
⑤移住への扉を開くワーホリ体験
mi-farさんの鳥取ワーホリ体験日記より
東京からの長旅は、初めて乗る特急「スーパーはくと」の車内からすでに特別な予感に満ちていた。木製シートと藍染カーテンが織りなす空間は、クールな外観とは裏腹に、まるで歴史あるホテルに滞在しているかのような心地よさ。この旅が、単なる休暇ではなく、私の人生に新たな章を開く「セカンドライフ」への序章となるかもしれない、そんな淡い期待が胸に広がった。鳥取駅の改札で再会したまるさんの笑顔は、見知らぬ土地への不安を温かく包み込み、この地での生活がすでに始まっているような感覚を抱かせた。
まるさんとの再会は、鳥取での生活を具体的に想像するきっかけとなった。かつて中野カルマで短期間働いた私を覚えていてくれただけでなく、ヘアゴムの切手や「前島密って知ってる?」という問いかけに、まるさんがこの土地で築き上げてきた個性豊かな人生の一端を感じた。宿への道中で聞く鳥取の気候や雨を避けるためのアーケードの話、私のピアニカを見てニヤリとするまるさんの表情は、この地での日常が、私の想像以上に豊かで、クリエイティブなものになり得ることを示唆していた。
初日の夜、まるさんが初めて鳥取に来た時に連れて行ってもらったという居酒屋「北海道」での食事は、単なる腹ごしらえ以上の意味を持った。新鮮なひらまさ、コリッコリのイカ耳、名物の分厚い卵焼き、そして大山ミルクソフト。鳥取の豊かな食の恵みを堪能しながら、まるさんが鳥取に移り住み、カフェを始めた経緯、健康への意識といった深い話を聞く時間は、まるで移住の先輩から人生の指南を受けているようだった。まるさんの生き方そのものが、新しい人生を模索する私にとって、大きなヒントを与えてくれた。
tannmaでの生活は、鳥取への移住を具体的にイメージさせるものだった。畳敷きの部屋、床の間、そして歴史ある旅館のような趣きは、都会の喧騒から離れた穏やかな暮らしを連想させた。雨音を聴きながら眠りにつく夜は、心身を深くリラックスさせ、この場所が持つ癒しの力を実感した。tannmaの2階の整理整頓作業は、まさに「暮らし」の体験そのものだった。山積みの雑誌や本を分類し、本棚を移動させる中で、この空間が持つ可能性、そして私がこの場所で創り出せる価値を実感した。作業中に見つけた映画のパンフレットや画集は、この空間の歴史を物語り、この場所に「住む」ことの豊かさを感じさせてくれた。
このワーホリは、仕事とホリデーのバランスが絶妙だった。ワーホリ2日目の三徳山投入堂への登拝は、単なる観光ではなく、梶谷さんという新しい友人との共同作業であり、心身を鍛える挑戦でもあった。世界一危険と言われる国宝へ、互いに声を掛け合いながら登り詰めた達成感は、この地で新たな挑戦を始める勇気を与えてくれた。地元のスーパーSマートでの買い物は、鳥取の豊かな食文化を日々の生活に取り入れる喜びを教えてくれた。特に、鳥取は「和菓子が豊富」という発見や、「とうふ竹輪」「白バラ牛乳」「王秋梨」といった特産品との出会いは、移住後の食生活への期待を高めた。
地域での出会いは、移住後のコミュニティ形成への不安を払拭してくれた。不真面目モーニングで、早朝から手作りの朝食を振る舞ってくれるおばあちゃんたちや、学生、インターンの方々と囲む食卓は、鳥取の温かい人情に触れる貴重な機会だった。ハレハレケケケ市場やお袋市でのライブパフォーマンスは、私の表現活動が地域に受け入れられる喜びを教えてくれた。お客様とのコールアンドレスポンス、投げ銭、そして温かい食べ物の差し入れは、この地で生きる人々との深い繋がりを実感させた。まるさんが「鳥取の人はみんな何かくれる」と言っていたが、その言葉通り、私は鳥取の人々の温かさに包まれていた。
滞在終盤、砂鳥ビル1階の「夜とや.bar」での交流は、移住という選択肢をより具体的に考えるきっかけとなった。映画好きの公務員の方や、秋田から鳥取に移住し、シェアハウスに住んでいる方との会話は、鳥取での新しい人生の多様な可能性を示してくれた。彼らの話を聞く中で、鳥取が持つ移住者への受容性や、新しいコミュニティを築きやすい環境があることを実感した。
最終日の鳥取砂丘訪問は、まさにこのワーホリ体験の象徴だった。昨晩の真っ暗闇の裏砂丘での貴重な経験とは一転、朝日が輝く正面入り口からの砂丘は、雄大で清々しく、私の心に深く刻まれた。まるさんの運転で空港へ向かい、17キロを超える荷物を預けて東京へ向かう飛行機から、ばっちり見えた鳥取砂丘は、この2週間の濃密な「玉手箱のような旅」の思い出を鮮やかに蘇らせた。
このワーホリは、単なる仕事体験ではなく、鳥取という土地が持つ「セカンドライフ」の可能性を教えてくれた。まるさんの新しい挑戦である「トリんくまんまる」への協力や、中野カルマの歴史を振り返る展示の資料整理は、私自身の役割や貢献できることを見つける機会となった。地震対策として本棚を固定してくれた本間工務店の方のように、地域には温かくサポートしてくれる人々がいる。鳥取ふるさとワーキングホリデーは、新しい生き方を模索する人々にとって、地域に深く根差し、自己を再発見し、温かい人々と繋がりながら、もう一つの人生を豊かに生きるための、最高の第一歩となるだろう。





