はじめに
私たちは建築を学ぶ大学院2年の大塚と喜井です。
これまで日本橋横山町を舞台に、「アノビルのこと」展を2期にわたって開催してきました。
・第1期「抽象化への探求」では町の断片を観察し、再構成する展示を行いました。
・第2期「断片から全体へ」では断片の連続で全体を把握するときに起こる「空隙」をテーマしました。
そして、9月27日から始まるのが、第3期「読む建築展」です。建築を読むという行為そのものを体験できる展示を目指しています。
私たちはこの3期分の展示を「本」という形で残したいと考えています。
展示は、その場に来てくれた方々と建築やこれからの町、かつての町について話す貴重な時間でしたが、会期が終われば跡形もなく消えてしまいます。だからこそ、図面や写真だけではなく、リサーチ、プロセス、展示の様子も一つの建築と捉え、本に記録したいと思っています。
第1期展示会の様子
私たちの興味
建築をかたちづくる時、何かを知覚するとき、私たちはいつもどこか世界を切り取っている。見えているもの全てを扱うことは出来ず、何を選び、どう関係づけるかによって空間は構成される。
私たちにとって、建築とはそうした構成の過程そのものであり、それは同時に抽象化の営みでもあると思った。町に新たな建築が建つとき、独立した個性を放つだけではなく、隣り合う建物や街路との関係の中で、思いがけない抽象性を帯びて立ち上がってくる。抽象化とは、単純化や曖昧さのことだけではなく、関係性の中で現れる秩序の形を見つけだすことで、複雑でかつ具体的な抽象度を保つ方法を一つの建築を通して見つけ出したいと思った。
私たちの興味
アノビルとは
アノビルは、日本橋横山町のある一角を仮想敷地に選定し提案した建物である。敷地周辺6棟のファサードにごく近い視点から、凹凸や目地、汚れ、窓周りやサッシといった断片を切り取り、つなぎ合わせた。そこには形式や様式として整理される以前の、しかし確かに建築を成り立たせているものとして惹かれていったものが存在し、それはときに過剰で無意味にも見えるような細部の装飾や、定型に回収されにくいかたちを持っていた。
そうした他者性をもつ断片をそのまま引き受けながらも、一つの立面として再構成することで、町の秩序を新たに発見しようとした。それがアノビルである。
個々の断片がどのように全体や周辺とつながり、個々の断片がどのように一つの断片として自立するのか。そしてどのように町の見方を変えてくれるのか。普遍的な形式ではなく、まだ構成の途中にあるようなかたちを、私たちはアノビルの中で浮かび上がらせたい。
そして、その構成の中に、どのような関係を見出し、知覚を探求することができるのか、展示会を通して私たち自身も模索し続けたいと思っている。
アノビル模型
読むということ
スマートフォンをスクロールするたび、様々な情報や文字に触れ、意味を得ようとする。箇条書きにまとめられた文、要約された結果、大きな文字とSNSの広告。無意識に目に飛び込んでくる文字と情報は何を教えてくれるのだろう。
読むことはとても面倒なことで、ゆっくりとしか進まず、時間がかかる。すぐに結果にはたどり着けないし、そこに結果があるとは限らない。それでも読むことを軽視することは考えることを軽視することにつながってしまう。
時間をかけて文字を追い、自分の中に持ち帰り、経験や自分自身と対峙する。そうすると、いつも通り生活する中で思いがけず本質に出会ったりする。そういうところが「読むこと」にはある。
建築を読むということ
建築もまた、完成写真やドローイングが情報として流れ、ただ消費されていく。背景や思考は省かれ、似たような映える建築だけが並ぶ。けれども建築は情報ではないし、読むことも情報を集めるだけの行為ではない。
読むことは、静けさの中で思考の器をつくり、出会うほどのなかった人と対話することだ。だから、第3期の展示は建築を読解するための場を作ろうと思った。
模型やドローイング、プロセス、言葉を読むことで建築を深く知る。一つ理解すれば全体はぼやけ、また読み直さなければならない。その往復の中で、建築や町を能動的に知ろうとするまなざしを作りたいと思った。
第3期 読む建築展
今、製作しているのは大きなアノビルの模型と4つの視点から綴った小冊子、そして読むための椅子です。
小冊子サンプル
絵画の筆の後を追うように、サッシの重なりやタイルの細部を観察する。その大きな模型と照らし合わせながら本を読むことで、理解は揺れ動き、また次の読み直しへと導かれる。遠回りのようなその可逆的な行為が、建築や自身の理解を深めてくれる。
第三期に向けた大きな模型製作中
会場には「重図シリーズ」として4脚の椅子を置きます。複数の立面図を重ねて形をつくる発想は、坂田一男の《コンポジション》を参照しながら得たものです。図が交差することで複雑な造形が立ち上がり、4脚の椅子は同じ一つの立面を共有しながらも、それぞれ異なる奥行きを持つことで、かたちは一つに定まらず、座るたびに違う見え方を浮かび上がらせます。
椅子のドローイング
椅子のサンプル
このプロジェクトで実現したいこと
・展示の記録を本に残す
展示を通して積み重ねた思考や議論、アノビルが作られるまでの過程をアーカイブとして記録に残す。建築家の先生から「展示は本に残してこそ完成する」と教わり、今回の出版を決意した。
・来られなかった人にも体験を届ける
平日開催が多く、「行けなかった」という声をいただいた。本を通じて展示を追体験できる機会を作りたい。
・アートブックとして仕上げる
デザイナーの友人と協力し、紙質や綴じ方にこだわっている。基本仕様では1冊2000円程度だが、ご支援が集まれば質を高めたアートブックを制作。
