生まれ育ったのか、その折々に何があり、「私」は何を感じ、思い、考えてきたのかについては、ノートからは十分に伝わってこなかった。永山がそれらを書き綴ったのはさらに10数年後、みずからの幼少年期を描いた小説『木橋』でだった(この小説が新日本文学会の文学賞を受賞したとき、私は同会文芸誌編集委員の末席にいた)。『無知の涙』で自分を客観視しようとした彼は、『木橋』にいたって主観に立ちもどり、無垢な主体を獲得した。

思えば、彼が一連の事件を起こしたのは、私が私であって、私でないような浮き足立った時代だった。彼ばかりか、世の中全部がそんな雰囲気に染まっていた。そして、その気配はいまも濃厚に立ちこめている。いま、この日本という捉えどころのない、しかし、どうにも窮屈な世の中は永山事件のころにはじまっていたのだ。

永山則夫のすべての記録は、だからこそだいじだ、と私は思う。別段、彼のためではない。私たちが歩んできた軌跡をふり返り、いま足踏みしている現実の意味を考えるための、それは最良のテキストであり、なまなましい宝物だからである。(吉岡忍)

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吉岡忍
作家。1948年、長野県生まれ。早稲田大学在学中にベトナム反戦運動に参加。ノンフィクション『墜落の夏』(講談社ノンフィクション賞)『日本人ごっこ』『鏡の国のクーデター』『M/世界の、憂鬱な先端』、小説『月のナイフ』などの著作のほか、テレビ番組でアフガン戦争や阪神・淡路、東日本等の災害を報道。第17代日本ペンクラブ会長。

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