・第3期展示の成功
今回は「読む」ことをテーマに、大きな模型や4冊の特性小冊子、そして読むための椅子を制作している。第1・2期では自費で実現していたが、今回は規模が大きく製作費を支援して頂きたいです。
アノビル本について
このプロジェクトで制作する「アノビル本」は第1期から第3期までの展示を記録したものです。
9/24から始まる第3期「読む建築展」では1・2期をまとめたデモ本を会場に置く予定です。
本書はリサーチから設計プロセス、展示プロセスも含めて一つの建築と捉え、項目ごとに分割せず、アノビルが立ち上がるまでを時系列に配置。時間の経過と思考の変化を軸にした行動の記録として構成される。各要素は異なる紙・サイズ・印刷にすることで情報の階層を緩やかに感じる形にし、それぞれの情報は紙面に隠されたグリッドが制御する。組ねじによる製本は動的な展示や思考を一時的に留めておくことを連想させる仕様として採用し、これから行われる第3期の展示も追加記録できるものとして発送した。
アノビル本サンプル
〈本の内容〉
・判型 A4判/フルカラー
・ページ数 100ページ前後
・内容 「アノビルのこと」第1期~第3期の記録、論考、写真、図面、ドローイング、テキスト
・収録予定 第3期「読む建築展」で製作した小冊子の一部
資金の使い道
・本の印刷・製本費(50冊を想定) 約10万円
・リターン発送費 1万5千円
・ポストカード・ハンドアウト製作費 1万円
・展示用模型費 6万円(すでに支出)
・椅子製作費 4万5千円(すでに支出)
・展示準備・運搬費 2万
・CAMPFIRE手数料(17%) 約5万
リターン
・応援のみ 1000円
・学生限定 アノビル本1冊 3000円
・一般向け アノビル本1冊 3500円
・本+グッズ アノビル本1冊+ポストカード+展示写真セット 5000円
・本2冊 アノビル本2冊 8000円
・本+小冊子 アノビル本1冊+第3期の特製小冊子4冊 12000円
・本+椅子 アノビル本1冊+椅子1脚(限定4脚) 35000円
最後に
少しでも多くの方に質の高い本を届け、建築に触れるきっかけをつくりたい。そして、この第3期の展示を成功させたい。みなさまのご支援を心よりお願い申し上げます。
*このプロジェクトはAll-in方式で実施します。目標金額に満たない場合も本を制作し、リターンを必ずお届けします。応援よろしくお願いします。
仲間が模型製作を手伝ってくれている様子
最新の活動報告
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模型作りについて
2025/10/19 23:05第三期「読む建築展」では、1/20スケールの高さ約1.5mの大きな模型を制作しました。絵画を読み込むように、建築を読解してほしいと思い、スケールをあげ、照明によってより凹凸が際立つように白い模型にしました。私の身長よりも大きいです笑模型と背比べこの模型は研究室の同期や後輩が手伝ってくれ、やっと立ち上がったもので、完成した瞬間、見たことのない大きさの迫力の模型と、みんなの努力、優しさに涙が出そうでした。素敵な仲間に恵まれたなあ。みんな、本当にありがとう。手伝ってくれてます組み立て前の模型あと少し!組み立て中かっこいい模型!ありがとう! もっと見る「読む建築展」第3期、無事終了しました。
2025/10/06 22:002025年9月27日から10月4日までの一週間、日本橋馬喰町にて「アノビルのこと 読む建築展」を開催していました。おかげさまで、無事に第3期の展示を終えることができました。展示会に足を運んでくださったみなさま、本当にありがとうございました(^^)展示の様子1. 模型製作を手伝ってくれた仲間今回は、watageさんのパブリックライフ展や都立大の建築展との合同展示ということもあり、パブリックライフ展を訪れた方々がふらっと立ち寄ってくださったり、都立大の展示を見に来た学生さんや建築家の方が覗いてくださったりして、第1期・第2期よりもさらに多くの方に見ていただくことができました。これまで話したかったけれど機会がなかった人、もう一度お会いしたいと思っていた人、出会うことのなかった人、同じ建築を学びながらも深く語り合ったことのなかった仲間など、さまざまな人と出会い、新たな関係を作ることができました。展示の様子2. 都立大の展示帰りに立ち寄ってくれた建築家の先生と私たちの大先輩展示の様子3. 一緒に建築を学ぶ仲間たち展示の様子4. お声がけしてお越しいただいた建築家の先生と所員さんたち、都立大の学生建築を通して町や人、建築について一緒に思考を交わす時間を持てることこそ、展示会を行う意味だと改めて感じました。今回の展示でいただいた多くの言葉や助言をもとに、第1期から第3期までをまとめた書籍の制作を進めていく予定です。修士論文・修士設計と並行しての作業になるため、ゆっくりですが、素敵な本をお届けするので楽しみにお待ちください!展示会の様子や、本の制作状況も少しずつこちらで報告していきたいと思っています。最後に、クラウドファンディングでご支援くださった皆さま、心より感謝申し上げます。みなさまのご支援によって、展示というかたちで考えを共有し、多くの出会いと学びを得ることができました。これから制作する本を通して、その時間を少しずつお返ししていけたらと思います! もっと見る





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